内に巣食う『邪悪』
「わたくしは、既に覚悟できております。ですから、この場所・・わたくしの今世の始まりである『生命の泉』にお二人を連れてきたのです。・・敬愛する女神様!さあ!世界の為に最後の『黒の魔導結晶』を浄化してください!そして、どうかわたくしに安らぎをお与えください!!」
「・・そんなこと、できるわけないじゃない!!」
「そ・・そうよ、リフィアス!!早まる必要はないわ!!ハーティルティア様のお力があれば、きっと他にいい方法があるはずよ!!」
「・・それに・・今のところ『エメラダ』以来、新たな『邪神』は出現していないわ!!ということは、もう既にこの世界に存在する全ての『邪神』を滅ぼし終えているかもしれない!!」
「『黒の魔導結晶』だってリフィアスの身体に存在するもの以外は全て私が浄化したわ!!だから、きっと大丈夫よ!!」
「・・そうでしょうか??」
リフィアス自身もハーティの提案に決意が揺らいでいるのか、自信のなさそうな視線をハーティへ向けた。
「もちろんよ!大丈夫に決まっているわ!!」
そんなリフィアスに、ハーティはさらに力強く励ましの言葉をかけた。
「でも、リフィアスは五千年以上もの間、『邪神』復活に恐れながら生きてきたのね・・・・誰にも相談できず、たった一人で抱えて・・さぞ辛かったことでしょう?そんな思いをさせて本当にごめんなさい・・」
そして、ハーティはリフィアスの方へ歩み寄ると、彼女を力いっぱい抱きしめた。
「敬愛する主様!!違うのです!わたくしは『邪神』を抱えて生きていく事が、主様から示された使命だと思って生きてきました。そして、今こうして主様に全てをお伝えすることができた。それだけでわたくしは本当に報われたのです!!」
リフィアスはハーティのお詫びの言葉を否定すると、その潤んだ瞳でハーティを見つめながらハーティを抱き返した。
「リフィアス・・・」
その視線につられて、ハーティもリフィアスへと視線を合わせる。
そして、それぞれの潤んだ美しい双眸にお互いの顔が映り込んだ、その時・・・。
ドクン・・・!!
突如、ハーティは自分の心臓が大きく跳ねたような感覚を味わった。
そして、胸の中から言いようのない不快な黒い靄が湧きあがっているような不快さを感じ始めた。
直後、リフィアスの顔を映していたハーティの瞳から光がなくなり、その眼差しが濁り始めた。
「敬愛する主様・・・?」
そんな視線の変化をリフィアスが感じて、思わずハーティへと問いかけた・・その直後のことであった。
チュウウウ!
「むぐぅ!?」
虚ろな眼差しになったハーティはリフィアスの後頭部に手を添えると、そのまま彼女に激しく口づけをした。
「え!?ハーティルティア様!?突然何を!キ・・キ・・!」
リリスは目の前で起こった出来事に理解が追い付いていないようであった。
「むぐ!?むご!?」
そして、リフィアスは思いのほか強いハーティの力に為す術もなく、顔を赤く染め上げながらハーティにされるままとなっていた。
ズズズ・・・!!
「・・・っ!あれは!!」
しかし、その口づけを傍で見ていたリリスは、ハーティの口から黒い霧のようなものがリフィアスへと流れ込んでいるのを目撃していた。
そして、その黒い霧がリフィアスに飲み込まれていった瞬間、リフィアスの双眸が『ガッ!』と開かれた。
ドン!!
それから、リフィアスはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、今まで抱き合っていたハーティを突き飛ばした。
「っきゃ!?」
リフィアスに突き飛ばされて尻餅をついたハーティは驚きの声をあげる。
そして、ハーティはその衝撃で正気を取り戻したようであった。
「リフィ・・アス??」
ハーティを突き飛ばしたリフィアスは、見るからにいつもとは全く異なる雰囲気を纏っていた。
ハーティとリリスがリフィアスの様子を見て困惑する中、彼女はゆっくりとその口を開いた。
「憎たらしい『女神』だけど・・今回ばかりは感謝しないといけないねぇ・・『女神ハーティルティア』!!」
リフィアスから発せられる声は普段の美しいものだったが、綴られる言葉からは言いようのない邪悪さが含まれていた。
「・・・あなた!!!もしや!?」
そして、嫌な確信を得たハーティはリフィアス自身ではなく、その言葉の主へと声をかけた。
「あのときは、よくもまあ散々な目に遭わせてくれたじゃあないか!このクソビッチが!!」
「エメラダ・・・どうして!?」
ハーティが狼狽えている様子を楽しそうに眺める『エメラダ』はにやりと口を歪めた。
「おやぁ?もしかして忘れてしまったのかしらぁ?この『リフィアス』に接吻する前に、その憎たらしい唇を奪ったのは誰だったのかしらぁ?」
エメラダの言葉を聞いたハーティの脳裏に、彼女と初めて戦ったときの一幕がよぎった。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
「グアァァァ!グルゥアアアア!グルルル!」
「うーん・・まだ早かったみたいねぇ。思ったより『黒竜』の力が強かったと言う事かしら?」
「んもう、ペットはペットらしくしていればいいのに・・困ったものだわ・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「残念だけど、『女神ハーティルティア』を嬲るのはまた今度にするわぁ」
「まっ・・て・・えめ・・ら・・」
「た・・だ・・し!あんたに一つ、わたくしからのプレゼントよ」
「うーん、本当はこんなこと、私の趣味じゃないんだけどね」
・・・・・・・。
・・・・・。
「やだっ!こんなにギャラリーがいたら恥ずかしいわあ!」
「じゃあ、行くわよぉ」
グイッ!
「むぐうっ!?」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「・・っ!あの時の口づけ・・!」
「あはは!!そうそう!あのとき、わたくしの一部をクソビッチに送り込んだのよぉ!!」
「あのあと、わたくしの本体を散々な目にして、さぞ喜んだんじゃあない?・・だけど、残念だったわねぇ??」
「本当はてめぇの憎たらしい肉体で力を付けたら、その肉体を犯しつくして乗っ取ってやろうと思ったんだけどねぇ・・?流石は『女神』というか?そこまでは及ばなかったわぁ」
「だ・・か・・ら、わたくしはのうのうとしている『ハーティルティア』の中でずーっとチャンスをうかがっていた、というわけ!」
『エメラダ』はリフィアスの身体を操り、その手を開いたり閉じたりして感覚を確かめると再びニヤリと嗤った。
「だけど、この『リフィアス』が『黒の魔導結晶』の在処をご丁寧に教えてくれて助かったわあ!こっちは探す手間が省けたってものよ!!」
「本当に感謝するわあ・・じゃあ、さっそく目的の物を頂くとしようじゃあないか!!」
『エメラダ』はそう言うと、リフィアス身体を操って右手の指先を揃えながら、その腕を横に上げて伸ばした。
「待って!エメラダ!!あなた一体、何を!?」
ハーティは『エメラダ』の不審な動きを見て、慌てて声をかける。
「どうやら『リフィアス』は死ぬ気満々だったみたいだし、いいわよねえ?」
「思えば『神界大戦』では『リフィアス』も滅ぼし損ねていたし、ちょうどいいわぁ・・!」
「っ!!!もしや・・・!?やめなさい!エメラダっ・・・!!!!」
ズブシュウウウウウ!!!!
「うふふぅ・・・ゴブフッ!」
しかし、ハーティの声も空しく、リフィアスの右手は自らの下腹部へと深く突き刺さっていった。




