『リーフィア』の晩餐会2
「ぐっ!」
「ああ・・神々しい・・!」
「ふつくしい・・!」
気づけば、その場にいた『エルフ』達が次々とグラディウスのように膝をついて悶絶していた。
「おおぉぉう・・・・」
そして、リフィアスは言葉にならない声を上げながら身体を小刻みに振るわせていた。
「リフィアス?ちょっと、あなた女王として人様に見せられない顔に・・・」
「敬愛する主様あぁぁぁぁ!!」
むにょん!
「ぶごフッ!!」
ハーティは最後まで言葉を発する前にその豊満な胸に包まれた。
「はぁぁ!あるじさまあるじさまあるじさまあぁぁ!すぅぅぅはあはあ!クンカクンカクンカ!すうはあすうはあ!」
「むごお!ふごふご!」
ハーティは自分の顔面からリフィアスを引き剥がそうとするが、興奮したリフィアスが無意識に『ブースト』を発動しているようでなかなか剥がれない。
それこそ本気を出したらいい話なのだが、加減をどうしたらいいかわからないハーティは、仕方なく再会した時と同じようにペシペシとリフィアスの腕にタップするしかなかった。
「リフィアス様、ハーティルティア様が苦しそうです!」
致し方なく、ユナが無礼を承知でリフィアスをハーティから引き剥がした。
「あんっ!」
ハーティから引き剥がされたリフィアスは頬を上気させながら名残惜しそうな声をあげた。
「・・リリス様も大概でしたがリフィアス様も危ないですね・・まあ気持ちはわからなくもないですが・・」
ユナは額の汗を拭いながら呟いた。
「ああ、わたくしとしたことが!敬愛する主様があまりにも美しすぎるので、我を失ってしまいましたわ」
リフィアスは今だに上気している頬に手を添えながらため息を吐いた。
「それにしても、グラディウスさんが言っていた『エルフの掟』と言うのは何なの?」
「ああ、その事ですか?敬愛する主様は『エルフ』が敬虔な『女神教』信者であるのはご存知ですよね?」
「それは・・まあ。だけど『エルフ』独自の教義で信仰していると聞いたことがあるわ」
「はい、わたくし達『エルフ』が信仰を捧げる『女神教』においては『女神ハーティルティア像』や絵画に描かれた『女神様』に対して祈りを捧げることを固く禁じているのです。それは、この『リーフィア』建国の時にわたくしが『エルフの掟』として定めました」
「どうしてそこまでして『私の像』を作ったらいけないの?」
ハーティの問いにリフィアスは然もありなんと言う様子で答えた。
「そんなの、敬愛する主様の至高で唯一無二である美しさを、たかが彫刻や絵画ごときで再現するなど不可能だからです。不完全な主様に祈りを捧げるなど、わたくしにとっては冒涜以外のなにものでもありませんわ!」
「わたくしは五千二百年ぶりに主様のお姿を拝見して、改めて私の選択が間違いではなかったと痛感しましたわ!」
「え・・そんな理由?」
ハーティはリフィアスの考えに若干引いていた。
「因みに、こっそり『女神像』を手に入れたり、彫刻した『エルフ』はどうなるんですか?」
リフィアスはクラリスの質問に不敵な笑みをしながら答えた。
「偶像崇拝は『エルフ』にとって最大の禁忌です。破ったものは『掟』に従って『リーフィア』から追い出された上で二度とこの地を踏むことは許されなくなります」
(シグルドはそこまでの覚悟で『はぐれエルフ』になった訳ね・・)
ハーティが帝都で知り合った『エルフ』のことを思い起こしていると、既に会場入りしていたニアールとナラトスがやってきた。
ニアールは濃紺のロングヘアをハーフアップに結い上げ、サテン生地の紫色をしたエンパイアラインのドレスを見に纏っていた。
対してナラトスは漆黒のロングヘアに合う全身黒色のスリーピースを着こなしており、襟や袖口には金糸で緻密な刺繍がなされていた。
そして、その胸元を演出するクラバットは、ニアールのドレスと同じ紫色であった。
ニアールをナラトスがエスコートする形で現れた二人は、誰が見ても特別な関係に見えた。
「っく!なんだかお似合いな二人で悔しいわ!」
クラリスが無駄に悔しがる中、ナラトスがリフィアスに話しかけた。
「リフィアスよ。会場の皆が呆けているぞ?事態を収拾したほうがいいのでは?」
「それもそうですわね。わたくしとしてはいつまでも主様を愛でたいのですか、晩餐会を始めなければなりませんものね」
「愛でたい・・」
「では、気を取り直して敬愛する主様。どうぞ壇上へ」
そう言いながら、リフィアスはハーティの手を取った。
「へ!?いや!あそこは玉座でしょ!?リフィアスの席じゃないの!?」
咄嗟に指摘したハーティの言葉を聞いて、リフィアスはこてりと首を傾げた。
「え?玉座ですよ?ですから、あそこはわたくしの主である敬愛する主様の席ですよ?わたくしは元より主様と再会するまで『代理』で『リフィアス』を治めていたにすぎないので」
「いやいや!私はただ『邪神』から世界を守る為に旅をしている冒険者よ!?いきなり一国丸ごと任されても困るわ!」
「うふふ、主様が『ただの冒険者』とはお戯れを。この世界で主様のことを自分より下に置く人間が、一体何人存在するでしょうか」
「・・うぐ!でも無理なものは無理よ!私には荷が重いわ!」
ハーティは必死にリフィアスの話を断ろうとしたが、リフィアスは尚も食い下がってきた。
「大丈夫ですわ。敬愛する主様は『神界』であっても『君臨すれども統治せず』であったじゃないですか」
「ですから、『リーフィア』でもややこしい政は、わたくしや側近に任せて頂いたら良いのです」
「どのみち敬愛する主様程の『神格』であれば、勝手に世界がついてきますよ。主様は『神界』の時代から今まで全ての頂点に立つ運命なのです。もはや主様の意思でどうこうできるものじゃありません」
リフィアスの言葉を聞いてハーティはがっくしと項垂れた。
「私はただ普通の女の子として平穏に生きたいだけなのに・・」
「うふふ、それはどう考えても不可能ですね」
「ハーティが『普通の女の子』とか片腹痛いわ!」
「無理ですね」
「まあ、無理であろうな」
「絶対無理ね」
皆に否定されたハーティは涙目になった。
それに畳み掛けるようにリフィアスがハーティを説得する。
「それに、敬愛する主様が上に立っていただかないと、皆が立場がなくなって困ります。この世界は主様が頂点に立って頂くのが一番丸く収まるのです。というわけて、えい!」
リフィアスは自分の頭に戴いたティアラを手に取ると、そのままハーティの頭にひょいと載せた。
「ああ!」
「今『リーフィアの冠』は敬愛する主様に返還されました。証人はこの場に集まる国の要人の皆様です。この瞬間をもって、『エルフの国リーフィア』は『女神の国リーフィア』となります!」
「「「ワアアアア!!」」」
「「「女神様万歳!!」」」
パチパチ!!
「「「女神様万歳!!」」」
ただ晩餐会に招待されただけだと思っていたハーティは、リフィアスによって強引に一国の主に祭り上げられてしまった。
そして、歓声の上がる会場の中、リフィアスが一瞬曇った表情になったことに気づく者は居なかった。




