『リーフィア』の晩餐会1
「・・・久しぶりにドレスを着たわ」
「そう言えば『イラ』との戦いで冒険者の服に着替えた時以来ですね」
『ヴァルハラの聖樹』の前でリフィアスと語り合ったハーティ達は、そのまま歓迎の晩餐会に招待されることとなった。
そこで、リフィアスから『折角晩餐会をするのですから、皆さんも着飾りましょう!』という提案を受けたので、ハーティ達は王宮の衣装を借りて久し振りにドレスで着飾っていた。
因みに、ハーティの着付けはいつものようにユナが行っていた。
「はぁ・・前の濡れたような漆黒の髪や瑞々しい果実のような桃色髪もよかったですが、このマナが漲る唯一無二の白銀髪には惚れ惚れします」
そう言いながら、ユナは一房手に取ったハーティの髪に頬擦りをしていた。
ハーティはユナの熱烈な要望によって、随所に宝石が散りばめられた菫色のプリンセスラインドレスを見に纏っていた。
このドレスはオフショルダーになっており、胸元をボリューム感のある花のデザインで飾ることにより、ハーティの人の目を引く豊満な胸の谷間をセクシーでありながらも上品に見せていた。
そして、『女神化』によってマナの光が輝く白銀の髪はユナの手で丁寧に編み込まれ、髪飾りに散りばめられた金剛石がマナの光を反射して美しく輝いていた。
「やはり!この美しい白銀色の髪には菫色のドレスが合うと思ったのです!ああ、なんと美しい!まるで『女神』のよう・・いや正真正銘の『女神様』でしたね。ならばもはやこの美しさは必然・・」
「おーい、ユナー!帰ってきてー!」
「んはっ!?私としたことがつい妄想が膨らんで・・!しかし、この場に色ボケ王子や勘違い皇帝が居なくて良かったです。もし、奴らがハーティルティア様の今のお姿を見て発情しようものなら、私がこの指でその腐った眼球を根こそぎ・・」
「こら、ユナ」
ハーティはぶつぶつと不穏な言葉を連ねるユナを、主人として嗜めずにはいられなかった。
「まあ、それはさておき・・ユナの姿も素敵よ」
「あ・・ありがとうございます」
ハーティに褒められて頬を染めるユナは、燃えるような真紅のマーメイドラインのドレスを着ていた。
そして、いつもはポニーテールに纏めてある濃紺のセミロングの髪は、三つ編みで編み込んだ状態でアップに纏められていた。
それによって露になったうなじとハーティに負けず劣らずの大きさを持つ胸によって出来た谷間が、ハーティより少し年上の年齢にあった妖艶さを醸し出していた。
ハーティとユナがお互いのドレスアップした姿を褒め合っていると、不意にコンコンと扉が叩かれた。
そして、ハーティ達の返事を待たずに開け放たれた扉の向こうには既にドレスアップを終わらせたクラリスがいた。
「リフィアス様に頼まれて迎えにきたわよ。なんでも、侍女にハーティのお迎えをさせたら咽び泣いて仕事にならなくなるかららしいわよ」
そう言いながらやれやれといったポーズをしているクラリスは、フリルがふんだんにあしらわれた、淡いピンク色のAラインドレスを身に纏っていた。
それが、いつも見慣れた彼女のツインテールと合わさって
年齢よりも少し幼さを感じさせた。
「あれ?クラリスはいつも通り?」
「あたしはこれがないと『武器』を持ち歩けないからね」
クラリスはそう言いながら、自分の『髪飾り』を指先で叩いた。
「いや、私達も丸腰なんだけど・・」
「生身で『邪神』とタイマン張る人がよく言うわ。そんなことより、二アール達は先に行ったわよ。さあ、行きましょう?」
クラリスに促されて、ハーティ達は晩餐会の会場へと向かった。
因みに、ハーティ達が広大な王宮内を歩いていると数人の侍従や文官達を見かけたが、彼らや彼女達はハーティの着飾った姿を目にすると、一人残らずその場で『最敬礼』をしながら咽び泣いていた。
・・・・。
・・・・・・・。
「ああ・・!胸が高鳴りますわ!」
その頃、王宮内の晩餐会を行う大広間には多数の着飾った『エルフ』達が集まっていた。
因みに、『エルフの国リーフィア』には封建制度や貴族の身分は存在しない。
それでも、晩餐会に集まっていたのは昔から代々騎士としてリフィアスに仕えている名家の当主とその伴侶や、王宮の要職に就くような国の根幹的な業務を担う人物ばかりであった。
『創世期』から現在まで『エルフの国リーフィア』で絶対的な君主としてリフィアスが統治している国としての仕組みは、悠久の時を存在していた『神族』が『女神ハーティルティア』を君主として崇拝し、一部の側近達が『神界』を担っていた時と酷似していた。
そして、本来は壇上の玉座で座しているはずのリフィアスは、大広間の入り口である大扉の前をそわそわしながら行ったり来たりを繰り返していた。
そんなリフィアスに宰相であるグラディウスはそっと声をかけた。
「あの・・陛下、そろそろ女神ハーティルティア様がお見えになられますが・・」
「ねえ!グラディウス!?わたくしの姿、変じゃないかしら!?」
グラディウスの言葉を聞いたリフィアスは、しきりに自分の髪を手櫛でなぞりながら尋ねた。
自分の身なりを気にしているリフィアスは翠色のマーメイドラインのドレスに身を包んでおり、リフィアスのわがままボディを強調するようなそのシルエットは彼女の長身も相まって、非常に妖艶な魅力に溢れていた。
「陛下はいつもお美しいですが、今日は更にお美しくあらせられます。きっと女神ハーティルティア様と並んでも遜色ありません」
グラディウスはすらすらと思うままの賛辞を並べるが、それを聞いたリフィアスが眉を顰めた。
「あなたはわかっておりませんわ、グラディウス。わたくしは着飾った敬愛する主様のお姿を目にした者達があまりの美しさに卒倒したりしないか、真面目に心配しているほどですのよ?」
「その点では、少なくとも私は大丈夫です。何せ、先程ご尊顔を拝見しているので、ある程度耐性が身に付いておりますからね」
グラディウスが得意げに胸を張っていた丁度その時、扉の向こうの衛兵がハーティ達の来訪を知らせてきた。
因みに、その衛兵は惚けた表情で心ここにあらずといった様子であった。
パパァァー!
「女神ハーティルティア様の御成ぃぃーー!」
そして、楽団のラッパの音と騎士達の口上を伴って、入り口の大きな扉が開け放たれた。
直後、扉の向こうで気まずそうに立っているハーティを目の当たりにしたグラディウスは目を見開いた。
「なんということだ・・・陛下が『エルフの掟』として、『女神様』の偶像崇拝を禁止した理由を今、あらためて理解しました・・」
そう言いながら、グラディウスは力なく両膝を地につけた。




