もう一人の『聖騎士』 〜シエラ視点〜
ガサガサ・・ガコン・・。
シエラは『女神教会』の紋章が刺繍された布を取り去ってから、慎重に木箱を開梱する。
そして、明らかとなった中身を確認すると、興奮で頬を染めた。
「・・っ!凄いです!」
「こ・・これはすばらしいっ!」
「おお・・なんと神々しい鎧なのでしょうか!」
「これが・・女神ハーティルティア様だけが錬金できるという、神白銀の鎧!」
木箱に収まっていた鎧を見ながら、その場にいる誰もが感嘆の声を上げた。
「こちらが、女神ハーティルティア様と勇者クラリス様が生み出した『神器』である『神聖魔導甲冑二型』です」
「『神聖魔導甲冑二型』・・・」
ヴァン枢機卿に説明を受けたシエラは、惚けた様子で鎧を眺めていた。
「クラリス様の話によりますと、『神聖魔導甲冑』はこちらと別にあと一つ存在していまして、そちらは『神聖イルティア王国』の『聖騎士』であらせられる『ユナ・エインヘリアル』様が身につけられるそうです」
「なんと!『聖騎士』様が!?」
木箱に収まった鎧はユナの『一型』よりも身体の曲面に合いそうな細身のデザインをしており、装甲の面積も多かった。
「ハーティさん・・」
シエラはハーティの名を口にしながらそっと鎧に触れた。
シュイイイイイン・・・!
すると、シエラの身体を巡って放出されるマナを受けて、『神聖魔導甲冑二型』の表面に刻まれた緻密な魔導式の紋様が白銀色に輝き出した。
「おお!シエラ様のマナに反応している!?」
「なんと美しい鎧なのでしょうか・・」
それを見た神官達が再び感嘆の声を上げた。
暫く鎧に触れていたシエラは、おずおずと恥ずかしそうにしながら、ヴァン枢機卿へ声をかけた。
「あの・・私、この鎧を装着してみたいのですが、宜しいでしょうか?」
「何を仰います。こちらの鎧は貴方様のものです。では、随伴している女性神官に装着を手伝わせましょう」
「あ、ありがとうございます!」
ヴァン枢機卿はシエラを見て微笑むと、二人の女性神官を呼び寄せた。
「ああ・・『神器』に触れるなんて、なんと畏れ多い事でしょう!!」
シエラの鎧装着を手伝う女性神官は、ひどく緊張した様子で鎧に触れていた。
そして、鎧は女性神官が触れている間は何の反応も無かったが、シエラの身体に触れた瞬間に白銀色の光を放つようであった。
正確にはユナやシエラのような、ハーティによって高出力のマナが身体を巡るように施された人間が触れることで鎧の魔導式が反応しているだけであったが、どちらにせよそんな人間はユナとシエラしか存在しないので、神官達はますますシエラが鎧の『正当な所有者』であると認識した。
カチャッ!
「どう・・ですか?」
そして、鎧を装着し終えたシエラは恥ずかしそうにその姿を披露した。
「シエラちゃん!似合っているよ!」
「シエラちゃん可愛いよ!」
「素晴らしい!まさに『聖騎士』のあるべき姿です!」
「なんと神々しい・・」
そのシエラの姿を見た冒険者や神官達が、揃って彼女を賞賛した。
「シエラ・・よく似合っているよ」
「・・お父さん!」
そして、ジェームズも感慨深げにシエラの姿を見ながら涙ぐんでいた。
シエラの装着した鎧はタイトで軽量そうな見た目をした全身鎧となっており、シエラのしなやかな体格にピッタリと装着されていた。
そして、ユナの『一型』との一番の違いは、背部にマントが存在せず、小型の『フライ・マギ・ブースト・ウィング』が二対折りたたまれている事であった。
ヴァン枢機卿を筆頭とした『女神教会』の神官達は、その後も暫く鎧を装着し終えたシエラを賞賛すると、一斉に彼女へ向かって跪いた。
そして、ヴァン枢機卿は真剣な表情でシエラへ嘆願した。
「あらためて正当な『神器』の所有者であらせられるシエラ様にお願い申し上げます。どうか『女神教会』の『聖騎士』として我々を導いてはいただけないでしょうか?」
「はえあ!?せせせ、『聖騎士』!?」
シエラはヴァンの言葉を聞いて素っ頓狂な声をあげた。
それに対してヴァンは淡々と説明した。
「はい。シエラ様が正当な『神器』の所有者であらせられる以上、それ相応の身分があるものとみなされます」
「もし、シエラ様が『神聖イルティア王国』の国民であれば、『エインヘリアル卿』のように騎士爵位を賜って王国の『聖騎士』となっているでしょう」
「ですが、帝国には残念ながら、まだそのような法整備が整っておりません。ですから、シエラ様は『女神教会』の『聖騎士』として我々を導いて欲しいのです」
「そんな!私はただのしがない宿屋の街娘なんですよ!それに最近『本洗礼』を受けたばかりの入信したばかりの身です!恐れ多いですよ!」
慌てる様子のシエラに、ヴァン枢機卿は優しく語りかけた。
「シエラ様の『本洗礼』は女神ハーティルティア様が直々になされたのですよね?もはや、その時点で貴方様は特別なのです。そんな名誉は本国の『総司祭』様すら叶わないことなのですよ?」
確かに、シエラはユナの勧めによってハーティ達と別れる前に略式の『本洗礼』を行なっている。
もちろん、帝国に『女神教』の教会など無いので、『神格』を持つハーティが神官の代わりに『本洗礼』を行なったのだが、それこそ『女神教』を信仰する者にとっては、これ以上ない程に神聖とされる『本洗礼』と認識されていた。
「これも『邪神』討伐に向けて『女神教会』が志を一つに纏める為に必要な事なのです!どうかシエラ様!『神器』を賜りし『聖騎士』として『女神教会』へご協力頂けるご決断を!」
ヴァン枢機卿はシエラに向かって深々と頭を下げた。
「猊下!頭を上げてください!わかりました!わかりましたから!私みたいな小娘が大恩あるハーティさんの為に少しでも役に立てるのであれば、この『神聖魔導甲冑二型』を身につけて、『聖騎士』として世界の為に戦います!」
パチパチパチパチ!!
「「「おおおおお!」」」
シエラが宣言した瞬間、その場に居合わせた皆から拍手喝采が沸き起こった。
「ありがとうございます!『聖騎士』シエラ様!」
それは、もう一人の『聖騎士』が誕生した瞬間であった。




