女神の慈悲
「っ!来ないで!あんた達の施しなんて!受けないんだから!!」
「ちょっ!二アール!何言ってるのよ!」
二アールはハーティ達が歩み寄るのを見ると、拒絶の意思を示した。
「あなた、このままだと死んでしまうのよ!」
ハーティも二アールを説得するが、変わらず二アールは頭を横に振っていた。
「馬鹿!二アール!意地を張っている場合じゃないでしょ!」
クラリスは二アールの肩に掴みかかって語りかけたが、二アールはその手を払い除けた。
「触らないで!」
「いいのよ・・これで・・」
そして、二アールは小さく呟きながら目を伏せた。
「ナラトス様とこの地へ逃げてきて、冷静さを取り戻した頃に自分の行いを振り返った時、私は後悔したわ・・」
「私は取り返しのつかないことをしてしまったのよ・・帝都を破壊し、たくさんの人を殺し、獣人達をまるで魔導具のように扱ったわ・・」
「だけど、それは『闇の力』の影響で・・・」
「違うのよクラリス・・」
二アールはクラリスの言葉を即座に否定した。
「確かにあの時はナラトス様や『黒の魔導結晶』による『闇の力』の影響を受けていたわ。だけど、やっぱり私の心の奥底には、何処かであそこまでしてでも『クラリスに勝ちたい』って気持ちがあったのよ」
「これは私の罪であり、罰なのよ・・だから、私は自分の罪を受け止め、その罰として苦しみながらこの死を受け止めるわ」
「だから・・わざわざ来てくれて申し訳ないけど・・」
その時、今まで黙っていたユナが動き出したかと思うと、無言で手を振りかぶった。
そして・・。
バッチーン!!
二アールの言葉を遮るように、目にも止まらぬ速度で放たれたユナの張り手が二アールの頬へと命中した。
「ぶべらっ!」
その衝撃により、二アールは女子としてちょっといただけない声をあげて、もんどりを打ちながら床を転がっていった。
「ちょっ!?ユナ!?」
その様子を見たハーティは慌てふためいた。
「大丈夫です。ハーティさん。『ブースト』はかけてません」
「当たり前よ!あなたが本気で張り手なんてしたら二アールの頭が弾け飛ぶでしょうが!!」
「貴方は一体何様なんですか!!」
ユナはクラリスのツッコミを無視して二アールに掴みかかった。
「ぶ・・ふぇ・・?」
「は・・『中級治癒魔導』!」
パァァァ・・。
ユナの張り手により二アールの顔が見るに耐えない状態になっていたので、ハーティはとりあえず急いで治癒魔導を二アールに向かって発動した。
「さっきから罪とか罰とか!あげくそれで死んでもいいとか!何様のつもりかと聞いているのです!」
「ナラトスだって貴方を助ける為に、自身が滅ぼされるのを覚悟して私達の所まで貴方の事を頼みに来たんですよ!」
「いや・・だって・・あれだけのことをしでかしたのよ??仮に生きたとしても、私達は大罪人として命をもって償わないといけないことになるでしよ?特に帝国には生きて戻れないわ・・死刑になるのが目に見えているもの・・」
ユナの剣幕にたじろぎながらも、二アールは答えた。
二アールの言葉を聞いたユナは、ため息をつくとまるで聞き分けのない子供を諭すかのように語り出した。
「いいですか?貴方には『死ぬ権利』など無いのです。その時点でそもそも間違っているのです」
「『死ぬ権利』が・・無い?」
「そうです。今貴方を治療しようとしてここに座すお方をどなたと心得るのです?」
「へ?」
ユナの言葉に二アールはきょとんと首を傾げた。
「この世界は『女神ハーティルティア』様が創造され、長い年月で子々孫々と命が繋がれて今の私達が存在するのです。即ち、この世界の生命は全て元を辿れば『女神様』が生み出したものです」
「その一つである貴方の命を『女神ハーティルティア』様が今、まさに救おうとしているのですよ!それをみすみす捨てる権利などそもそも貴方にありません」
「それに帝国が貴方に罪を償わせるために死刑にするですって?笑わせないでください!あの『勘違い皇帝』にそんなことをする権限などありません!」
「こらユナ」
「たとえ帝国の皇帝がなんと言おうが、世界がなんと言おうが、『女神様』が慈悲によって生かそうとする命を奪うことができる人間など、ただの一人もこの世に存在しません」
「そして、それがどんな罪であれ『女神様』が赦すというのであれば、それを裁くことは何人であってもできません」
「いや、流石にそれは・・」
「ハーティさんは黙っていてください」
「あ、はい・・」
途中で口を挟んだハーティの言葉は、熱く語るユナによって封じられた。
「もしそれでも『女神様』の意思に背くのであれば、『聖騎士』として私、『ユナ・エインヘリアル』がこの手で貴方達を纏めて滅ぼします!」
「ちょっ!それって本末転倒じゃないの!?」
「ユナは私のことになると冷静さを失うのよ」
クラリスのツッコミに半ばあきれた様子のハーティが答えた。
「・・・あー!もう!わかったわよ!折角ナラトス様が頼んでくれたのだし、治療をお願いするわ!」
最後はユナの剣幕に負けて二アールが折れる形となった。
「とにかく、受け入れてくれてよかった!じゃあ早速浄化するわね!」
「・・・お願いします」
「じゃあ始めるわよ・・『女神の光』!」
ハーティは二アールに巣食う『闇の力』を浄化する為に範囲を限定して『極大浄化魔導』を放った。
パァァァ・・・。
「暖かい・・」
そして、その光に包まれた二アールは瞬く間に顔色を取り戻していった。
「二アール!」
しばらくして魔導が収束すると、間伐入れずにナラトスが入室してきて二アールへと駆け寄った。
「ナラトス様!!」
ナラトスの姿を見た二アールもまた、ナラトスへと駆け寄って二人は熱い抱擁を交わした。
「ひゅう、お熱いこと・・」
それを見たクラリスは口笛を吹いて茶化した。
「女神ハーティルティアよ。二アールを救ってくれて感謝する」
「・・・これで私は思い残すことは無い。約束通り私のことは好きにするが良い」
そう言うと、ナラトスは『我抵抗の意思はない』と言わん様子で両手を広げた。
「ナラトス様!!そんな!いけません!」
二アールはそんなナラトスに必死で取り縋った。
「貴方!あんまりだわ!やっぱりナラトス様を滅ぼすなら私も一緒に殺して!私だけが生き残るなんて嫌よ!」
「二アール・・」
二アールの必死な訴えにナラトスは顔を歪ませた。
「あのー・・勝手に盛り上がっているところ悪いけど私はナラトスをどうこうしようと思っていないわよ?」
そして、ハーティはナラトスへと声をかけた。
「ナラトス」
「・・・」
ハーティに声をかけられたナラトスは無言でハーティの方を向いた。
「悪いけど『邪神』としてのナラトスは消滅してもらいます」
「やっぱり!この血も涙もない悪魔め!あいたっ!」
「最後まで話を聞きなさい」
ハーティの言葉を聞いて暴言を吐いた二アールの脳天にクラリスのチョップが炸裂した。
「ですから、あなたはこれから、ただの『ナラトス』として生きなさい」
「そして貴方達は今まで殺めてきた人々の為に、これからその何倍もの人々を救いなさい」
「ああ・・女神ハーティルティア様」
ハーティの言葉に感動したユナは『最敬礼』をしながら咽び泣いていた。
「女神ハーティルティア・・ああ、約束しよう。私『ナラトス』は女神ハーティルティアと共に、今までの罪が濯がれるまで、この世界を救う為に力を使おう」
「私も、ナラトス様と一緒に貴方達と戦うと誓うわ」
手を取り合って誓う二人の眼差しは、真っ直ぐにハーティを捉えていた。
その言葉を聞いたハーティは姿勢を正して厳かな様子で口を開いた。
「私は今、『女神ハーティルティア』の名において、『ナラトス』そして『二アール』に私達と共に世界を救う為に戦う事を命じます。そして、その代わりとして貴方達の罪を赦しましょう」
その言葉を聞いたナラトス、二アール、クラリスの三人も『最敬礼』の姿勢となった。
「今の『言葉』、聞いたわね、ユナ?」
「はい、しかと聞きました『女神ハーティルティア』様。『女神様』より賜った只今の『神託』は『聖騎士』である私、『ユナ・エインヘリアル』が責任をもって全世界の『女神教会』へ通達します」
ユナはそう言うと恭しく一礼した。
「というわけで、これからよろしくね!ナラトス、二アール!」
ハーティが二人に片手ずつを差し伸べると、三人はしっかりと握手を交わし合った。
「ああ、よろしく頼む。女神ハーティルティアよ」
「よ、よろしくね!」
こうして、ハーティ達に『新たな仲間』が加わったのであった。




