二アールとの再会
「二アールさんを救うと言うのは一体どう言うことなの?」
ハーティの問いにナラトスは目を伏せた。
「うむ・・二アールは帝都での戦いの際に長時間、先程渡した『黒の魔導結晶』による影響を受けたのだ」
「それにより二アールの体は今『闇の力』に蝕まれている」
「なんですって!二アールは大丈夫なの!?」
「今は私の治癒魔導で何とか進行を遅らせているが、その感覚も徐々に短くなっている。このままではそう長くは持つまい」
「そんな!?二アール・・」
クラリスはナラトスから二アールの容態を聞いて顔を歪ませた。
「であるから、女神ハーティルティア。そなたの浄化魔導で二アールを助けて欲しい。私のことはその後で浄化するなり滅ぼすなり好きにするが良い」
「ふっ・・しかし、『邪神』が『女神』に小娘一人を救う為に頭を下げる日が来るとはな・・。長生きはしてみるものだな」
ナラトスはそう言いながら自嘲気味に笑った。
「・・・ナラトス・・」
「っ!ねえ!ハーティ!お願い!二アールを助けてあげて!あなたならシエラちゃんの時みたいに体を蝕む『闇の力』を浄化出来るんでしょ!?」
「ええ・・分かったわ。とにかく二アールを助けましょう」
「っ!ありがとう!ハーティ!」
ガバッ!
感極まったクラリスは、思い切りハーティを抱きしめた。
「ちょ!クラリス!苦しいってば!・・ごほん、で?二アールは今何処に?」
「感謝する。今、二アールは『カームクラン』から東に隣接する港町『ヨークスカ』で私たちが潜伏している宿にいる。正直、今も症状は芳しくない。すまぬがすぐに向かってくれぬか?」
「!!だったらすぐに行きましょう!ハーティ!『プラタナ』を出すわ!」
「ちょっと待って!気持ちはわかるけど慌てないで!?」
ハーティは再び『プラタナ』を出そうとしたクラリスを制止した。
「流石に『プラタナ』で飛ぶのは目立つわ!いらない騒ぎを起こすのは避けないと!今回は距離も短いし生身で飛ぶわよ!」
「『生身で飛ぶわよ』ってあたしは飛べないわよ!?『神聖魔導甲冑』も無いし・・はっ!?まさか!?」
「クラリス、高いところは得意かしら?」
ニコリと笑うハーティの顔は、意地悪い様子であった。
「・・・・・・」
・・・・・・。
・・・・・・・・。
キィィィ・・・。
「ほら!クラリス!『ヨークスカ』上空に着いたわよ!」
「ひぃぃぃ!下なんか見れないわよ!」
ナラトスとユナは自分自身で、ハーティはクラリスを横抱きにして飛ぶことで、一同はあっという間に『ヨークスカ』まで辿り着いた。
「こんなの二度とごめんよ!!次は迷惑覚悟で絶対に『プラタナ』で飛んでやるんだから!!」
「ちょっと!ジタバタしたら落ちるわよ」
「ひぃぃぃ!?」
「取り込み中悪いが、あの宿に二アールがいる。降下しよう」
ナラトスはそう言いながら眼下の宿屋を指さした。
キィーン、シュタタタ!
一同はなるべく目立たないように宿の裏庭に着地をした。
そして、そのまま何食わぬ様子で表へと回ったのであった。
ガララ。
そして、ナラトスが宿の玄関引き戸を開けると、その扉の向こうにはちょうど掃き掃除をしていた一人の女将が居た。
「あら『ストラナ』さん、おかえりんさい。おや、これまた別嬪さんを三人も連れてー!『ソフィ』さんに怒られるわよ!」
そう言いながら、その女将は箒を持っていない手を腰にやってプンプンと怒っていた。
そして、ある一人に目をやると驚いた表情をした。
「おや!よく見たら『神聖イルティア王国』の『聖騎士』様じゃないかい!?こりゃたまげたよ!」
そう言うと、女将は素早くユナへ跪いた。
「何故お分かりに?それより女将さん。立ち上がってください。私はそう言う対応に慣れていないので困りますっ!」
ユナが慌てて制止すると、女将は立ち上がった。
「いやぁ『聖騎士』様は謙虚ですねぇ、分かるも何も『聖騎士』様任命の話は『女神教会』から『神社庁』にだいぶ前から伝わっていましたからねぇ、それにその格好を見たら『女神教』や『神道』信者が見たらすぐに分かりますよ」
「そ、そうですか」
ユナは女将の話を聞いて満更でも無い様子で頬を染めた。
「タエよ、彼女達はソフィの治療のために来てもらったのだ」
「ええ!?『聖騎士』様直々にかい!?そりゃ凄い!」
実際にはそれどころか『女神ハーティルティア』が治癒するのだが、タエと呼ばれた女将には知る由がなかった。
タエの話を聞いたクラリスは小声でナラトスに話しかけた。
「にしても、家名から取った『ソフィ』はまだしも、あなたの偽名は何とかならなかったわけ?隠す気あんの?」
「うむ、咄嗟に思いついたのがそれであったのだよ」
「はあ、ネーミングセンスはハーティ並みね」
「ちよ!?どう言うこと!?」
「ではタエよ。上がらせてもらうぞ」
「はいよ、どうぞどうぞ」
そして、タエと挨拶を終えた一同は二階にいる二アールの元へと向かった。
「二アール、入るぞ」
スス・・・。
部屋の前に着いたナラトスは、二アールへ一言断ると襖を開いた。
すると、そこには畳敷の部屋に敷かれた敷布団の上で上半身を起こした二アールがいた。
彼女の顔色は青白く、弱っているのは誰の目からも明らかであった。
「ナラトス様、おかえりなさ・・・」
そして、ナラトスの方へ向いた二アールは、ハーティ達を見た瞬間に目を見開いた。
「っ!!あんた達!!ナラトス様をどうするつもり!!」
ハーティ達がナラトスと自分を追ってきたと勘違いした二アールはその表情を歪めていた。
「二アール・・・」
そして、それを見たクラリスは表情を暗くした。
「二アールよ。彼女達は私が連れてきたのだ。そなたを治療する為にな」
「ナラトス様・・・」
「見ての通り二アールはこんな様子だ。すまぬが早速お願いできぬか?」
「・・わかったわ。ナラトス、貴方は少し離れていて。浄化魔導の影響を受けるでしょ。貴方は二アールの治療と同時にその身も浄化されるつもりだったんでしょうけどそうはさせないから!」
「なっ!?」
ハーティの言葉を聞いた二アールは驚愕し、図星をつかれたナラトスは目を見開いた。
「ふっ・・気づかれていたか・・わかった。ならば私はしばし席を外そう」
ナラトスはハーティの言葉を聞いて自嘲気味に笑うと、先程開けた襖から退室した。
「さあ、じゃあ始めるわよ」
そして、ハーティは二アールの元へ歩み寄った。




