ウィッチ・クラフト③
「それでは、結果を発表いたします」
ウィッチ・クラフトの全学校によるプレゼンテーションが終わり、その出来栄え、革新さを持って順位がつけられる。
アサルト・ボーダーに並ぶ交流戦随一の注目度を誇るこの競技。その結果発表は、交流戦出場選手、サポーター、その他関係者が一堂に会する後夜祭の開会直前に、総合優勝校の発表と合わせて行われることが交流戦が始まってからの慣習となっている。
「第五位、札幌校」
第五位から順に発表されていく学校名。呼ばれた札幌校のウィッチ・クラフトチームの面々は、一位を取れなかった悔しさと上位入賞できた喜びが入り混じった反応をしていたが、どこか満足げで安堵しているようだった。
「第四位、大阪校」
順位が一つ上がるごとに巻き起こる歓声も大きくなっていく。
ウィッチ・クラフト、アサルト・ボーダーは各校の精鋭が集う競技であり、その順位によって得られるポイントも多い。総合優勝を目指すなら、この二つの競技を取りこぼしてしまうのは大きな痛手となってしまう。
「第三位、横浜校」
交流戦に必要な魔法技能には偏りがある。攻撃、防御、跳躍、俊敏。そのどれもが身体能力と同様に個人差がある。「七元素」や「副元素」といった特別な血縁、術師の系譜、その他のイレギュラーな存在。持って生まれた能力値を覆すことは困難を極める。
だがウィッチ・クラフトは違う。魔法の基礎を突き詰め、探究する。魔力の多い少ないは関係なく、ただただ真っ直ぐに向き合う時間が才能を凌駕する瞬間がある。「七元素」のいない学校でも、勝機を見出すことができる。
「第二位、東京校」
チーム全員が「無元素」という構成で臨んだ今年の交流戦。毎年優勝候補として名を連ね、相応の結果が求められるプレッシャーを跳ね除けた彼女達に多くの賛辞が贈られる。
弱さは時に強さになる。弱点と向き合い、磨き続けた過程が結果として現れた。
「第一位、京都校」
自己研鑽、チームワーク。全てのチームがこの日のために積み上げてきたものを、いとも容易く越えていく存在もいる。無慈悲で理不尽な現実という壁。
今年の京都校は、白雪と稲荷が加入したことで、ウィッチ・クラフトにおける勢力図を一変させた。
魔法技術は世界に「魔法」という存在が認知されるようになってから100年以上が経ち、今も発展を続けている。魔法高校の学生達は皆、最先端の技術を学び、身につけ、このウィッチ・クラフトでアップデートしていく。人類の歴史から見れば、たった100年の研鑽で社会は大きく変わり、生活水準も跳ね上がった。
それに対するは術師の知識。平安時代から続く2000年以上のノウハウが二人の手によってもたらされた。現代と古代の融合。魔法と術の融合。その結晶が審査員達に有無を言わさず表彰台の1番高い場所を差し出させた。
式神調伏術をベースに極小無数のモジュールを意のままに操作する魔法。モジュールの隊列を変えることで形を自在に変化させ、式神操作の基本である視野の共有で離れた場所からでも的確な状況判断が可能となる。
魔法陣の核となる術を元にした部分の設計は稲荷が、術と魔法の調和を白雪が中心となって開発したこの魔法。術師として最高峰の実力を持つ稲荷と、幼い頃から結城家で術と魔法のどちらも学んできた白雪の長所を掛け合わせた傑作が他校の創作物を凌駕した。
京都校のプレゼンテーションの順番は全体18番目。つまり最後となる順番で、大トリに相応しいインパクトを残して交流戦は全競技を終えた。
「みなさん、今年のウィッチ・クラフトは例年に見ない素晴らしい出来でした——」
結果発表が終わり、審査委員長からの講評が始まった。
会場全員が壇上に注目する中、志乃はなぜか夢の中にいるような、水の中にいるような、声が遠くに聞こえるような感覚に陥っていた。
(……2位)
悔しさはない。大健闘したと胸を張って言える結果は残した。身分不相応だと感じるほどに。
辺りを見回してみても、共に試行錯誤した美樹達ウィッチ・クラフトチームメンバーの面々や、生徒会の仲間達が喜び、祝福してくれている。
その輪の中に自分がいるのが不思議だった。
「どうした、志乃? 浮かない顔だな」
「蒼真君……」
隣に座る蒼真に声をかけられ、志乃は少し恥ずかしげに顔を逸らす。自身の心のうちを整理できないまま人とすぐに話すのは難しい。
「……良いものを作ったな。少ない消費魔力量で外からの干渉を防げるなら、災害時以外にも応用が効く」
「ありがとう。蒼真君にそう言ってもらえて嬉しいよ。でも、これはあなたに貰ったデータがあって初めて作れた魔法だったから——」
「俺が渡したのはまだ未完成だった。そのまま作っていたら表彰台に乗ることはなかっただろうな。あれが形になったのはお前達のおかげだ」
蒼真が渡したのは「魔装」のデータの一部だった。簡易的な強化魔法としては使用できるが、強度や持続性に難があり実用性に欠ける魔装を完成させるためのピースを彼は探していた。
「ウィッチ・クラフトの目的は魔法技術のさらなる発展。発表された技術については開発したチームが所有権を有し、その技術の使用は交流戦終了後、代表者との契約を結ぶことで可能となる。このルールに則り、東京校の魔法保護膜の技術の使用権を購入させてほしい」
「こ、購入!? ……そういえば、蒼真君のお家って魔法関連の会社を経営してるんだっけ。だからあんなデータを持ってたんだね。納得だよ」
ウィッチ・クラフトで生み出された革新的なアイデアは、補助装置の機構や社会インフラに組み込まれている。とはいえ全ての成果物が採用されているわけではない。毎年一つどこかの企業に目をつけられれば良い方で、全く見向きもされない年すらある。
「でも、いいの? もしかして、同級生だからって気を遣って——」
「俺がそんなことをするような人間に見えるか?」
「……確かに。蒼真君は情に流されるような人じゃなかった。ちゃんと本質を見てくれる。だから君の周りには人が集まってきてくれるのかもね」
初めて会った入学式の日から数ヶ月。短くも濃い日々の中で、志乃は結城蒼真という魔法使いと友人として接してきた。
術師として社会の裏側で暗躍する姿を隠し、一高校生として学校へ通う。そのどちらもが彼の真の姿であり、友人達は彼の偽りない心を知っている。
「……いいよ。蒼真君に使ってほしい。けど、私だけじゃなくて、先輩達にも聞いてこないと……」
「ああ、それは問題ない。既に話はつけてきた。一応書類も準備済みだ」
「そう……手際いいね……。でも、私が、一番最後……」
蒼真が自分の知らないところで根回しをして、最後まで知らされることがなかった事実を知り、志乃はぷくりと頬を膨らませた。
「やっぱり契約するのは無しにしとこうかな……」
中学生まではリサに振り回される日々を送り、高校に入学してからはさらにその人数が増えた。
(今日くらいはいいよね)
ぷいと顔を背け、志乃は少しだけわがままに振る舞うことにした。




