ウィッチ・クラフト②
「そ、それでは、東京魔法高校によるプレゼンテーションを、1年明智志乃が発表させていただきます」
緊張で少しうわずった声で志乃は話し始めた。
会場に設置された少し高さのある舞台の上。会場中の視線が一点に集まるその場所で、志乃はチームを代表して立っていた。
「わ、私が発表者ですか!? チームリーダーの美樹さんじゃなく?」
東京校の創作テーマがまとまったその日の夜、志乃はリーダーを務める吉川美樹に呼び出されていた。要件は発表者の指名。志乃にとっては予期していない事態だった。
「まぁ私がやってもよかったんだけどね。と言うか、そのつもりでこの島にやってきたわけだけど。恵が志乃ちゃんに任せてみないかって言っててね」
「会長が?」
「なんだかいつもはあの結城君にご執心のように見えるけど、やっぱり生徒会長の器だよ。みんなのことをよく見てる。君だってあの『七元素の光坂恵』に選ばれて生徒会に入ったんだよ。期待されてないわけがないね」
志乃が生徒会入りしてから四ヶ月が経ち、初めは恵やいろはに手取り足取り教えてもらいながらの日々だったが、庶務の仕事にも慣れて今では一人で余裕を持ってこなせている。
ただ、一彦と香織が補助についていた蒼真はあっという間に仕事を覚え、その優秀さに志乃は無意識のうちに自分と他者を比べて、自分の劣っている部分を強く意識してしまうようになっていた。
もちろん生徒会の中では誰も彼女を責める者はいない。むしろ、自分達の教え方が悪いと恵達が謝るほどだ。
だが、一歩生徒会室を出ると1-Aの明智志乃に戻る。A組は学年の中でも優秀な学生が集まるクラス。志乃よりも勉強ができる者、魔法の技術に長けている者がいる。毎日積もっていく小さなストレス。それを親友のリサだけには気取られないように過ごしてきた。
交流戦が始まってからは、さまざまな競技でたくさんの学生が魔法の腕を発揮している姿を見てきた。
志乃にはリサや澪のように戦闘に用いる魔法は使えない。香織やいろはのように高威力の魔法も使えない。
彼女にできることは、一般的な魔法を一般的なレベルで発動すること。いわば教科書を正確になぞる力。試験では高得点を取れるが、実戦では少し欠ける力。
自分の向き不向きを理解した時、志乃の前に同じような魔法の特性がある仲間が現れた。
ウィッチ・クラフトは戦う魔法を必要としない。発動スピードも問題ではない。決められたテーマに対し、プログラムを組むように魔法陣を用意し、機体を用意するチーム戦。志乃のような学生達のためにあるかのような種目だった。
(会長が私の事を期待してくれている……。絶対に成功させないと!)
壇上で呼吸を一拍置いて会場全体を見回す。出番待ちの他校の学生、審査員を務める専門家、大勢詰めかけた観客、そしてその中にいる友人達。
緊張がふっと解けていくような気がした。志乃を縛っていたのは彼女自身。その枷は解き放たれた。
「『災害用機材』というお題に対して、私達が重要視したのは要救護者はもちろん、救護者の安全も確保する、つまり二次災害の防止です」
試技の為に用意された、災害後の様子を再現した舞台。観客の視線が集まる場所に、要救護者の代わりとなる人形が崩れた建物に挟まれて身動きが取れないように固定されている。
「被災者の生命を守るためにも迅速な救護が必要となるこの場面で、最も素早く瓦礫を取り除く方法は、魔法による破壊です。ただし、飛散する破片が思わぬ被害を与えたり、比較的大規模かつ広範囲の魔法を必要とするため、魔力切れによる魔法の暴発が考えられます」
舞台の傍に待機していた東京校の女学生が、瓦礫の一つを浮かせて風属性魔法により切断する。幾分か小さくなったその塊が散らばり落ち、土煙が上がる。
「このように落ちていく瓦礫の位置を一人の魔法使いが制御するのは容易ではありません。加えて、砂埃による視認性の低下や吸引による健康被害が考えられます」
ここまで言うと、志乃はある補助装置を取り出して手首に装着した。
「これは今回私達が開発した魔法陣を最適化して使用できるように調整した補助装置になります。この特性は魔法発動者を覆う盾。そして強化。異物と認識されたものをほぼ全自動で弾き出します」
先程登場した女学生が魔法を発動する。志乃と同様に左手首には特製の補助装置。右手で優しく触れると、彼女の身体は透明の膜のようなものに包まれた。まるで度数の強いメガネレンズのように、彼女の周りの風景が歪んで見えた。
観衆の注目の中、彼女は舞台から瓦礫で足元の悪い仮想災害現場に降り立った。
先ほど自身が魔法の副次効果として発生させた土煙が残り、視界が悪い中であったが、真っ直ぐに要救助者の元へ歩んで行った。
「こちらをご覧ください。ここに映し出しているのは、救護に向かった彼女の視点映像になります。私達から見れば視界を遮る砂埃ですが、そもそもこれは彼女の魔法によって生まれたもの。同じ補助装置によって発動された魔法、魔力を検知して視界の補正をかけています」
スクリーンに映し出されているクリアな映像。とてもそこに塵が舞っているとは思えない。
「膜に保護され、強化された体は重い瓦礫も難なく持ち上げることができます。力の弱い女子高校生でも、この通りです」
まるで発泡スチロールの如く軽々と持ち上がる大きな鉄筋コンクリート片。だが決してアピール用に作られた軽い素材などではない。
要救助者の上から瓦礫を退けて傍に置くと、ズシンと重い音が客席に届いた。
「保護膜の魔法と強化魔法。どちらか片方だけを選択することは容易です。しかし私達は、この2つを複合し、さらに消費魔力を従来の20%以下に抑えることに成功しました」
審査員席に配られる補助装置。各々が魔力消費を実感するために魔法を発動する。
「なるほど、これは……」
膜の中で、東京校の学生の技術の高さ、魔法構築能力の高さを専門家達は知ることになった。
中には過去に魔法高校に通っていた者もいる。自分の後輩達が見事に育っているのを目の当たりにし、頬を緩ませていた。
「私の魔力量は多くありません。『七元素』はともかく、『副元素』でもない私には特別な能力はありません。今日までの交流戦で戦っていたみんなのように、激しく高威力で大規模な魔法は発動できません。私のような魔法使いは数多くいます。一握りの強力な魔法使いの光の中に埋もれている数多の人々を私は知っています。そんな私達にも、どうか役目を与えてくれませんか」
巻き上がる喝采。
弱さを知る者達が見せた微かな光は、寄り合い束ね合い、やがて大きな引力となって世界を動かしていくこととなる。それはまだ、未来のお話。




