残響
アサルト・ボーダーの熱戦に逢羅成島中の興奮が冷めやらぬ中、交流戦最後の種目、ウィッチ・クラフトの成果発表が始まった。
事前に発表された、「災害用機材」という題目が与えられたこの種目。披露するこの場では、崩れた建物や火の手が上がる家屋が再現されている。
開始直前に行われたくじ引きによって順番が決められた各チームのプレゼンが始まる中、白雪は観客席に目を向けていた。
「白雪。そんなとこ見ても、蒼真はいてへんで」
「わ、わかってます。さっき医務室で話しましたから」
アサルト・ボーダーが終わり、紙一重の勝負で東京校が名古屋校を下した。結果から見れば大将と副将のどちらも倒した完封勝ちのようであったが、最後まで結果がわからない激戦であったことは、目撃した誰もが感じていた。
そんな戦いを繰り広げた者達——蒼真、刹那、一彦、玄之介の4人は皆が大小さまざまの傷を負い、医務室で治療を受けていた。
特に傷が深かったのは、勝利したはずの東京校の2人。蒼真は広範囲の火傷と打撲。一彦は全身の切り傷と失血で、安静にすることを義務付けられていた。
白雪をはじめとした決勝戦を観戦していた蒼真の友人達は、試合が終わった直後に医務室まで駆けつけていた。
「蒼真さん! 大丈夫ですか!」
「心配するな、白雪。すぐに治る。少し張り切り過ぎたようだ」
ベッドの上で包帯が巻きつけられた腕を、蒼真は少し掲げてみせた。
「……あなたがそんな傷を負うなんて初めて見たわ」
「まったくだ。『七元素』は手強かったみたいだな」
幼い頃から強者である蒼真を見てきた従者達ですら見たことがない姿。どんな敵が相手でも、変わらぬ姿で帰ってきていた蒼真が刹那と戦って、初めて傷を残して戻ってきた。
この事実が、術師たちに『七元素』の魔法使いのレベルの高さを思い知らせる。
「……俺のためにここまで来てくれてありがたいが、もうすぐウィッチ・クラフトの集合時間だ。白雪、志乃。早く準備に行った方がいい」
想定以上の蒼真の怪我で暗くなりかけた空気を払拭しようと、彼自身が話題を変える。何より、交流戦の最終日はアサルト・ボーダー、ウィッチ・クラフト、表彰式および後夜祭と、スケジュールが過密なのだ。生徒会役員である彼は準備を含め、運営にも一部関わっているためよく知っている。
「それならソーマも一緒に観戦に……は行けないみたいね……」
蒼真を連れ出そうと画策していたリサであったが、看護職員にひと睨みされ、語尾を弱めていく。蒼真は後夜祭が始まるまでの間、医務室内での絶対安静が義務付けられ、監視するかのように職員の目が張り巡らされている。
看護が専門とはいえ、魔法使いが集う逢羅成島の職員だ。もちろん戦闘訓練もひと通り受けている。
「なら、僕はここに残ろうかな。1人だけ見れないのは寂しいよ」
「シューゴも残るの!? なら私も——」
「気を遣わなくていい。医務室でも中継映像は見られるからな。ほら、早く行かないといい席を取れないぞ」
「でも……」
部屋から出られない蒼真が気掛かりになっている友人達ではあるが、気を遣わせるのは蒼真の本意ではない。
それに、ここは医務室。大勢で賑やかに過ごす場所ではない。アサルト・ボーダーだけでなく、競技で怪我を負った学生がここで手当を受けている。
「……直夜、連れて行ってやれ」
「りょーかい」
蒼真の意図を理解して、直夜はすぐさま修悟、リサの手を引いていく。
残念そうな顔をしながらも、蒼真の意思を尊重して、彼らは抵抗することなく部屋の外へ出て行った。
その後に続いて、澪と志乃も蒼真の元から離れていく。
最後に蒼真のベッドの傍らに残ったのは白雪だった。
「どうした? 行かないのか?」
「蒼真さん……その……」
言葉を詰まらせる白雪。元はと言えば、彼女が蒼真と刹那の戦いをアクシデントがあったとはいえ激化させた発端になってしまった。その結果、蒼真は傷を負い、白雪は自責の念にとらわれていた。
「お前が何を考えているか、だいたいわかる。だから気にするな」
白雪が言葉に出さずとも、蒼真は彼女の思いを感じ取っていた。
「こんな傷を負ったのも、俺が未熟だったからだ。お前が責任を感じる必要はない」
「でも……」
「俺は感謝もしているんだ。あんなきっかけがなかったら、俺はこの交流戦で本気になることはなかっただろう。土岐や雷電、『七元素』の実力を肌で感じて、俺もまだ高みを目指すことができる。成長していける。それがわかったのはお前のおかげだ」
蒼真が持つ最大の武器である「鬼人化」。それを最後の最後まで温存して戦ったこの交流戦。
実際、対土岐岳では魔法のみで、対雷電刹那では決着をつける最後の術の強化としてのみ使用した。
今まで、術師として結城家の任務では「鬼人化」した白鬼の状態が基本形態であった蒼真が、自力のみで魔法使い達と渡り合ったのだ。
この新たな経験は彼の糧となり、百鬼夜行の長としての成長につながることだろう。
「だから白雪、今度はお前の番だ。自分の役目を果たしてこい。場所は離れていても、俺はちゃんと見ている」
「うん……。見ていてね。行ってきます!」
「期待している。俺の想定を超えて行ってくれ」
こうして白雪も志乃の後を追い、ウィッチ・クラフトの会場へやってきた。「期待している」という蒼真の言葉に頬を緩めながら。
「ホンマあんたは蒼真のこと好きやなぁ。あんな無愛想なもんやのに」
「何もわかってないんですよ、稲荷さんは。ああ見えて、蒼真さんは優しいんです。私は何度もその優しさに救われてきました。私の厄介な体質も、改善するまで一緒に付き合ってくれましたから」
「惚気はそんくらいにしとくれ。胸焼けしてまうわ」
しっしと追い払うように手を振り、まだ蒼真の話を続けようとする白雪を制する。京都校で同じ時を過ごすことが多い彼女らだが、白雪は隙があれば蒼真の話を始めるため、稲荷はその異様な愛情に半ば引いていた。
「それで、あんたに任せた魔法陣やけど、具合はどうや?」
「問題ありません。東京校の方で蒼真さんが何か手助けしていたみたいですけど、今日は私達が勝たせてもらいます」
「そりゃよかったわ。それにしても蒼真が動いてるんか。どうせ何か企んどるんやろうなぁ」
目を細め、妖しい笑みを浮かべる稲荷。
その視線の先で、東京校によるプレゼンテーションが始まろうとしていた。




