4. side 柊
差し込んだ光が泣き腫らした目を貫いてくる。椿が帰ってきた。肩で息をする様子に、走ってくれたんだ、と思った。心配されているなとわかるのに、溢れ続ける涙をどうやって止めたらいいかわからない。柊だって大人だ。人前でみっともなく泣くなんて恥ずかしい。
水分取れ、と額に汗を滲ませ険しい声で告げた椿に引っ張り上げられベッドへと舞い戻る。パウチに入ったゼリー飲料を渡され、固形物を受け付けそうになかった胃にありがたいと思いながら礼を言う。飲み物など色々調達してきてくれたらしい中に、なぜかトイレットペーパーがあった。涙はまだ止まらない。
萎み切ったパウチが回収され、レジ袋をゴミ袋がわりにして捨ててくれる。冷たいペットボトルを渡され、瞼にあてるとようやく涙が引っ込んでくれそうな気がした。冷蔵庫をバタバタとしていた椿が隣に腰掛け、ベッドが軋む。少しバランスを崩した柊を椿が支えてくれる。ちゃんと食ってんのかよ、と呟いた椿の声に柊はバツの悪い顔をする。体調管理は社会人の基本だ。納期に間に合わないなら、死ぬ気で仕事を片付けるか延期交渉をするかだ。物事は悪くなる前に何らかの手を打つ必要がある。自分の体だって例外じゃない。
流石に何があったか話してくれ、と頭の上から落ちてきた声になんと返すべきか咄嗟に言葉が出てこない。支えられたままの体と椿の手に、過保護なんだなと意外な一面を見た気分になる。ポツポツと思うままに言葉を紡いでいく。眠れなかった。仕事は頑張っていた。うまく行かないこともあった、そんなものだろう。任せてもらえることも多くて、張り切っていたんだ。でも気づいてもいた。転職して会社を去っていく人も多い。新しく入社した人ともうまくやっていかないと。後輩もフォローして、他部署とも連携して。あの仕事をあの人に振って、この仕事のサポートにも入って。
仕事ができるようになってきていた。対応できることが増えていっていた。当たり前だ、頑張ってきたんだ。だってそれが、仕事だろう?
柊の吐露した言葉が途切れて、椿はそうか、とだけ言った。ゆっくりと背をさする椿の手は温かく、また泣いてしまいそうになる。一生分泣いたかもしれない、と思った言葉は声に出ていたらしい。泣けば、と言う椿の低く落ち着いた声に涙を堪えることはできなかった。今更か、と思いながら柊は再び嗚咽した。体勢を変え、正面から抱きしめてきた椿の首にしがみついて、人の体温はちょうどいいと思った。




