22話:成功作
「…で、本体の方はどうする気なんだ?」
分身体の出発後、スーに訊かれた。そう、別に何もしないなら本体で人間の街に赴いても良かったのだ。
「来たる決戦の日に備えて、もう少し強くなっておきたくはあるんですが…どうするかはまだ未定です。」
「決戦?」
「他の魔王との戦いです。現に、火の魔王はこちらを完全に敵視してきているようですし、他の魔王もいつ動き出しても全くおかしくありません。そうなった時に、今の私ではダーク様やライトさんを護ることは難しいので…。土の魔王とは、たまたま相性が良かっただけですし。」
「魔王を護るって…フウカは、一体何になるつもりなんだよ…。」
……何って。何だ?
「難しい質問をしないで下さいよ。何者になったっていいじゃないですか。私は大切なものを失いたくないだけなんですから…。」
あと、戦争の終結という目標もあるが…それはあまり言うべきではない気がする。
「あ、スーさんや、この森も、私の大切なものの一つですからね…?」
「そう言ってくれると嬉しいな。…弄んでいるわけじゃないよな?」
「違いますよ。本当に大事です。あと、この森には、ダーク様にとって大切な者である、グラムさんも居ます。今回の襲撃の事は、ダーク様に伝えておきますね。」
「そうしてくれると有難い。」
「と言う訳なので、私は、一旦家に帰らせて頂きます。もし、また魔族が侵攻してきたり、何か変化があった時は連絡を下さい。すぐに戻ってきますので。」
「心強いな。」
「では、さようなら…。」
扉を開けると、すぐに私は60度程の角度で急上昇し、最短距離で山頂を目指した。
昨日の一件の後だ。皆忙しそうだったので、挨拶は不要だと判断した。
体感、5分もしないうちに魔王城の入口に辿り着いた。勢いよく扉を開ける。…そして丁寧に閉める。
一旦気体形態に戻り、螺旋階段を勢いよく下りる。一段一段素直に足をつけるよりこっちの方が速い。
階段を下り切って、地下一階。ダークが居る可能性が高いのはこの階の大広間だ。人型になって廊下を進む。途中でギルに会った。
「お、フウカじゃねーか。お急ぎか?」
「ギルさん、ダーク様はどこかご存知ありませんか?」
「あー…魔王様なら地下5階に居る筈だ。多分、フウカの先輩も居ると思う。会った事ないだろ?『リクウ』には。」
あ…その名前には聞き覚えがある。ダークとライトの会話の中に出てきていた。
「えっと…確か『破壊生物』さんですよね。ダーク様が自信作と仰っていたのを覚えています。」
「自信作…そうだな。俺達が研究して生み出した生物はお前で7体目だが、現存しているのは3番のリクウと7番のフウカ…だけだからな。」
「えっ…」
「お前達と、他の5体、何が違ったのか、俺達には全く分からない。だが、他の5体は数日のうちに生物としての存在を保てなくなって、消えていった。意思疎通が出来たのもお前達だけだ。だからリクウは唯一のお前の先輩なんだ。」
他と何が違ったか…考えられる事は一つある。ただそれは、リクウ本人にも訊いてみないと確証は持てない。
「取り敢えず、私、地下5階に行ってきます。」
「おう、行ってきな。」
私は来た道を急いで戻り、地下2階への階段に足を掛ける。3段目で焦って足を踏み外す。慌てて気体化。そのままスルスルと地下4階まで降りて来た。地下5階へ続く階段の前には、『この先危険』の表示。ただ、今は一刻も早く報告をしたいので無視する。初めて地下5階へ降りると、そこには工事用ロボットのようなものが立っていた。
私は一旦人型に戻った。
「ん、何だい、君は?どこから入って来た?」
喋った!?いや、この驚き方は前にもした気がする。少し慣れて来た。
「普通に、階段を下りてきました。あの、ダーク様がどこに居るか知りませんか?」
「ダーク様なら向こうの角を曲がって、その先で右折した所に居るよ。」
「ありがとうございます。」
私は言われた通りに角を左折し、その先で右方向への分岐点を探す。あった。
「フウカ!?何故ここに…」
「ダーク様を探してここに来たんです。取り急いで報告したいことがありまして…」
私は森で起きた事について、ダークに報告した。
「火の魔王が動いてきたか。しかし、あの野郎、俺を潰したいなら直接かかってくればいいものを…」
「それは同感です。」
「いっそのこと、俺の方から攻めて行ってやるか…?」
「ストップ。ダーク様の目的は、平和を目指す事であって、魔族を滅ぼす事ではないのですから。わざわざ敵地で戦う必要はもう無いと思います。」
敵地で戦って痛い目を見た、土の魔王との戦いは記憶に新しい。またああなるのは避けたい。
「だが、放っておいたら森が…」
「…それは、確かにそうですね…。私は既に手回しをしていますが、どんな手を使って来るか未知数ですからね…。」
「そうだよな…」
「でも、果報は寝て待て、とも言いますから、少し待ってみては如何ですか?」
「『カホウワ・ネテマテ』?なんだそれは?」
あ、国どころか世界を跨いだ事を忘れていた。これは前世の世界の言葉だったか。
「あ、それはですね…無駄に動かず、じっとしていた方がいい事もある、という意味の言葉です。」
「…知らない言葉だが、それは一理あるかもしれない。ただ、森に何かあったら、バックアップ出来るようにはしておこう。」
「それは賛成です。」
「よし、俺はこれから準備をして来る。」
「分かりました。」
私は、階段の方へと進むダークの後ろに付いていく。
「リクウ、工事は一旦中断だ。やる事が出来たのでな。」
「分かりました、ダーク様。」
…ん?このロボットが、リクウ?
破壊生物…。魔法的な破壊ではなく、物理的な破壊。攻撃的な破壊ではなく、建設の……?
私の思考の中に、光の魔王・ライトの顔と、ダイナマイトを作った発明家の顔が浮かぶ。なるほど、大体の事情は察した。
考えている間に、ダークは階段を上って行ってしまった。
「君は戻らなくていいのかい?」
リクウに話し掛けられた。
「あ、いえ…貴方がリクウさんだったんですね。破壊生物、という事だけ聞いていたので、もっと物騒なお姿を想像していました…。申し遅れましたが、私はフウカと申します。」
「ああ、最近の『成功作』『最高傑作』ね。君の事は知ってるよ。ダーク様が作業の合間に楽しそうに喋るんだ。」
「あ、ダーク様…はは…。」
「ちょっと嫉妬しちゃうよ。まぁ、それはさておき、一個、質問してもいいかな?」
「何ですか?」
「君は、世界の狭間を知っているかい?」
その瞬間、私の推測は確信へと変わった。
第22話です。
補足
『この驚き方は前にもした気がする』→6話でグラムが喋った時の話。
『ダイナマイトを作った発明家の顔が浮かぶ』→『ダイナマイト ノーベル 後悔』などでgoogle検索してください もしくはAIにでも聞いて下さい あとは何となく察して下さい




