14話:フウカ
「ふ、フウカ…お前、待っていろと言った筈だぞ…!」
「この私は『分身体』です。本体は部屋で待っているのでご安心を。それより…もっと早く使ってくれても良かったのに…」
私は宙ぶらりんになったライトの身体を見る。
「…そうだな」
震える声でダークが答える。
「取り敢えず…あの、屑を倒せばいいですよね。」
私も今、猛烈に怒っている。我が創造主にこんな顔をさせる奴を、許してはならない。
【ランド Lv.666(666)】
基本的な強さ自体はライトやダークと変わらないようだ。だが、ここは相手の本拠地。相手には相当のバフがかかっていると考えるのが妥当だろう。対して、私はというと…。
【フウカ Lv.90(91)】
『兄弟分身』の分身体は、その全ての合計Lvが、本体のLv未満にしかならない、と、二日間の研究により発覚していた。そこで、私が考えた事は『分身体が、大成長の恩恵を最大限活かせるよう、Lvを上げておく事』。その結果、本体のLvは91となり、分身体はLv.90となった。
相手のLvは完全に想定通りだ。
勿論、何も考えずに、7倍以上のLv差の相手に挑んでも、勝てる訳が無い。しかし、私には、高Lvの多彩なスキルがある。前世の経験と、素のLvが高いお陰だ。
更に、ライトやダークの部下達がよく動いてくれたお陰で、相手は土の魔王・ランド只一人の状況だ。むしろこの好機を逃せば、敗北は必至だろう。
そして、まずやるべきは、相手の研究だが…これは、さっきまでの動きを見ていて、何となく分かっている。先程の、ダークの【黒い一撃】。それでランドに与えたダメージは僅かだった。攻撃を回避したり、受け流したりする様子も無かった。これが意味する事…少なくとも今のままでは、奴に物理攻撃は殆ど効かないということ。俊敏性を完全に捨てたその体躯は、魔王の本気の一撃をもってしても、掠り傷程度にしかならないのなら、どう考えても、私がダメージを与えることは不可能だろう。
そして、その後の、ライトに対する不意討ちの攻撃。あの時、十数秒の間があった。それ以前にランドが技を準備している様子も無かった。ダークの一撃でダメージを受けたフリをして、その間に技を準備していたのだろう。つまり、地面から岩を突き出すあの攻撃は、少なくとも10秒待たなければ、ライトの身体を貫いたあの威力にはならないということだ。そして、直前の地響きで攻撃発生のタイミングも見極められる。
私は物理攻撃を無効化出来るが、ダークはそうはいかない。ダークが攻撃を回避出来るように、この考察をダークに伝える…。
「あの岩を呼び出す攻撃…」
と、ここで地響きがした。
岩が突き出す。しかし、ダークは寸前で躱していた。
「ハッ、同じ手を二度も喰らってたまるかよ!」
これなら、ダークには何も言わなくても、岩の攻撃には対処出来そうだ。
私は安心して、相手の研究を続ける。
相手は、固めた土のような身体をしている。いや、むしろ、私の身体が黒霧で出来ているように、相手も土そのもののようだ。
概ね、予想通り。私は、事前に用意していた計画を実行することにした。
「ダーク様、少しそこで見ていて下さい。私がこの状況を打破してみせます。」
ダークは一瞬戸惑う様子を見せつつも、頷いた。任せてくれると受け取っていいだろう。
「何だか知らんが、一人増えた程度でどうということはない。」
「…。」
失敗したら取り返しがつかない事は理解している。とはいえ他に手は無いし、なにより自信がある。
「死ねい!」
質量を活かした、斜め上からのパンチ。だが、私には効かない。実体化を解除して躱す。
敵は攻撃の後隙を晒している。その間に私は、スキルLvを100まで上げておいた【豪雨】を敵に向けて放つ。
「水魔法…?いつの間にそんな…」
ダークが驚いているが、今は説明している暇はない。
こちらに向き直った敵に対し、今度は【暴風】を放つ。
「その程度の攻撃…吾輩には効かぬ!」
「…。」
再び実体化した私に対し、敵は土魔法と思われる攻撃で、高速で小石を多数飛ばして来た。
【豪雨】から派生した【水壁】で威力を落とし、そのまま受ける。多少のダメージは受けるが、これを躱してしまうと、後ろに流れ弾が行ってしまうため、やむを得ない。
再び【豪雨】で敵に水を浴びせる。敵は俊敏性が無いため、避けようともしない。
さらに【暴風】。もう一度【豪雨】。
「鬱陶しいわ。だが、どうやら、貴様には物理攻撃は無駄なようだな。」
「漸く気付きましたか?動きだけでなく頭も鈍いようですね。」
「大口を叩いていられるのも今のうちだぞ。」
敵は何かを準備している。発言からして、次は魔法攻撃をしてくるのは確実だ。
【暴風】と【豪雨】を交互に当ててみる。しかし、敵は全く怯むことはない。耐久力はやはり相当なもののようだ。
そうこうしている間に、敵の攻撃が来た。地響きがした後、岩が地面から飛び出す。しかし、それは私から少し離れた所に突き出した。
そして、そこから、私の方向に向けて、マグマが噴き出した。
【水壁】で対応するが、抑えきれない。水は蒸発し、私は高温のマグマの直撃を受ける。熱い。
「フウカ!」
「…大丈夫です。この程度…。」
即座に【癒しの闇】で回復。本物の肉体では無いので、致命的なダメージは受けなかったが、マグマはまだこちらを狙ってくる。射出方向は操作可能のようだ。
「どうだ、この半無限のマグマ攻撃は。どうすることも出来んだろう!」
「残念ですが、この程度では、私は倒せませんよ。」
「それは貴様も同じだ。一度も吾輩にダメージを与えられていない貴様と、この無限マグマ…さて、勝つのはどっちかな?」
「くそっ、俺の攻撃が通るならば、フウカがこんな事…!」
「ダーク様…もう少し、辛抱していてください。必ず、勝機が訪れるはずです。」
一瞬の合間を縫って、【豪雨】…【暴風】…
まだか…?
【豪雨】
【暴風】
【豪雨】
【暴風】
マグマが飛んでくる。【水壁】はもはや意味を成していないので、解除して攻撃に集中する。熱いが、この身体なら問題なく耐えられる。
【豪雨】
【暴風】
【豪雨】
【暴風】
「そんな攻撃で吾輩の防御を打ち破れるわけが無いだろう!」
受けた傷を【癒しの闇】で回復し、構わず続ける。
【豪雨】
【暴風】
【豪雨】
【暴風】
今だ!
【雷撃】!
「ヌガッ…!」
水が浸透していたため、敵は一瞬、動きが止まった。感電だ。
「ダーク様、今です、一撃くれてやって下さい!」
「…!分かった。やってやる!」
ダークは助走をつけ、【黒い一撃】を再び放った。
その一撃で、ランドの身体は、粉々に砕け散った。
「ガッ…!!」
「な…!!?」
「…。」
作戦、成功だ。【暴風】と【豪雨】を交互に連打していたのは、ランドの土の身体に水を含ませ、硬度を落とすためだった。そして、水を含んだ土を風で乾燥させ、だんだんと脆くしていった。いわば、『風化』だ。
「吾輩の身体が砕けるだと…!?貴様、一体、何を…!」
転がったランドの頭。驚きを隠せない様子だ。
「さぁ?それを貴方が知る必要はありません。さようなら。」
「待て、やめろ、やめろ…!!」
私は、頭だけになった瀕死のランドに、【疾風撃】をお見舞いした。
風雨に晒され、脆くなったその頭を砕くのは容易だった。そして、灯が消えた。これで、勝ちだ。
そこへ、魔王二人の部下達が駆け付けた。真っ先に飛び込んできたのは隊長のジャズとレイ。
「ダーク様、一体、どうなって…」
「! …ライト様!」
「…おい、マジかよ…」
崩れた岩と共に倒れるライトを見て、二人は絶句した。
「…ライト…」
14話目です。
本当はここ、2話に分かれていたのですが、元の第14話が短いなと思ったので14話と15話をガッチャンコしました。
元の第14話のタイトルは「逆転の兆し」です。




