4.契約
「はぁ、ヴァンパイア、さん?」
男はヴァンパイア属と名乗る目の前の男に対し、まるで信じてないという視線を向ける。
(……ヴァンパイアってあの血を吸うやつだよな?確かに見た目はそれっぽいけどなぁ。なりきり系のコスプレイヤーか?そういうのって話合わせといた方がいいんだっけか)
男がそんな失礼な事を考えている事をまるで見透かしたかの様に、ヴァンパイアはため息をつく。
「貴様我の言葉を信じてないな?……確かに私はヴァンパイアの中でも自然治癒能力に特化していて、攻撃魔法もろくに扱えないし、ダンジョンのボスのクセに冒険者パーティにも舐められた態度を取られ続けているし、でも上からの指示でボスらしくしろと言われているし、ヴァンパイアらしくもないかもしれないが……」
話していくうちにどんどんトーンダウンして、完全に最初の不遜な態度は消えている自称ヴァンパイア属の男の事を哀れに思った男は、ヤバいと思い慌ててフォローする。
「いや、全然そんな事ねーよ。その服装もめっちゃ似合ってるし、めっちゃヴァンパイアらしいって!自然治癒だって要はめっちゃ健康って事だろ?いいじゃん、健康って大事だぜ?それにこの食べ物だって多分お前がくれたんだろ?それがなかったら俺もヤバかったし、めっちゃ助かったぜ!冒険者パーティに舐められてるとかは、……まあ知らんけど」
男の必死のフォローを聞いていく内に、沈みきっていたヴァンパイアの表情は幾分か明るくなる。そして後半の知らんけどは聞かなかったフリをして、ヴァンパイアは目の前のコウモリに感謝を述べる。
「ありがとう、君はいいコウモリだな。私の眷属も君のようなコウモリだったら嬉しいんだけどな」
ヴァンパイアはそう少し苦笑しながら言うと、男は不思議そうに尋ねる。
「お前の眷属はどんなやつなんだ?」
男のその言葉にヴァンパイアはピシリと表情を強ばらせると、言いにくそうに重々しく口を開く。
「……実は私にはまだ眷属は居ないのです。何せヴァンパイア属の中では攻撃魔法がろくに扱えないヴァンパイアは威厳なんて無いに等しいので……。威厳のない主に従いたいなんて物好きな魔物は居ないでしょう」
そう言ってヴァンパイアは先程よりさらに暗い表情になる。
(やっべ、地雷踏んだ。どうしようかな、これ)
男はそう思いながら、ふと余った食べ物の山に視線をやる。そして先程のヴァンパイアの言っていた言葉を思い出す。
——私の眷属も君のようなコウモリだったら嬉しいんだけどな——
「あのさ、1つ聞いてみるんだけど、お前は眷属って欲しいの?」
突然の男の質問に、ヴァンパイアはポカンとした表情した後、大きく頷く。
「それはもちろん。特に私は攻撃する手数が少ないので、攻撃特化の眷属は必須なのですよね」
ヴァンパイアのその言葉に、男はうんうんと頷く。
「だよなぁ。……だったらさ、俺がお前の眷属になるってのはどうよ?さっきお前俺みたいな眷属欲しいって言ってたし、俺みたいな、じゃなくて、俺がなった方がいいんじゃね?」
そんな男の申し出は余程予想外だったのか、ヴァンパイアは目を大きく見開き、しばし固まる。男はそんなヴァンパイアの表情を見て、これが鳩が豆鉄砲を食らった顔っていうんだろうなと可笑しくなる。
「……でも、あの、さっきも言ったように、私は、その、……攻撃魔法はほぼ使えなくて、威厳とか、その……」
ヴァンパイアはやっと口を開いたかと思うと、そこまで言うと再び黙り込んでしまう。
そんなヴァンパイアの様子に、男はやれやれといった様子で説明を始める。
「俺は魔力とか威厳やらは気にしないし必要もない。俺が求めるものは、居と食だけだ。俺はお前の眷属になる、その代わりさっき食べたあの赤いやつ、あれを寄越せ。あと俺が寛げるスペースな。それさえくれるなら、俺はお前の眷属になってやるよ」
偉そうにそう言う男の言葉に、ヴァンパイアは信じられないものを見るような目で目の前のコウモリを見つめる。そうして少しの間静かな時間が過ぎた後、ヴァンパイアは静かに頷く。
「ありがとうございます、あなたの望むものは全て用意します。その代わり私の眷属としてこれからは一緒に来てください」
ヴァンパイアは目の前の小さなコウモリに対しそう言うと丁寧にお辞儀をし、握手を求めるように片手を差し出す。そんなヴァンパイアの様子に男も照れくさそうに羽のついた腕を差し出す。そしてお互いの手が触れた瞬間、男の頭の中に誰かの声が響いた。
——契約成立。条件クリア。スキルツリー、及びレベル、及びステータスボードを解放します。




