2.洞窟の中で
(……くそ、全然飛べねぇ。しかも周りは真っ暗だしどうなってんだよ!)
とりあえず決意して動き出したはいいものの、どれだけ羽ばたいても、どれだけジャンプしようとしても、全然飛べる気配がない。
とにかく飛ぼうと助走して飛ぼうともしたが、そもそも足が細いのとがに股なせいで、のそのそとしか歩けず、全くスピードも出せなかった。
その結果思い付いたのが、一旦壁から天井に向かってよじ登り、そこから滑空して進むというやり方だった。これならある程度は素早く進めるが、洞窟内は別に高さがある訳では無いのですぐに地面に着地してしまう。
その結果壁をよじ登る➝滑空➝地面に着地➝また壁をよじ登るというのを繰り返す羽目になってしまい、しかも飛ぶ事に必死になりすぎて周りをよく見ず進んだせいで、思いのほか奥まで来てしまっていたようだった。
(適当に進んだせいでどのくらい経ったか分からないし、気付いたら真っ暗で方向も分かんねぇし……。コウモリは暗闇得意じゃないのかよ。ハァ、もうどうすりゃいいんだ……)
身体が小さいせいでお腹の減りも早いのか、空腹もそろそろ限界に達しようとしているせいで、完全に先程の決意も萎んでいたがここで諦めたら死んでしまうという恐怖から、必死に足を動かし何度目かの壁をよじ登る。
(ハァ、夢の中で死んだら現実に戻れるのかな……、でもさすがに夢でも餓死はいや……、ん?)
壁をよじ登っている途中で一瞬何かが視界に入った気がして、今度は気を付けて少しづつ下に下がってみる。するとその途中で通気口のような小さい穴を見つけ、その先の方に爪楊枝の先程の小さな光が漏れ出ている事に気付く。
(明かりだ、やった!……このサイズなら、よし、何とか通れそうだ)
男は安心したようにその穴に身体を滑り込ませると、光を目指して前進する。しかし意外と光までの距離があるのか、コウモリの足では遅すぎるのか、なかなか距離は縮まらなかった。
それでも必死に足を動かし前に進み続けると、光は段々と大きくなっていき、微かに人の話し声も聞こえてきた。
(お、何か微かだけど人の声が聞こえる。言葉が通じるといいんだが。……もう腹も限界だし、そろそろ着いてくれぇ……)
そう考えながらそろそろ朦朧としてきた意識を必死に繋ぎ止めながら、這うようにして前へ進むとついに穴の終わりが見え始め、これで助かると思い最後の力を振り絞り今までとは比べ物にならないスピードで出口に向かい走る。そしてそのままのスピードで出口を超えると、その先には地面はなく男はそのまま落下していった。
(あー、またかよー!くそ、さっきよりかは飛ぶのには慣れたんだ、このまま落ちてたまるかよ!)
2度目の落下にイラつきながらも、男は抵抗するかのように必死に羽ばたく。しかし体力も底を尽きかけていたせいもあり、むしろ最初の落下よりスピードを上げながら男はそのまま落下していく。
————
「やはり噂通り、ここのボスは回復だけみたいだね。攻撃魔法は全然大した事ないな」
先頭に立っていた剣士は、そう言いながらニヤニヤ笑い繊細な装飾を施された剣を構えると、その後ろに立っている仲間のメンバーも同じようにニヤニヤして同意する。
「そうね、回復されるのはめんどいけど、スキル試しと経験値稼ぎには持ってこいだわ」
そう言い手に持った杖をくるりと回す白魔道士と、余裕の表情を浮かべながら頷くナイフを構えたアサシン風な男。そんな冒険者パーティと向かい合うようにして退治しているのは、このダンジョンのボスのヴァンパイアだった。
「……フン、その余裕、いつまで持つかな?我の攻撃を受けてみよ!」
ヴァンパイアはそう言いながら腕を上に上げる。しかし冒険者パーティは特に警戒する事もなく、未だにニヤニヤしているだけだった。
それもそのはず、このヴァンパイアはこのダンジョンのボスなのだが、自然治癒能力に特化しており攻撃魔法の威力は弱く、それが冒険者パーティの間で知れ渡っており、そのせいで冒険者の腕試しに使われる始末だった。
ヴァンパイア自身もそれは知っていたが、上からの指示でボスとしての威厳は失うなと言われており、仕方なく冒険者の前ではこうした態度を取っていた。
「ハッ、いいぜ。やってみろよ。避けずにちゃんと食らってやるから、上手く当てろよ?」
冒険者パーティのリーダー格の剣士がニヤニヤしたままの表情でそう言う。ヴァンパイアがその言葉に眉間に皺を寄せながら攻撃魔法を繰り出そうとしたその時。
バコ——ン!……ドサッ!……ガンッ!
いきなりものすごい音がしたかと思うと、リーダー格の剣士がいきなり倒れる。
「……え!?ちょっとどうしたのよ!」
突然の出来事に一瞬呆気に取られた仲間が急いでリーダー格の剣士に駆け寄ると、リーダーは何故か白目を剥いて気絶していた。




