↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の咎喰い  作者: 捨て石


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/27

第2話:破滅の渦と別離

 第2話:破滅の渦と別離

「……ほう」 ルシエルの白銀の眉が、わずかに跳ね上がる。 全滅させたはずの人間の中から立ち上がった異形の威容。その左腕から立ち昇る黒紫の魔気——己の白炎をかき消した禍々しい力に、彼は薄く冷酷な笑みを浮かべた。 「戯れにしては興が削がれる。古の呪物ごときに与したか……醜いな、人間」 「ルシエル……ッ!」 喉を焼き切るような呪詛とともに、ヒルデは地を蹴った。 重厚な甲冑の自重を置き去りにする狂暴な踏み込み。石床が爆発したように弾け飛び、ヒルデの身体は黒紫の残像となってルシエルの懐へ肉薄する。 異形化した左腕が、身の丈を超える『誓約の咎喰い』を軽々と旋回させた。 グオォンッ!!! 黒炎を纏う大剣が、ルシエルの首を狙って横一文字に走る。 『クハハッ! 刻め、砕け、食らい尽くせ娘ぇ!』 脳内でエレボスが高笑いを上げる。 ルシエルは瞬時に白炎の障壁を展開するが—— ドォォォンッ!!! 先ほど鉄剣を溶かした白炎が、大剣の衝撃に耐え切れず軋みを上げた。巨大な衝撃波が広場を吹き荒れ、天井から落石が降り注ぐ。ルシエルの身体が、初めてわずかに後方へと弾き飛んだ。 「チッ……!」 空中へと逃れたルシエルは、不快そうにその顔を歪める。障壁を破られかけた事実そのものが、彼の傲慢を苛ませたのだ。 「身の程を知れ、汚物」 ルシエルの両手から、先ほどとは比べものにならない密度の白光が奔流となって溢れ出す。広場の温度が一瞬で跳ね上がり、周囲の石柱がドロドロと溶け始めた。 『追うな、娘!』 エレボスの声が鋭く響く。 『今の器では、あの規模の炎を食らえば肉体が崩壊する! 引くのだ!』 「黙れ……! 奴を殺す……ここで……ッ!」 「ヒルデーーーーッ!!!」 炎の嵐の向こう側から、ガゼルの悲鳴のような叫びが届いた。 ハッと視線を滑らせると、崩落する天井と白炎の奔流に挟まれ、ルカを庇いながら逃げ場を失っているガゼルの姿があった。 「くっ……!」 ルシエルへの殺意と、手に残るミレットの指輪の感触。 狂気の中で一瞬だけ戻った理性が、ヒルデの足を踏みとどまらせた。 「ガゼル! ルカを連れて逃げろ!!」 ヒルデは異形の左腕を一閃させ、エレボスの黒魔力を爆発させた。黒紫の波浪が白炎の奔流と正面から衝突し、広場全体を白と黒の狂乱した爆炎が包み込む。 轟ーーーーーッ!!! 崩落した巨大な岩塊が、ルシエルとヒルデの間を遮断した。 「……興が削がれたな。不完全なサンプルの死に様など、見る価値もない」 煙の向こうからルシエルの冷ややかな声が遠ざかっていく。人間を完膚なきまでに切り捨て、彼は姿を消した。

 ◇

 静寂が戻った遺跡の最奥。 漂うのは、焼き尽くされた肉の匂いと、立ち昇る黒い煙だけだった。 「ハぁ……ハぁ……」 ヒルデは大剣を突き立て、荒い息を吐き出していた。 左腕の激痛は引きつつあったが、凶暴に伸びた爪と黒紫の魔紋は元には戻らない。彼女の右手には、灰の中から拾い上げたミレットの鉄の指輪が固く握られていた。 「ヒ……ルデ姉さん……?」 瓦礫を押し退け、ガゼルとルカが歩み寄ってくる。 ルカの瞳には、ミレットを失った絶望と、化け物へと変貌した「姉貴分」への恐怖が色濃く差していた。 「な……なんだよ、その腕……。ミレットたちは……みんなどうなっちゃったんだよ……!?」 「……」 足元に転がる灰が、すべての答えだった。 「……ヒルデ。本部からの緊急伝令が入った」 ガゼルが、通信魔導具を握り締めながら掠れた声で告げる。 「『鉄鎖』第1班は……暴走したヒルデによって全滅。……お前を即刻排除対象として処刑せよとの命令だ……」 あまりにも早すぎる通達。 不自然な作戦配置、あらかじめ解かれていた結界の符、そしてこの迅速すぎる処刑命令——ヒルデの脳裏で、すべての点が繋がった。 (最初から……私を実験台にするための罠だったのか) 上層部は自分たちを使い捨てたのだ。 悔しさと怒りに奥歯が鳴る。だが、ここで無実を訴えれば、ガゼルやルカまで「共犯」として抹殺されるだろう。 (……これでいい) 異形と化したこの身体では、もう光の世界には戻れない。 自分がすべての罪をかぶり「化け物」として闇に消えることだけが、残された二人を守る唯一の道だった。そして——陰謀の首謀者どもの喉笛を噛み千切るには、表舞台から消える方が都合がいい。 ヒルデは血の滲む唇を噛み締め、冷酷な仮面を張り直した。 「……追ってくるな」 背を向け、静かに大剣を引き抜く。 「次に刃を交えれば……誰であろうと斬る」 「ヒルデ姉さんーーーーッ!!!」 ルカの泣き叫ぶ声と、ガゼルの重い絶望を背に受けながら、白髪の女騎士は無底の闇の中へ足を踏み入れ、消えていった。 己の内に潜む『影』とともに、修羅の道を歩むために。


(第3話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。