第12話:『天より来たる搾取者』
第12話:『天より来たる搾取者』
シエラの荒い呼吸が穏やかなものへと変わり、束の間の安堵が集落を包み込んだ -その直後のことだった。
────ドドォンッ!
空を切り裂くような重苦しい衝撃音が響き、崩れかけていた石造りの天井から大量の砂塵が舞い落ちた。
「な、なんだ……!?」
ガゼルが即座に大盾を引き寄せ、身構える。外へ飛び出したヒルデたちの視界に飛び込んできたのは、低く垂れ込めていた灰色の雲を押し破り、舞い降ちてくる一団の姿だった。
純白と金の装飾が施された豪奢な鎧。しかし、その優美な外見とは裏腹に、彼らが纏う魔気は異様なほど冷たく、鋭い。中心に立つ男——ヘメラ配下の徴税部隊長は、足元の泥や石化した魔族の死骸を忌々しそうに見下ろすと、鼻を鳴らした。
「相変わらず不快な臭いだ。……おい、灰燼領の出来損ないども。今期の『徴魔』の刻限だ。さっさと差し出せ」
部隊長が手に持った銀の杖を地面に突くと、巨大な魔法陣が足元に展開された。途端に、集落に残っていた魔族たちが悲痛な叫びを上げてのたうち回り始める。ガルムもまた、胸を押さえて膝を突いた。
「ぐああぁッ……!? ま、待ってくれ……! 俺たちにはもう、差し出せる魔力なんて残っちゃいねえ……! これ以上吸われたら、村の子供たちがみんな石になっちまう……!」
「ハッ、知ったことか」
部隊長は冷酷な笑みを浮かべ、あざ笑うように吐き捨てた。
「魔王城の『聖なる循環炉』を維持するためには、貴様らのような無駄飯喰らいの命などただの薪に過ぎん。役にも立たんゴミが集まったところで、消費する大気が無駄になるだけだ。……ふむ、少し口減らしをしておくか」
部隊長が顎で合図すると、配下の兵たちが黒い魔術の光球を練り上げ、シエラたちが隠れている倒壊寸前の家屋へと向けた。
「死ね、出来損ないども」
放たれた漆黒の魔導砲が、容赦なく家屋を破壊せんと迫る。
「させるかぁぁッ!!」
怒号とともに割り込んだのは、ガゼルだった。両手でしっかりと握りしめた巨大な盾——『鉄鎖の盾』を地面に突き立て、魔導砲の直撃を真っ向から受け止める。
────ズドォォォンッ!
激しい爆風と火花が散り散りになる。ガゼルは脚を深く泥にめり込ませ、歯を喰いしばりながら攻撃を完全に削ぎ落とした。
「……ッハ! 大口叩く割には、ずいぶんとしょっぱい攻撃じゃねえか!」
「なに……!? 人間だと……? なぜこんな底辺の肥溜めに人間が紛れ込んでいる!?」
予期せぬ反撃に部隊長の眉が跳ね上がる。その背後で、ルカが鋭い眼光で背中の装甲を睨みつけた。
「ヒルデ、背中の集束器だ! あそこに吸い上げた魔力が溜まってる……壊せば逆流させられる!」
「利口ぶった口をきくな、虫ケラどもが……ッ!」
苛立ちを露わにした部隊長が杖を掲げ、周囲の兵たちに迎撃の構えをとらせる。
だが——彼らの行動は、そこまでだった。
圧倒的な威圧感と、冷気すら感じるほどの純粋な怒り。歩み出てきたヒルデの全身から溢れ出す圧倒的な存在感に、徴税部隊の面々が思わず息を飲んだからだ。
左腕の包帯から漏れ出す、深淵のような黒い煙。右手に握りしめた大剣の柄を、指骨が白く浮き出るほど強く握りしめている。
(……同じだ)
ヒルデの頭の中で、かつて故郷を焼き尽くしたルシエルの高圧的な嘲笑と、いま目の前で弱者を踏みにじる徴税部隊の姿が完璧に重なり合った。
「自分たちだけが偉くて、他人の命はゴミみたいに使い捨てていい……そうやって笑っていられるのが、お前たちの言う『世界の理』ってやつか?」
ヒルデの声は低く、地響きのように静かだった。だが、その瞳の奥には、業火のような殺意と怒りが渦巻いていた。
「ルシエルも……お前たちも……どいつもこいつもッ!」
怒りが頂点に達した瞬間、異形化した左腕の黒い鱗が一斉に逆立ち、禍々しい黒炎が爆発的に噴き出した。
「生きるために必死な奴らを踏みにじるその腐った理……あたしの左腕で、残らず喰らい尽くしてやる!!」
(第13話へ続く)




