30.ルシアスとのデート
誤字の修整と、所々の言い回しを少し手直ししました
セリシアと精霊の話をしてから数週間。
エル達が学院に入学して早くも一ヶ月以上が経過しようとしており、もうすぐ試験が迫っていた。
同級生達も学院生活に馴染んできており、授業にもかなり慣れて来ている様子。
そんなある日のこと......。
「――エル、明日僕とデートしない?」
四時限目の授業が終わり、セリシアと一緒に帰りの準備をしていた所で、前の席のルシアスが唐突にそう言って振り返った。
だが、エルはそんな突然の誘いに「デート?」と首を傾げる。
「ほら、この前僕とも出掛けようって話をしただろう?」
そうルシアスが付け加えた説明を聞いて、隣のセリシアが口を開く。
「言ってましたね、そんなこと」
「東の大通りに行きつけのお菓子の店があるんだ、どうかな?」
――よくよく考えれば、ルシアスとはあまり腹を割って話したことがない。
少し聞きたいこともあるし、食事くらいなら行っても良いか。
と、考えたエルだったが、直後に一つ懸念点が頭をよぎる。
「私はいいけど......。 いいの?」
そう言いつつチラリとセリシアの方を見るエル。
懸念点とは、セリシアが嫌がるのではないか、と言うものだ。
以前からセリシアにルシアスとデートするのを猛反対されている。
幼い頃からルシアスの女誑しな性格に振り回されてきたゆえに、エルがそれに巻き込まれない様にとの気遣いらしい。
がしかし、今回は特に反対する気はない様子......。
「うーん、少し心配ですけど。 この際、一度デートした上でエル様がルシアスに惚れることは絶対にないってことを分かってもらいましょう!」
なんて自信たっぷりなセリシアの言葉に、ルシアスはほんの少しだけ不満げな表情を浮かべる。
がしかし、すぐに気を取り直すと、明日の予定について話し始めるのだった......。
そうして次の日のお昼。
質素な黒のワンピースに袖を通したエルは、ルシアスの用意した馬車に揺られ、東の大通りへと来ていた。
隣には保護者役のコゼットがいる。
異性の相手と二人きりで出掛けるのは心配、とミリスティアの過保護が発動して、仕方なく連れてくることになったのだ。
相手はただの友人だから平気とエルは言ったのだが、どうしてもと押し切られたのである......。
「――あの、コゼット。 暑苦しいから離れて?」
「......駄目です、奥様からエル様を御守りするよう言われてますので」
なんてエルに抱き着きつつ、まるで番犬のようにルシアスを睨むコゼット。
それに対し、ルシアスは困った様に苦笑いを浮かべていた。
身内の中でも母に次いで過保護なコゼットは、母と結託してルシアスをエルに近づけても良い存在なのか見極めるために着いてきたらしい。
コゼットにとって、エルは妹や娘のような存在。 それが初めて異性からデートに誘われとなれば、相手がどんな人間なのか直接確かめたくもなる。
そうして、そんなこんなでコゼットに睨まれて気まずそうなルシアスを横目に、窓の外を流れる景色を眺めること数十分。
「――着いたみたいだね」
と、ルシアスが言うのと同時に、馬車は目的の店へと到着した。
「足元、気をつけて」
扉を開け、先に馬車を降りたルシアスはそう言ってエルに手を差し伸べる。
エルは差し出された手に一瞬戸惑いながらも、すぐにその手を取って馬車を降りた。
その直後、店先にまで漂ってきた香ばしい甘い香りに、エルは思わず目を丸くする。
「いい香りだろう? 流石のエルも甘い物には弱いみたいだね?」
エルの表情を見たルシアスはそう言って、悪戯な笑みを浮かべた。
――特段、甘い物が好物という訳ではない......。
たまに母様が買ってきた物や、コゼットが作るお菓子を少しもらうくらいだ。
だがしかし、この香りには大いに興味を惹かれた。
匂いだけでも美味しいのが想像できるくらい良い香りだ。
「じゃあ早速、店内に入ろうか」
「あ、うん」
と、エルはルシアスに手を引かれ店へと入る。
扉を開け、カランカランと来客を知らせるベルの音が店内に響くのと同時に、店先よりも濃い甘い香りが吹き抜けた。
このお菓子の店は王都内でも有名らしく、かなり美味しいと学院の女子の間でも話題になっているらしい。 店の内装は木目調の落ち着いた雰囲気で、漂う紅茶とお菓子の香りがエルの食欲を刺激する。
そして、エル達はベルの音で対応に出てきた店員に窓際のテーブルへと案内される。
「――さて、エルはどれが食べたい? クッキーにマドレーヌ、パウンドケーキに普通のショートケーキとかもあるよ。 個人的オススメはパンケーキだけどね」
と、席に着き店員に手渡されたメニューを眺めるエルに、オススメを伝えるルシアス。
それを聞いて、どれも美味しそうだと決め兼ねたエルは、ルシアスのオススメに乗ることにした。
「それなら、パンケーキにしようかな」
「よし、じゃあ僕も同じのにしよう」
ルシアスはそう言ってニコリと笑うと、軽く手を挙げて店員を呼びつけ、パンケーキと紅茶を頼む。
そうして、少しすると紅茶と共に三枚積み重なった綺麗なカラメル色のパンケーキが運ばれてきた。
上にはシロップと共にバターが乗っており、甘い香りを存分に漂わせながらゆっくりと溶けて始めている。
「――あぁ、美味しそう......」
と、その匂いからして既に美味しいパンケーキを見て、エルの横に控えていたコゼットが悲しそうに呟いた。
今回、コゼットはこのパンケーキを口にすることができないのだ。
エルにとってコゼットは家族同然ではあるものの侍女と言う立場である以上、同席と言う訳にはいかない。
エルがプライベートで来ていれば、コゼットも気兼ねなく同席出来るのだが......。
残念ながら今日はルシアスとエルのデートなのでお預けだ。
しかし、そんなコゼットを可哀想に思ったエルは「今度は、二人で来よう」と言って約束を取り付けた。
それから、エルは皿の横に置かれたナイフとフォークを手に取り、シロップの掛けられたパンケーキを綺麗に切り分けて口へと運んだ。
しっとりとしたパンケーキ生地そのものの甘みと、シロップのとろっとした甘さが絶妙にかみ合っており、その美味しさのあまり目を見開くエル。
そして、そんなエルの様子を見たルシアスは嬉しそうに微笑む。
「どうやら、気に入ってくれたみたいだね?」
その問いに、パンケーキをもぐもぐと咀嚼しながらも何度も頷くエル。
ルシアスはそれを見て「あははっ」と笑った。
「エルって普段から物静かで凛としてるけど、案外表情豊かだよね」
「ん、そう? まあ確かに、騒がしくない方ではあるけど......」
――表情が豊かだという点については、同意しかねる。
別に、感情を表に出すのは苦手じゃないし制限もしてないが、そこまで豊かと言われるほど表に出している自覚はない。
「セラと居るときなんか、よく笑顔を見せてるしさ?」
そんな事をいうルシアスに対してエルは、人のことをよく見てるなあ、と感想を抱く。
「僕、エルの笑顔好きなんだよね。 綺麗だから」
なんて、いつもながらスルッと小っ恥ずかしい事をいうルシアスにエルは「はいはい」と軽く流しながらパンケーキを口に運ぶ。
そうして、その後も雑談をしながら二人はパンケーキを食べすすめて、あっという間にお皿の上からパンケーキが消えてゆくのだった......。




