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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ


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02.日常

  ——ルビスとの稽古が始まって早くも数日。


  空気の冷たい早朝。

  エルは鳥の鳴き声で目を覚ました。


  まだ少し眠気の残る身体を起こし、背伸びをするとベッドを出る。

  今日はルビスが所用で来れないらしく、稽古は休みとなった......。


  だが日課だけは欠かさない。

  午前中は必ず体力作りと、素振りをするとエルは決めているのだ。


  とはいえ、午後は基本的に剣の稽古に使っていたので、それがなくなると途端に暇になる。 以前は、たまーに母から魔術を教えてもらっていたのだが、師匠との稽古が始まってからは顔を出せていない。


  ——久しぶりに教えてもらおうかな。

  と、エルはあくび混じりにカーテンを開けながら考えた。


  魔術を使えないからと言って一切学ばない、という訳にもいかない。

  魔王が世界を脅かして以来、人々の生活を楽にする程度の代物だった魔術は、より殺傷性の高いものへと発展してきた。


  剣がなくとも、魔術で人を殺せる時代。 当然接近戦でも魔術はよく使われる。

  父ダリルからもよく「勉強しておきなさい」と言われている。


  そうして、エルは一日の予定を考えつつ、稽古用の服に着替え、髪の毛をポニーテールに結うと、ドアの横に立て掛けた木剣を持って部屋を出た......。


 


  庭へ出ると、すぐさま準備運動を始めるエル。


  ストレッチと軽い走り込み。

  息が上がってくると、冷たい空気で肺が痛む。

  そこから更に腕立て伏せをして、漸く素振りを始める。


  木剣を構え、深呼吸をしながら目を閉じ、ルビスに言われた事を思い出す。


  ――適度な脱力と重心の制御。


  この数日間、ルビスにボコボコにされながらも叩き込まれた事を、できるだけ意識しながら、上下左右に剣を振り抜く。

  一回一回、丁寧に全力を込め、それを二回、三回と続ける......。



  そうして、素振りの回数が二百を超えた頃。

  突然、後ろから声をかけられた。


 「エル、おはよ~」


  驚いて後ろをふり返ると、そこには眠そうにあくびをしている兄——アルカードが立っていた。


 「おはよ、アル兄様」


  父譲りの茶髪はボサボサで、母譲りの蒼い瞳は涙で潤んでいる。

  また徹夜でもしたのだろう......。


  ——アルカードはエルとは違って魔術の才能に恵まれていた。

  父よりも母方の血を濃く受け継いだらしく、物心着く頃には母と一緒に書庫に籠っては、魔術を学び始めていたという。

 

  顔立ちも母似の美人系だが、性格だけは父に似て寡黙。

  書庫の窓際で静かに本を読んでるのをよく見かけるが、その姿はどこか儚さを感じさせた。


  歳はエルより二歳上の十歳。 既に学院に通っていると言うのに、徹夜してまで魔術の勉強をするほどの魔術大好きっ子だ。

  現に、今も目の下に隈を作っている。


 「また徹夜?」


 「うん、水の魔術の応用が思ったより奥深くて......。気づいたら朝だった」


  そう言って眠そうに目を擦った兄に、エルは苦笑いを浮かべた。

  幸いな事に今日は学院はお休みらしく、問題は無いと言った顔でエルを見る。


  アルカードは学院で読み書きや算術を学ぶよりも、書庫で魔術を学んでた方がよっぽど有意義だとよく口にする。

  だが、エルは学院に通うのを楽しみにしてるのだ。


  それと言うのも、エルはずっと剣術の事ばかりで王侯貴族やら社交界やらには全く顔を合わせたことがない。両親も仕事の都合でお家同士の付き合いにはあまり顔を出さないので、自ずとエルもひとりぼっちになる。

  エル自身もお茶会などの場所に行くのには慣れておらず緊張するので、今更行こうとは思わない。


  だが学院に入れば、日常的に歳の近い子と顔を合わせることができる。

  そうなれば少なくとも友達の一人は出来るだろう、と考えているのだ。


 「——それじゃ、僕は少し寝てくるから。 素振り頑張って」


  と、エルが学院に思いを馳せているとアルカードは欠伸を漏らしながら廊下を歩いてゆく。


 「うん、ありがと」


  エルがそう言って、背中を見送るとそれと入れ替わるようにコゼットが姿を見せた。


 「——おはようございます、エル様。朝食持ってきましたよ」


  手にはお盆を抱えており、お皿にサンドイッチが二枚乗っている。

  どうやら、そろそろ屋敷の使用人達が働き出す時間らしい。


  この屋敷にはコゼットを含めた三人のメイドと、それを纏める執事が一人働いている。

  昔はもっと数が居たのだが、今ではたったの四人だけだ。


 「——あ、おはよコゼット。ちょっとまってて」


  エルは木剣を壁に立て掛け、バケツに汲んでおいた井戸水で手を洗う。

  それから庭に置かれた椅子に座って、コゼットの用意してくれたサンドイッチを手に取った。


 「おいしぃ」

 

  と、サンドイッチを口にするなり幸せそうな笑顔をもらすエル。


  エルは昔からコゼットの作るこのサンドイッチが大好きだった。

  ちょうどいい塩加減のベーコンにシャキシャキのレタスと甘酸っぱいトマト、そしてそれらに絡まる塩辛いソースが抜群に合っている。

  他のメイドが作るサンドイッチよりも段違いに美味しいのだ。


  少し前に、なにか特別なレシピでもあるのかと思って聞いてみたものの、『秘密です』と言って教えてくれなかった。

  いつか絶対聞き出してやる、などと考えながら食べ進めると、サンドイッチ二枚はあっという間になくなってしまう。


  そうして、エルはほんの少しの休憩を挟んだ後、素振りを再開する。

  コゼットはその様子を見て微笑むと、空になった食器とコップを手に屋敷の中へ戻って行くのだった......。


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