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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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27.王都観光 中編

 アクセサリーの露店を後にしたエル達はセリシアの要望で露店通りを抜け、大通りにある古本屋に来ていた。



 「——魔術の教本? たしかセリシアの魔術属性って水だよね?」


 「はい。 剣術は苦手ですけどっ! 魔術なら得意なのでっ!」


  そう言って、セリシアは何度も背伸びをしながら上の方にある本へ手を伸ばす。

  因みに、エルはセリシアの魔術属性を学院初日の実技テストで知った。

  使えるのは初級までらしいが、この前のアメリアとの勝負を見て感化されたのか、最近は中級魔術を習得出来るよう努力しているらしい。


 「んんっ~!」


 「お嬢様、私が代わりに取ります」


  と、なかなか本に手が届かないのを見かねたフィーネが、代わりに本を手に取る。


 「ありがとう、フィー。 会計をしてくるので、エル様は先に外で待っててください。」


  そうして、本を受け取ったセリシアはフィーネにお礼を言いつつ、店の奥へと入っていく。


  古本屋と言うだけあって、店内は棚と本がギッチギチに詰められており、棚に置ききれない本は塔の様に積み重なって置かれていて、とにかく歩きづらい。


  しかし、セリシアは慣れてるかのようにスルスルと棚の間を歩いて行ってしまう。

  なので、エルは仕方なく、言われた通り店を出ることにした。



  カランカランとベルを鳴らしてドアを開けると、外で待っていたルビスがエルに声をかける。


 「あれ、エーデルレオン嬢はまだ中?」


 「はい、いま会計をしてます」


  エルはそう言いながら店の軒先に寄りかかるルビスの隣に立つ。


 「その髪紐、似合ってるよ」


 「あたりまえです。 セラが選んでくれたんですから」


  髪紐を褒めてくれたルビスに向かって、エルは得意げに笑みを浮かべた。

  露店をあとにした後、それまで後ろ髪を束ねていた白い紐を解いて、早速セリシアに貰った薄紫の髪紐に変えたのだ。


  ――初めて友人からもらった贈り物。

  自慢しなきゃもったいない。


  なんて、言葉を交わしていると、横のドアがカランカランと音を立てた。


 「お待たせしました! 次はどこに行きます?」


  そう言って、分厚い本を何冊か抱きかかえたセラが店を出てくる。

  まだまだ元気が有り余ってる様子だ。


 「取り敢えず、歩きながら考えよっか」


  時間はまだ、お昼過ぎ。

  余裕はたっぷりある......。




  ——それから、数時間後。

  大通りの服屋やお菓子屋などを巡っていると、とあるお店から突然声を掛けられた。


 「おい! ルビスの旦那!」


  辺りに響く野太い声に足を止めると、通りの反対側でエプロン姿の筋骨隆々なおじさんが手を振っているのが見える。


 「師匠、お知り合いですか?」


 「あぁ鍛冶屋の人だ。 この前剣の整備を頼んだんだけど......」


  と、ルビスは苦笑いを浮かべながら小さく手を振り返していた。


 「この前頼まれたヤツ! 出来てるぜぇ!」


  周りの視線を気にせず叫ぶおじさんに、ますますルビスの笑顔は引きつる。


 「あぁ......ごめん。 ちょっと寄っていい?」


  申し訳なさそうにそう言うルビスに、エルもセリシアも快く頷く。


  鍛冶屋はエルも少し気になっていたのだ。

  将来、騎士になるにしろ、傭兵になるにしろ、剣だけは手放すつもりはない。

 

  という事で、早速鍛冶屋の中へお邪魔させてもう。

  因みに、セリシアはあまり武具類には興味が無いらしく、フィーネと一緒にお店の外で待っていることになった。



 「――おうおう、可愛い嬢ちゃん引き連れてどうしたんだいルビスの旦那ァ」


  店内だと言うのに店主のおじさんは無駄にデカい声で喋り続ける。

  その度にエルはビクッと肩を揺らした。


 「弟子とそのお友達ですよ」


  なんて、困った表情で答えたルビスに、店主のおじさんはエルを品定めをするような視線を向ける。

  そして、ほんの少しの沈黙の後、


 「はあ! こいつぁ面白ぇ! おい嬢ちゃん、剣が必要になったらウチへ来な! 可愛いし安くしておいてやるよ」


  と、店主のおじさんはニカッと笑った。

  どうやら、白髪だからといってどうこう言う性格ではないらしい。


 「エル、俺たちの話が終わるまで少し店内を見て回りなよ」


 「そうだな、こっちはすぐ終わるけどよ! 好きなだけ見てってくんな!」


  と、無駄に音圧のある店主の声にエルが頭痛を感じ始めた所でルビスが間に入って本題へと話を進めてくれる。


  すると、店主は真面目な顔つきでカウンターの下から一本の直剣を取り出して値段やらの話を始める。

  その様子を横目に、エルは言われた通り店内を見て回ることにした。



  鍛冶屋、と言っても工房があるのは店の裏手で、ここには剣や盾、鎧なんかを置いているらしい。

  そんな中、エルは一人で壁にかけられた直剣や短剣に目を輝かせる。


  好奇心で樽に乱雑に放り込まれている直剣の一つを手に取ってみる。

  すると、木剣とは違ってずしりとした金属の重みが腕にのしかかった。

  そして、試しに軽く素振りをしようと剣を振り上げてみるものの、慣れない重さにそのまま後ろへ重心が持っていかれて、よろけてしまう。


  たたらを踏みつつバランスを取り戻したところで 、早くも要件が終わったらしい店主が、カウンターから出て来て声をかけてきた。


 「――嬢ちゃんにゃその剣はまだ早ぇかもな」


 「......そうですね。 まだ重すぎます」


  店主の言う通り、これを振り回して戦えるほどの筋力と体力はまだない。

 

 「もし今の嬢ちゃんが使うならこの辺りがいいんじゃねぇか?」


  店主はそう言うと、壁の上の方に掛けられた細剣(レイピア)を持ってエルへ差し出した。


 「細剣ですか?」


  エルは手に持った直剣を横に立て掛け、差し出された細剣を受け取る。


 「初めてなら、まずは金属の重さと振り心地に慣れるこったな。 成長して細剣が軽すぎて肌に合わねぇっていうんなら、そんときに直剣に切り替えりゃあいい」


  おじさんの言う通り、受け取った細剣は先ほどのよりも軽く振りやすかった。

  だがしかし、エルの現状の実力と戦闘スタイルでは、攻撃を受け流すよりも受け止めるほうが多いため、細剣の刀身では少し心許なく感じてしまう。

 


 「ありがとうございます、買う時の参考にしますね」


  そう言って、エルは細剣を店主に返す。

 

 「――もう少し見ていく?」


  直剣を受け取り、それを腰に差したルビスにそう尋ねられたエルは、首を横に振った。


 「外でセラが待ってるし、そろそろ行こう」


  その返事に、店主のおじさんは少し残念そうな表情を浮かべるが、快く見送ってくれる。


 「そうか。 また来てくれよ? ルビスの旦那も、まいどあり!」


  そうして、店主に見送られながらエル達は鍛冶屋を後にした......。




 「——そろそろ、二人が行こうって決めた場所を回ってもいいんじゃない?」


  鍛冶屋を出て更にしばらく大通りをぶらついていたエル達に、ルビスがそう口を開いた。


  場所によっては現在地から、かなり歩く必要がある。 日差しもそれなりに傾いてきているので、少し急いだ方がいいかもしれない、とエルは思った。


 「そうですね、少し急ぎましょうか」


  セリシアも同じ考えだったらしく、ルビスの提案を素直に受け入れる。


 「じゃあ、まずは星見の噴水広場に行こう」


  と、言う事で次の行き先がきまった。




  この王都で一番有名な観光地、星見の噴水広場。

  待ち合わせ場所の定番として老若男女問わず集まるその場所は、暗くなると噴水が止まり、水面に星空が写し出されることから、その名前が付けられた。

  そして特に夜は恋人がイチャつく場所の定番となっているらしい。


 「——ここも、やっぱり人が多いなぁ」


  噴水広場につくなり、ルビスがそうこぼす。

  円形の噴水広場は、その四方が全て大通りに繋がっているため、多くの観光客や待ち合わせの人で溢れかえっているのだ。


 「そうだエル様。 この噴水、銅貨や銀貨に願いを込めて投げ込むとその願いが叶うって噂があるんですよ!」


  と、笑顔で教えてくれるセリシア。


 「へー、知らなかった。 やってみる?」


 「はい!」


  あくまで噂は噂。 別に信じてる訳じゃないが......。

  やってみるのも面白そうだ、と思ったエルは人混みで逸れないようセリシアの手を引いて、噴水の傍まで歩み寄った。


  そして二人はお小遣いの入った袋から銀貨を取り出して握り締めると、目を瞑って願いを込める。


  ――とはいえ、パッと思いつく願い事が無い。

  夢は自分の力で叶える。 欲しいものは努力で手に入る。

  どうせ願うなら絶対に手に入らないものの方が叶った時に嬉しいだろう。

  それでも特に思いつくものはないが、強いて願うとするのなら......。

 


  いつか魔術を使ってみたいな。



  と、エルは半分冗談の気持ちでそう願って銀貨を噴水へ投げ入れた。


 「願い事、叶うといいですね」


  ポチャンと広がる波紋を見てセリシアは微笑む。

  エルもそれに笑顔をかえし、一行は噴水広場を離れて次の目的地へ移動した......。




  次にエル達が足を運んだのは、王都の北西にある魔術学院の時計台だった。

  かの魔術大国ヘカーティアの次に権威ある学院として知られるヴァーミリオンの魔術学院には、敷地内に大きな時計台が聳え建っており、有名な観光地となっている。


  エル達の通う王立学院はこの魔術学院の近くにあり、時計台そのものは登下校の際に何度も目に入っていた。

  しかし、ちゃんと近くで見るのは今回が初めてである。


 「——で、デカいですね!」


  と、セリシアは空を見上げて楽しそうに口を開く。

  エル達は魔術学院を囲む塀に沿って歩きながら、そんな時計台を見上げていた。

  秒針が一周する度に、長針が進むガチャという音が聞こえる。


  そして、エル達が時計台に最も近い場所に着いたと同時に丁度よく長針が天を指し、ゴーンゴーンといつも学院で聞いている鐘の音よりも何倍も低い鐘の音が響き渡った。


 「うっ、このお腹の底に響く鐘の音。久々に聞きました......」


  なんて、一番後ろを歩くフィーネがそう苦い顔をしながら呟く。


 「そう言えばフィーはこの魔術学院の出身なんだっけ?」


  と、フィーネの呟きにセリシアが反応する。


 「はい、昔は冒険者を夢みてこの学院で魔術を磨いてました」


 「では、どうして今セリシア嬢のメイドを?」


  そうルビスが尋ねると、フィーネは軽く微笑んだ。


 「すみません、言い方が悪かったですね。 夢は叶いました。 けれど私の思っていた冒険者と今の時代の冒険者が違ってたんです」


  懐かしい過去を思い出すように、フィーネは時計塔を見上げながら遠い目をしてそう語った。


  ――どうやら、フィーネが憧れたのは魔王全盛と呼ばれた時代の冒険者らしい。

  そもそも冒険者とは、そこらの傭兵とやってることは殆ど変わりがないのだ。

  違う点はたったの二つ。 人ではなく魔獣を相手にすることと、迷宮に潜ることである。


  かつて魔王の侵攻によって奪われた土地には、迷宮と呼ばれる魔獣の巣がそこら中にあった。

  冒険者はそれらを殲滅すべく立ち上がった、個人の傭兵達を指す言葉だったのだ。

  しかし時代が変わり、最近ではギルドと呼ばれる組織に所属している者が冒険者だと定義されている。


  だが、フィーネが目指したのはかつての自由な冒険者であって、ギルドに属し、斡旋された依頼をこなす組織的な冒険者は、夢見たものとはどこか違ったのだろう。


 「――まぁそんな理由で冒険者を辞めたあと、路頭に迷ってる所を奥様、もといセリシア様のお母上に拾われて今に至ります」


 「だから、フィーはすごく魔術が上手なんです!」


  と、セリシアは自慢げな笑みを浮かべるが、フィーネは照れているのか、頬を少し赤らめて話題をサッと切り替えてしまう。


 「んんっ......! (わたくし)のことよりも、まだどこか行かれる予定なのですか? 時計塔はもう夕方の時間を指していますが」


  フィーネの言葉で空を見上げると、言う通り西の空が茜色に染まり始めていた。


 「ほんとだ。 どうしよう? そろそろ帰る?」


 「うぅ、ですね。 楽しすぎて時間があっという間です......」


  なんて、エルの発言にセリシアは寂しそうに同意する。

  そんなセリシアの表情を見かねて、ルビスが最後に一つ提案をしてきた。


 「なあ、俺の取っておきの場所が近くにあるんだ。 最後にそこだけ紹介させてくれないかな?」


  とのルビスの提案に、セリシアはパァッと表情を明るくしてエルの方を見る。


 「まあ、まだ日が沈みきるまで余裕あるし。 少しくらいなら......」


 「やった! じゃあ、いきましょう!」

 

  と、エルがルビスの提案を了承すると、セリシアは嬉しそうにエルの腕へ抱きついた。

  そうして、ルビスに案内され、エル達は王都の西へと足を向けるのだった......。

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