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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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24/33

23.炎が咲く

  暖かな日差しの降り注ぐ昼休み。

  なぜだかエルは、木剣を手にアメリアへ向かい合っていた......。

  事の発端は十数分前、アメリアに勝負を挑まれたところから始まる——。




 「私と、このアメリア・ヴァーネットと今すぐ勝負しなさい!」


 「——ど、どうして?」


  アメリアの言葉に理解が追いつかず、エルの口から疑問の言葉が零れた。


 「貴女がリオウに勝ったからよ!」


  なんて、当然のような表情で言うアメリア。

  それを聞いてもエルは理解も納得も出来なかった。

  すると、アメリアの背後から息を切らしつつ全力で走ってきたリオウが、


 「ちょっ......あの、アメリアさん......待って」


  と、止めに入る。


 「あらリオウ、遅かったじゃない」


 「アンタ......俺を理由に、エルアリアと戦いたい......だけッスよね?」


 「まあ、私の可愛い従者が負けたのよ? 仇を取ってあげるのが主人たる私の務めじゃない? それに、私はこの白髪頭が気に食わないの」


  最後に思いっきり本音が漏れてますけど、なんて思いつつ突っ込んだら藪蛇かと、つい余計なことを言いそうになった口を噤むエル。



  ――それよりも、二人が主従関係だと言う話に興味を持っていかれた。

  以前中庭で顔を合わせた時に、なんとなく上下関係は見えていたが、明確に主従関係があったとしても不思議な距離感に見える。


  リオウはアメリアに一定の忠節を向けているものの、同年代の友人のような気軽さも持ち合わせており、アメリアはリオウを乱暴に扱っているように見えて、明確に強い信頼を向けている。

  お互い、上下の意識はあるものの、幼馴染の様な意識を向け合っているのだ。

 

  そんな二人の関係性を面白く思って見ていると、アメリアはエルに視線を向けた。


 「言ったわよね? 決着は必ずつけるって。 私は本気よ、エルアリア。 当然、受けて立つわよね?」


  とのアメリアの提案に、返事を迷うエル。


  ――これは偏見だが、アメリアが剣術を得意にしているとは思えない。

  しかし、勝負を仕掛けて来るくらいには、何かしらの自信があって挑んできてるはず。

  きっと、魔術だろう。


  入学初日、アメリアはジークに「火の中級魔術を使えるようになった」と話していたのを、エルは聞いている......。


  初級魔術と中級魔術では習得の難しさに大きな差がある。

  初級魔術は、言葉を覚えたばかりの幼子ですら、詠唱さえ出来れば使えてしまう。

  しかし、中級魔術はそう簡単ではない。

  複数の特性を持っているため、そもそもの魔力消費も魔力操作の難易度も跳ね上がっている。


  九歳でそれを習得するという事は、それだけ魔術の実力が高いことを示している。

  現状エルの実力は、剣術だけで見るならば同級生の中でトップに近いと言える。

  だが、魔術が絡んだ場合は下から数えたほうが早いだろう。

  不用意に戦って勝てる相手ではない。


  だが、これはエルにとってチャンスでもあった。

  魔術師を相手に戦闘経験を積める上に、アメリアにはパーティーでの借りもあるのだ......。


 「いいよ、やろう」


  エルは口角を吊り上げ、自信に満ちた声色でアメリアに返事をした。

  しかし、エルの答えを聞いたセリシアが驚いた様子でアメリアとの間に割り込んでくる。


 「エル様! 本当にやるんですか? 校則違反ですよ?!」


 「うん。 だから今回セラは着いてこなくていい。 一緒にいたらセラも怒られちゃう」


  セリシアの心配に、そう言い放ったエルはアメリアの横を抜けて食堂の外へと足を向ける。


 「い、いえっ! 行きます! けど......」


  セリシアはそんなエルの背中に、慌ててついて行く。


 「アメリア、実技場でいいよね? 」


  そして、廊下に出たエルは背後のアメリアに場所の提案を投げる。


 「当たり前でしょ!」


  と、アメリアはエルの提案に不満そうに同意を示して、そそくさと廊下を歩いていった。




  ――そうして、十数分後。

  二人は実技場にて向かい合っていた。

  エルは木剣を手に、アメリアは練習用のシンプルな木の杖を手に。


 「ルールはさっきと同じでいいよね?」


  軽く準備運動を終えたエルが、ルールの確認を始める。


 「ええ。 行動不能になるか、負けを認めるまでやるわよ」


  アメリアはストレッチをしながらそう返事をすると、エルを睨んだ。


  どうしてここまで敵対心を持たれているのか、エルは不思議でならなかった。

  心当たりと言えばパーティーでの一件なのだが......。

  元はと言えばあれもアメリアが突っかかってきたのが原因である。


  もちろん、言い返したエルにも非はあるだろうが、暴言の割合で言えば七対三くらいでアメリアの方が多かったと、エルは記憶していた。


  ――だが、アメリアの敵対心の理由はそれではない......。

 


 「――それじゃあ、準備はいいか?」


  開始の合図はリオウに任せられた。

  エルとアメリアは無言で頷いて準備できてると視線を送る。


  そして次の瞬間、


 「それじゃあ......。 はじめ!!」


  と、 静寂を切り裂いて開始の合図が実技場に響いた。




  セリシアの掛け声と共に、エルは勢いよく走り出す。


  ――定石通り、先ずは距離を詰める。

  アメリアは中級魔術を扱えるほど、魔術に長けているはず。 だけど逆にそれが弱点だともいえる。

  接近戦に持ち込めさえすれば勝てる......。


  なんて、エルは頭の中で勝ち筋を組み立てるが、直後に状況が一変した。


 「――火炎花(ヒ・ロゼ)!!」


  詠唱と同時にアメリアの足元でバチバチと火花が弾け、散った火種から花の形をした小さな炎が咲き乱れる。

  そして、それらは連鎖する様に燃え広がると、一瞬にして炎の花畑を作り出した。


  エルはそれに対し、咄嗟に木剣を振り抜いて風圧で自身の周りの炎の花を消し去ると、完全に炎に包囲される前に咄嗟に加速してアメリアに近づこうとする。

 

  がしかし、当然アメリアはそれを阻む様に次の魔術を放ってきた。


 「――火種(ヒ・シユ)!」

 

 「あつっ......!」


  顔の横で火花がバチッと弾け、エルの頬を焼く。

  痛みと恐怖で、否応なしに足が止まる。


  既に炎の花畑は背後にまで回っており、ぐるりと円を描くように、エルを囲い込んでいた。


  ――アメリアは初手から中級の広域魔術を惜しげもなく詠唱省略で展開したのだ。

  決して、侮っていた訳では無い。

  もちろん油断もしていなかった。


  だが、エルの想定をアメリアの本気が超えてきたのだ。


 「――エル様!」


 「お、ちょちょちょ! 危ないって」


  セリシアがエルを助けに走り出そうとしたところを、リオウが腕を掴んで引き止める。


  ――それでいい、巻き込む訳には行かない。


  と、エルは炎に囲まれた状態で、その会話を拾い安堵する。


 「これで終わり? 貴方も魔術を使ったら?」


  アメリアはエルが魔術を使えないことを知っていて、わざと言っている。

  しかし、エルには言い返す余裕もなかった。

 

  アメリアは、エルが一歩踏み出すたび的確に、顔や手足の近くで火花を炸裂させるのだ。

  その度に、エルは火傷の痛みと火花の弾ける音で腰が引けてしまう。


  加えて散った火種は更に炎の花を咲かせる。

  そして、エルは即座にそれを踏んで消すが、それをしている間にも火花がそばで弾けるのだ。


  ()()であれば、詰み。

  アメリアはこのまま降参するまで、エルを痛めつけてやろうと考えていた。


  燃焼によって酸素が消費され、呼吸もどんどん浅くなる。

  しかし、そう簡単に諦めるほどエルは普通の女の子ではない。



 ——無理にでも火花を無視して、炎の花を突き抜けるッ!



  顔を上げて花畑の上でしたり顔をするアメリアを真っ直ぐ視界に捉えたエルは、喉の奥の恐怖を飲み込んで、その他の勝ち筋を頭の片隅へ追いやる。


 「あら、まだやる気?」


  と、アメリアはエルの鋭い視線に、したり顔で指先をヒョイヒョイと動かして魔力を操作するが、エルはその指先の動きと魔力の流れを頼りに、次に火花が起こる場所を予想した。


  予想が出来ればある程度心の準備も出来るというもの。

  バチッ!バチッ!と顔や胸の前で火花が散る。

  その度に、鼓動が高鳴り身体が勝手に逃げ腰になるが、エルはその恐怖を足元に咲く炎の花ごと掻き消して進む。


 「――火炎花(ヒ・ロゼ)!!!」


  先程と同じ魔術の詠唱。

  しかし、目の前に現れたのはエルの身長を遥かに超える炎の蕾だった。

  魔力の流し方を変えて形をイジったのだろう。


  だが、エルは瞬時にその流れの綻びを見極めると、炎の蕾に向かって剣を振り抜く。

  すると、火炎花(ヒ・ロゼ)はゴォウッと音を立て、木剣の刃を焦がしながら風圧と共に掻き消えた......。


 「なっ?!」


  まさか炎の蕾を斬られると思ってなかったアメリアが驚いて動きを止めると、エルはその隙を見逃さず、すかさず花畑を突っ切る。



  ――本来、あの大きさの火炎花(ヒ・ロゼ)は剣で斬れるほど脆くはない。

  だがどの属性の魔術も、その強度は術者の魔力量や魔力操作の熟練度によって大きく影響される。

  そしてアメリアはまだ中級魔術である火炎花(ヒ・ロゼ)を使えるようになったばかりであり、 その上、詠唱省略の多用によって魔力操作が雑になっていた。

  つまり、綻びがあちこちにある状態だったのだ。

  故にエルでも魔力を断ち切り、炎を掻き消すことができたのである。



  次の瞬間、アメリアの懐へ潜り込んだエルは冷静に淀みなく木剣を構え直し、容赦なく正面からの突きを放つ。

  その剣先は何にも遮られることなく、唖然とするアメリアの臍の辺りに吸い込まれた。


  直後、口から空気を吐き出しながら、ほんの少し後ろへ吹き飛び、地面を何回か転がるアメリア。

  そうして、実技場はそれまでの火花が弾ける騒がしさとは打って変わって、静寂と焦げ臭さに包まれていた......。




 「――アメリアッ!!」


  地面に横たわり、動かなくなったアメリアを見て、リオウが慌てて駆け寄る。


 「......っ!」


  アメリアは目尻に涙を浮かべ、倒れたまま腹を抱えて悶えていた。

  そんな二人の様子を横目に、息を整えるエルに、セリシアが駆け寄ってくる。


 「エル様、平気ですか!?」


 「え? あぁうん」


  なんて返事した瞬間、身体のあちこちにヒリヒリとした痛みが走った。


 「いや。 ちょっと、ううん。 かなり火傷したかも」


  加えて、スカートの裾や制服のジャケットがところどころ焼けて穴が空いている。

 そんなボロボロのエルを見て、セリシアは物凄く心配した様子を見せた。


 「すぐに医務室行きましょう!」


 「うん......でもその前に。 リオウ、そっちは大丈夫?」


  流石にお腹に全力の突きはやりすぎだったか、と不安になってアメリアを心配するエル。

  しかし、アメリアはプルプルと震える腕を支えに腹を抱えながら起き上がってエルを鋭く睨んだ。


 「こ、こんなの全然平気! アンタなんかに、気に掛けられたくないわよ!」


 「......らしいッス。 すまんね、ウチのわがままお嬢様が」


  そう言ってリオウはアメリアの背中に手を添えて支えると、エル達に苦笑いを浮かべた。


 「俺らは後から医務室いくから、そちらさんは先に行っててくれよ」


 「......分かりました、速く行きましょうエル様!」


 「あぁ、うん」


  と、急かすセリシアに手を引かれて、エルはほんの少しアメリアを心配しつつ実技場を後にするのだった。

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