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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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21.剣術の授業

  学院生活が始まって数日。

  授業が本格的に始まり、読み書きや算術などの授業にも慣れ始めた頃......。


  エルへの同級生からの視線は、初日よりもより厳しいものになっていた。


  原因は紛れもなく、初日のシアニスとの模擬戦だろう。

  戦いの様子から、魔術が使えないと言う噂の内容が事実だと判明し、そこから更にあらぬ噂が尾ひれをつけにつけて広がっているのだ。


『――エルアリアに触られると呪いが移って魔術が使えなくなる』


『――あの薄紫の瞳と五秒以上目を合わせると呪われて不幸になる』


『――剣術が得意なのは実は国王の隠し子だから』


  などなど......。

  事実無根、荒唐無稽な噂が教室中を飛び交う日々が続いている。

  しかし、今日は楽しみにしていた剣術の授業が始まると言うことで、エルはそんな噂の事など頭の片隅へと追いやっていた......。




  ――カーンと鐘の音が三時限目の開始を告げる。


 「やあ諸君! 私は君たち学院生徒の剣術指導として雇われている元傭兵のグリオン・マーディスだ! よろしく!」


 実技場の中心で仁王立ちをする筋骨隆々の大男が、声を響かせた。


 「四年生からは受ける授業を自分で選択するようになるが、それまでは剣術の授業は必修科目になっている! 王都にもゴロツキは居るからな! 自分の身くらい自分で守れないとダメだぞ!」


  熱気のすごいグリオンに、両隣でルシアスとセリシアが渋い顔をしている。

  こういうタイプの人が苦手なのだろう。

 

 「さて、早速だが。基礎中の基礎から解説していこうか。 隣の人に剣がぶつからない程度にお互い距離を取ってくれ!」


  グリオンの指示に従い、エル達は等間隔に剣術場に広がる。


 「持ち方は大体みんな見てわかるだろう? 柄の部分を片手でしっかりと握る。 親指で支える感じだ。そして振る! この時、肩や腰を意識するんだ。」

 

  なんて、大雑把な説明をするグリオンに、エルは苦笑いを浮かべた。

  しかし、同級生達は取り敢えず見様見真似で木剣を振り始める。

  振り抜く際に漏らす掛け声や、隣のクラスメイトと会話し出す子など、たちまち剣術場は騒がしくなった。


 「――そう! そう! みんなできてる! それを何回か続けてみよう!」


  そう言って皆の様子を見て回る先生。

  この様子だと学べることは少ないかな、とエルはガッカリする。

  しかし、そんなエルを他所に、剣が苦手だと言うルシアスとセリシアも、一生懸命に拙い素振りを続けていた。

 

  その様子を横目でチラチラ見つつ、エルは自身の素振りに意識を切り替える。


  ――いつも通り木剣を両手で正面に構え、呼吸を整える。

  そして次の瞬間、


 「ふっ!」


  と肺の空気を軽く吐きだして、ルビスとの稽古と同じ感覚で、木剣を縦に振り抜いた。

  すると、ビュンッ! という風切り音が鳴り、土煙と共にそよ風が髪の毛先を揺らす。


 「おぉ! 君、剣術の心得があると見た!」


  たまたま前を通ったグリオンは、エルの素振りを見ると足を止めた。


  そして、その言葉を聞いた周りの同級生達も、手を止めてエルへ視線を向ける。

  嫉妬、侮り、疑惑。 どれも良いものとは言えない。


 「――放課後、家で稽古をつけてもらってるので」


  エルは構えを解いて、返事を返した。

  すると、グリオンは顎に手を当てて少し考え込んだあと、何かを思いついたように口を開く。


 「ちょうどいい。 みんな注目! 今から模擬戦をやる! 剣術は見て学べる部分も多い。今からする試合をしっかり見て学びぶこと!」


  そう大声で語り出すグリオンに、エルは目を丸くする。

  いきなりの事に、驚きを隠せなかった。


 「君、名前は?」


 「え? あ、エルアリアです。 エルアリア・アドニス」


 「よし、エルアリア。 君には一番最初に模擬戦をやってもらうけど、いいかな?」


  グリオンの提案にエルは高揚して、頬を少し赤らめた。


  ――師匠からは出来るだけ経験を積めと言われている。

  だったらこれは絶好の機会、逃す選択肢は無い。


 「やります!」


 「いいね! さて、相手はそうだな......そこの君!」


  そう言って先生はクラスメイト達の中から、少し離れた所にいた男の子を指さした。

  その子は以前、中庭でアメリアと一緒に居た黒髪の男子だった。


  名前は確かリオウだったか、とエルは頭の片隅から記憶を引っ張り出す。


 「俺ですか?」


  まさか自分が選ばれるとは思っていなかったリオウは、驚きの表情を浮かべていた。

 

 「そうだ。 君も結構な腕前に見えたからね」


  エルの立ってる位置からでは、他の生徒が邪魔で素振りの様子は見えていなかったが、どうやら彼も剣の使い方に心得があるらしい。


 「さぁほら、こっち来て。 他の子は観客席へ!」


  先生の言葉に従って他のみんなは、そそくさと観客席へ移動する。

  そうして、実技場の中心にはエルとリオウだけが残った。



 「――ルールは簡単。 戦いを続けられなくなるか、どちらかが負けを認めたらその時点で終了だ。 ただし、一応模擬戦だからね、危ないと判断したら私が止めに入るから、熱くなりすぎないように」


  クラスメイトと一緒に端の方に立った先生の話を聞きながら、エルはストレッチをして全身を伸ばす。


 「うへぇ、めんどくせ。 初日の中庭以来だっけ? お手柔らかにたのむよ」


  と、リオウは苦笑いを浮かべ、同じように準備運動をし始める。


  ――相手の実力がどれくらいか、分からないが。

  ひとまずこの戦い......。


 「本気で行きます」


  そう言ってエルは笑みを浮かべて返事をした。

  そして、お互いに準備が出来たと判断した辺りで木剣を構える。


 「二人とも準備はいい?」


  グリオンの確認に、お互い無言で頷く。

  クラスメイト達も全員口を閉じて、剣術場は静寂に包まれた。

  そして......。


  「始め!!」


  ――開始の声が聞こえた瞬間、お互い地面を蹴って真っ直ぐ間合いを詰める。


 「せあっ!」


  先手必勝、まずは一撃入れて様子を見ようと、エルは相手が間合いに入った所で、片手で右からの大振りを繰り出す。

  しかし相手はそれに、同じ大振りで返してきた。


  ——カァンッ!!!!


  と、けたたましい木剣同士がぶつかる音が剣術場に響き、エルの木剣は弾き返され重心が後ろへと持っていかれる。

  それと同時に、右手には強烈な痺れが広がった。

 

  それを見たリオウはすかさず大上段に木剣を構え、それを勢いよく振り下ろす。


  エルは未だに体勢を立て直せず、咄嗟にまだ痺れの残る右手で木剣を必死に構えて、左手を刃の部分へ添えて攻撃を受け止めた。

  しかし、その体重の乗った重たい斬撃は簡単には受け止めきれず、片膝をついてしまう。


  もはや右手の感覚はなく、剣の握りを維持するのすら精一杯である。

  しかし、リオウはそんなのお構い無しに次の攻撃を構え始めていた。


  ――今度も同じ大上段からの大振りな真向斬り。

  この戦い方は、千戦流の得意分野だ。


  と、冷静に分析をするエルだったが、そんな事をしてる余裕は全くなかった。

  真っ直ぐ脳天へ振り下ろされる木剣を、その目に捉える。


  右腕は全く上がらない。

  次の一撃、左腕だけで受け止められるか怪しい。


  ——だったらッ......!


  と、次の瞬間エルは身を逸らし、振り下ろされた縦の斬撃をギリギリで回避すると、すかさず地面を蹴って転がりつつも距離を取った。


  相手の大振りを回避しつつ、タイミングを見てカウンターを決める。

  勝つにはそれしかないと、エルは頭の片隅で即座に動きを組み立て、木剣を支えにすぐさま立ち上がると、相手を視界に捉えた。


 「はぁッ!」


  リオウは間髪いれずに近間まで踏み込んでくると、先程と同じく大上段に木剣を構える。

  そして振り下ろされる瞬間、エルはその太刀筋に必死で目を凝らし数秒先を予測すると、最小限の動きでそれを回避した。


  だが、リオウはすかさず返す太刀で剣を振り抜こうとする。

  しかしエルは、



  ——いまッ!



  と、リオウが構え直す一瞬の隙に懐まで踏み込むと、がら空きの鳩尾目掛けて木剣を振り抜いた。


  鈍い音と共に重い衝撃が左手に伝わる。


 「ぐっ......はぁ!」

 

  木剣は鳩尾へ横薙ぎに深く食い込み、リオウはその痛みで顔を歪ませる。

  そして、エルは剣に乗った重みを振り払うように斜めに斬り上げると、リオウをほんの少し浮かせて後ろに吹き飛ばした。


 「——そこまで!」


  静かになった実技場に、グリオンの声が響く。

  直後、ヒソヒソとした囁き声が観客席に広がった。

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