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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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17.魔術の実力テスト

  授業開始の鐘が鳴ってから半刻ほど。

  明日からの授業内容や校則について説明が終わるのと同時に、一時限目終了の鐘が鳴り響いた。


 「――よし、ちょうどね。 二時限目は魔術の実力テストになるから、それまでは少し休憩。 測定は別のところでやるけど、移動は二時限目が始まってからになるわ。 休み時間は教室から出てもいいけど、次の鐘が鳴るまでに教室に戻ってきておいて。 以上、それじゃまた後で」


  担任であるシアニスはそう言い残して、教室を出て行く。

  すると教室はすぐに騒がしさに包まれた。


  そんな中、エルは先程説明された内容を大まかに振り返ることにした。


  ――とは言っても校則の殆どは、人として当たり前に気をつけることばかりなのと、寮に入る生徒に対してのものばかり。


  しかし、学院内での魔術使用は特に制限しないが、学院施設や人に対しての過度な危険使用は厳重処罰の対象になる、など校則自体はかなり緩めではある。


  学年は事前に聞いていた通り六年生までで相違なく、三年生までの授業内容は基本的な読み書きや礼儀作法、それから魔術と剣術の基礎的なものになるらしい。


  残りの三年は魔術と剣術がより専門的になるので、その二つだけ選択式になるとのこと。

  卒業後はその選択で魔術学院か騎士学校に行くか、はたまた別の職業に就くのか大まかに別れるという。


  それから、進級には年に四回ある各科目の試験に二回以上合格しないといけないのだそうだ。

  読み書きや礼儀作法はまだ良い。 剣術にも不安はない。


  しかし、問題は魔術だ。

  曰く魔術の試験は実践形式らしく、授業で習った魔術を教師に使って見せなければいけないのだとか......。



  ――はてさて、どうしたものか。

  魔障の呪いについては入学手続きの資料にキチンと記載をした。 学院側も何かしらの対応を取ってくれるはずだ、と父様からも聞かされている。

  このあとの実力テストとやらで説明があるのだろうが......。


  と、そう考え込んでいるところに隣のセリシアが話しかけてきた。



 「――エル様、魔術の試験とか大丈夫ですか? 授業はまだしも、試験は避けて通れないですよね。 それこそ、このあとのテストなんかもマズいんじゃ?」


  丁度セリシアも同じことを考えていたらしく、心配そうな表情を浮かべる。


 「一応、入学前に学院側には説明をしてるから、何かしら対応してくれる......と思う。 それより。 セラの方こそ、大丈夫? 不安な科目とかあるんじゃない?」


  そう聞き返すと、セリシアは苦い顔をした。


 「ううっ。 剣術の授業がすごく不安です。 魔術ならすごく得意なんですけど、運動だけはどうしても......」


 「セラは相変わらず運動が苦手なんだね」


  と、しょぼくれたセリシアを揶揄うように、ルシアスが会話に参加してくる。

  そして、そんなルシアスの煽りにセリシアは笑みを浮かべながら返事をした。


 「そう言うルシアスは、運動も魔術も昔からすっごく下手でしたよね?」


 「うぐっ! それは言わないお約束......。 いいや、それより! 聞いてる限りじゃエルは魔術が苦手みたいだね? もし良かったら僕と二人きりで練習とかどうかな?」

 

  なんて、ルシアスはあからさまに話題を逸らす。

  そして、そんなルシアスの質問で、エルは自身の呪いについて説明を忘れていた事を思い出した。 セリシアには既に話してあるからか、すっかり頭から抜けていたのだ。

 

 「あぁ、その。私、魔障の呪いを持ってて、せいで魔術が使えないの。 だから......」


  そう歯切れ悪く話すエルは、無意識に机の下でスカートをクシャッと握り締めた。


  ――面と向かって呪いのことを打ち明けるのは、まだ思いのほか怖い。

  相手が他人であればまだ良い。 それで嫌われたとしてもどうも思わない。

  だが、相手との関係値が少しでもあると、そうはいかない。

  嫌われるのが、途端に怖くなる。


  セラに呪いのことを伝えた時も、口頭ではなく手紙だった。

  あの日、パーティー会場では勇気が出なかったのだ......。


  嫌われることには慣れている。

  嫌われたのならそれはそれで、と受け入れることができる。

  しかし、悲しくならないのか、と聞かれたらそれも違う。

  覚悟は出来ても、痛みはある......。



 「――なるほど。 呪いってそういう事ね」


  ルシアスは前から知っていたかのようなリアクションをとり、エルの言葉に悪戯な笑顔を浮かべた。

 

 「あ、いや。呪いの事は知ってたんだけど、詳しいとこまでは知らなくて......。 これだけ噂されてたら流石にね? それにほら、セラが言っただろう? 僕は友達が多いんだ。 当然、噂にも敏感になるさ。 けれど、淑女(レディ)の秘密を安々と口にするのは紳士じゃないからね。 しかしまさか魔術に関連してたとは、ごめん」

 

  そう言葉を続けたルシアスに、エルは内心ホッとしてスカートを握る手が緩む。

  やはり呪いのことを知っていて、この様に接してくれていたのだ。

 

 「いや、謝らないで。 寧ろありがと」


  エルがお礼を伝えるとルシアスは優しい笑顔を見せる。

  そして、そのタイミングで、それまで二人のやり取りを大人しく横で見ていたセリシアが間に割り込んだ。


 「いや紳士とか言いますけど! 貴方、何人もの令嬢とお付き合いしては泣かせてますよね?」


 「いや、あれは紳士として誠実に接した結果なのであって......。 僕だって不本意だったよ」


 「紳士? 誠実? ルシアスとは対極の言葉じゃないですかぁ?」


  なんて、言い合う二人を眺めながらエルはシアニスが戻ってくるのを待つのだった。




 

 「それじゃ、魔術の実力テスト開始するわよ」


  休み時間が終わり、シアニスの案内のもと新入生は全員、実技場と呼ばれるすり鉢状の建物に案内されていた。

  外周には観客席まで用意されており、見た目は完全に闘技場だ。


  ここで使える魔術を見せてそれぞれの魔術の実力を測るらしい。

  もちろん、新入生の中には魔術の勉強をしてこなかったか、あるいはできる環境に居なかった子もいるため、その場合は自分の番が来た時に先生に申告すれば良いとのこと。


  なので、エルも早々に申告をして見学でもしようと考えたのだが......。



 「――最後、エルアリア・アドニス」


  他の生徒が全員終わったところで、ようやくエルの名前が呼ばれる。

 

 「話は聞いてるわ、貴女は特例よ。 魔術じゃなくて剣の腕を見せてもらう。 これから私と軽く模擬戦をしてもらうわ。 怪我するかもしれないけどやる?」


 「えっ......?」


  待機列を抜け、前に出たところでシアニスはそう飄々と告げた。

  それが学院側の対応。


  ――魔術が駄目なら剣術で点を取れ、ということなのだろう。

  出来ないことでのマイナスを、得意な事で補って帳尻を揃えさせる。


  誰に対しても公平なこの学院らしい対応だ、とエルは納得した。


 「分かりました」


  と、了承の返事をすると、背後で同級生達がざわめくのが聞こえた。


 「それじゃあ、真ん中の方行って。 みんなは観客席に移動してね」


  シアニスは羽織っているローブを脱ぎながら、同級生達を移動させる。

  そして、全員が観客席に移動したのを確認すると、シアニスは杖を手に魔術を詠唱しながら歩いてきた。


 「――其は無垢なる刃、氷輪映すは水面(みなも)が如く。 凍てつき形を成せ、氷剣(ア・セイヴ)


  詠唱が終わるのと同時に、シアニスの手に剣の形をした水が現れ、そしてそれが一瞬で剣が凍ってゆく。

  それから、完全に凍りついたのを確認したシアニスはそれをエルへ差し出した。


  見たことない魔術に興味を示しつつ、差し出されたその剣を受け取ってみると、驚いたことに冷たさを一切感じない。

  見た目は完全に氷なので、それなりに冷たいのを覚悟していたのだが......。

  一体どうなっているのか、と訝しむエルにシアニスはストレッチをしながら口を開く。


 「いわゆる性質付与ってやつよ。 普通の氷なんか握って戦うのはキツイでしょ。 それに溶けて手を滑らせでもしたら危ないから、表面だけ細工しておいたの。 私の魔力が続く限りは溶けないし冷たさも感じないわ」


 「なるほど......?」


  と、シアニスの説明に、エルは理解したような、してないような返事をした。


  ――性質付与については以前、母に教えてもらったことがある。

  魔術にはそれぞれ特性があり、それ単体でも複数の工程を経て形を成している。例えば水の初歩魔術である水玉(ア・ウル)の特性は「水を生み出す」、「水を浮かせる」、「形を保つ」の三つの特性で成り立ってる。

  しかし、魔力を操作することで更に温度や成分、色形に匂いなど、様々な性質を付与することが出来るらしい。

  つまり、この剣が冷たくもないし溶けないというのも、何かしらの性質を付与または変化させたのだろう......。


  だが、何をどうすればそうなるのか、魔術の使えないエルにはあまり想像がつかなかった。



  そうしてシアニスの説明を頭の中で噛み砕きながらも、エルは準備運動として軽く素振りを始めた。


  氷の剣の重さに身体を慣らすためである。

  いつもの木剣とは違った、ずっしりとした重みがあるせいで、振り抜いた際に重心が持っていかれやすくなっているのだ。

  これでは、戦っている最中に致命的なミスをしかねない。

 

 「――まあ、準備できたら声かけて」


  シアニスにそう言われ、ある程度剣の重さを身体に覚えさせた辺りでエルは剣を正面に構えた。

 

 「準備できました」


  観客席から同級生達のざわめきが聞こえてくるが、もはやエルの耳には入っていなかった。

  目の前のシアニスと、自身の呼吸に意識を集中させる。

 

 「さっきも言ったけど、怪我するかもだから覚悟しなさいね」


  と言いつつ、シアニスは目つきを鋭くして杖を前に構えた。

  そして、「んじゃ、行くよ~」 と、あっさりした掛け声で模擬戦が開始される。

 



  直後、シアニスは「――水玉(ア・ウル)」と唱え、周囲に無数の水の玉を浮かばせた。


  同時に、シアニスへ向かって駆け出していたエルは、突然目の前に出てきた水の玉に驚き、咄嗟に足を止めてその幾つかを斬り払う。

  すると、それらがシャボン玉のように破裂し、全体へと連鎖した。

  次の瞬間、足元には大きな水溜りが出来上がっており、エルは瞬時にシアニスの狙いに気づく。


  水属性の魔術師が扱える魔術の中には、エルに剣を作ってみせたように氷の魔術も含まれている。 しかし、氷魔術は水魔術よりも魔力操作が難しいうえに詠唱省略では消耗が激しくなるのだ......。

  そこで、シアニスは水属性の魔術師が最も使い慣れている水玉(ア・ウル)を使用して、状況を整えた。



  ――そもそも、魔術には二つの操り方がある。

  既にその場に存在する物質を操る方法と、物質を生み出し操る方法だ。

  どちらも結果としては同じ物を示すが、工程が変わる。

  前者は魔力の消費を抑えられるが、魔力の操作が難しく。

  後者は魔力の消費こそ多いが、自ら生み出したものゆえに操作がしやすい。


  つまり、シアニスは消耗の少ない水玉(ア・ウル)によって作られた地面の水溜りを利用して、低コストで操作のしやすい氷を生み出そうとしているのだ。


  それに気づいたエルは、詠唱を阻止しようとシアニスへ走り出す。

  そして、懐へと跳び込みシアニスに肉薄すると、脇に構えた剣を下から上へと振り抜いた。


  がしかし、シアニスは後ろへ跳び退きエルの攻撃を避けると、同時に「――氷結(ア・フィル)」と唱える。

  そして次の瞬間、実技場に広がっていた水溜りが一瞬にして凍りついた.....。

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