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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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14.成長

誤字脱字を修正しました

  エルがルビスと稽古をするようになって半年。

  季節は秋を通り越し、冬へと移り変わろうとしていた。

  日が経つにつれ暗くなるのが早くなって、息を吐く度に真っ白な息がふわりと浮かんでは静かに消えてゆく.......。


  しかし、そんな中でも二人は相変わらず実戦形式の稽古を続けていた。


 「——風弓(フィ・ガル)!!」


  二、三歩ほど離れた位置で片手を突き出したルビスがそう唱える。


  風弓(フィ・ガル)は、風凪(フィ・セラ)よりも数段上の中級魔術で、魔力で空気の層を作り、鋭く形成した物を矢のように飛ばす風の中級魔術だ。

  威力もそれなりにあり、掠れば余裕で切り傷が出来る。


  故に、エルは飛んでくる空気の歪みに目を凝らした。


  数は全部で四つ。その内の二つはエルの動きを掣肘するために回避先を狙っている。 であれば無駄に動かず残りの二つを処理するのが最適解......。

  しかし、要は空気の塊なので風凪(フィ・セラ)と同様に陽炎のような空気の歪みでしかその位置を把握できない。


  エルはとにかく剣を正面に構え、極限まで集中力を高める......。

  そうして、目の前に違和感を覚えた次の瞬間、無意識に身体が反応して木剣を振り抜いた。


  ――袋のような何かを裂いた感覚。


  斬った、と確信したエルは続けて返す太刀で二つ目の風弓(フィ・ガル)を斬り払い、間髪いれずに地面を蹴ってルビスの懐へと踏み込んだ。


  風弓(フィ・ガル)を斬られたルビスは驚きつつも、エルに先手を取らせまいと、剣を素早く横に振り抜く。

  しかし、エルはこれまでの経験からそれを予想しており、ルビスの横薙ぎを剣の腹で受け流すと、そのまま素早く逆袈裟斬りを繰り出した。


  ――鈍い衝撃がエル自身の手へ返ってくる。


  ルビスが「くっ......!」とうめき声を上げ地面を蹴り滑るようにして間合いを取ると、エルはそれを見て唖然としてしまった。



 「――油断したつもりはなかったんだけど......やるな」


 「......あ、え?」


  ルビスの言葉に、肩で息をしつつ生返事をするエル。


 「どうやって風弓(フィ・ガル)を見切った? 流石に見えてはなかっただろう?」


 「......か、勘です」

 

  そう言って、エルは苦笑いを浮かべる。


  ――実際、勘としか説明ができなかった。

  数ヶ月前の、血を吐いて気絶した日から、なんとなく周りの魔力に違和感を感じるようになった。 それもすごく小さな違和感だ。

  今のは、集中しすぎてその小さな違和感に身体が勝手に反応しただけなのである。


 「ふーん、勘ね。 まあ、実際それだけじゃないだろう。 エルの実力が伸びてきたってのもあるはずだよ」


 「そう......ですね」


  そう、この半年間エルはルビスにまともに剣を当てることすら出来ていなかった。


  しかし、たった今エルはルビスに一撃当ててみせたのだ。

  本物の剣であれば相手を殺せてしまうほどの手応え。

  それを、エルはこの瞬間、初めて実感した。


 「はあ、子供って成長が早いね。 エルも来年には学院の生徒だろう?」


  と、話題を切り替えるルビス。

  初めて剣をまともに当てられたことに戸惑うエルは「そうですね」と気持ちのこもってない返事しか返せなかった。


 「俺はエルシャ近くの農村出身だから学院とか経験ないんだ。 だからエルが少し羨ましいよ」


  そう語りながら、ルビスは木剣を地面に突き立て、杖代わりにして寄りかかる。


 「そ、そうなんですか? エルシャにも、小さい学院はあるって聞きましたけど」


  エルシャとは、王都の東にある山脈を超えた先のそれなりに大きい街だ。

  隣国のクラドベルン帝国との国境沿いに位置しており、商業が盛んだという。


 「——周辺って言っても、うちの村からエルシャまでは歩きで片道二日もかかる田舎だったから、 俺は行かなかったんだ」


 「なら師匠はどこで読み書きを?」


 「幼なじみの母親が元教師だったんだよ。 その人が、学院に行けない村の子の為にって、小規模だけど学び舎を開いてくれてね。 読み書きとかはその人に教えてもらったんだ。 算術は騎士団に入ってから独学で頑張ったけどね」


  と、ルビスは語りながらどこか寂しそうに、そして懐かしそうに笑った。



『——貴族による知識や技術の独占を禁ずる、知識は望んだ全ての民に平等に与えられるべきだ』


  エルは初代国王でもある、英雄王レイド・ヴァーミリオンの言葉を思い出していた。


  この思想は、今も受け継がれ続けているらしく、おかげでいくつも学院が建てられており、そのどれもが一般家庭でもギリギリ払える学費になっているらしい。


  現に、一般家庭出身のルビスでもそれなりの教育は受けられているのだ。

  レイド・ヴァーミリオンはやはり凄い、とエルは再認識をする。


 「——さて、お喋りはこれくらいにして稽古を再開しようか」


  と、そんなこんなで稽古から脱線していたのに気づいたルビスが剣を構え直す。

  エルもそれに「はい」と返事をしつつ剣を構えて、稽古を再開した。


  魔術を避け、剣を交わし、地面を転がる......。

  そんな風にして、二人は辺りが暗くなるまで稽古を続けるのだった――。




  ——それから数週間後。 冬も本番に入り、寒さが強くなってきた頃。

  その日は珍しくアドニス家の全員が一室に集まっていた。


  場所は父ダリルの執務室。

  四人はそれぞれソファーに腰かけている。


  食事ですら各自が使用人に頼んで自由に摂るような家族なので、全員が集まるなんて珍しい、とエルは内心思った。

  そして、なぜ集まっているのか疑問が浮かぶ。

  しかし、その疑問はすぐに解消された。


 「——ティアが妊娠した」


  そんな父の言葉に、エルは目を丸くする。


 「......え、本当?! 弟かな妹かな?」


  と早くも話を受け入れ始めたアルカード。

  エルで一度体験している分、理解して受け入れるのが早いのだろう。


  がしかし、エルは呆然として言葉を失っていた。

  突然の話に実感が湧いて来なかったのだ。


  もちろん、嫌だという訳じゃ無い。 むしろ、嬉しいと思っているくらいだ。

  それでも、やはり突然過ぎて頭が追いつかない。

  なにより、嬉しいよりも先に不安が先行してしまっていた。


  魔障の呪いを持って生まれる子は、世代を経て血が薄くなるにつれ少なくなっている。 しかし、現にエルは呪いを持って生まれているのだ。

  可能性がゼロになったわけではない......。


 「――エル、平気?」


  不安を浮かべるエルにミリスティアが心配そうに声をかける。


 「あぁ、うん平気。 ちょっと、驚いただけ......」


  エルはそう笑顔を作るが、ミリスティアはなんとも言えない表情を浮かべた。

  ミリスティア自身も、これから生まれてくる子も、もしかしたら魔障の呪いを受け継いでしまうかも、という心配や不安が拭いきれないのだ。


  しかし、そんな二人の様子を見ていたアルカードは口を開く。


 「——そんなに深く考えなくても大丈夫だよ。 起こるか分からない不安を考えるより、目の前にある幸せを喜ぼう。 もし何かが起きたなら、その時考えればいいよ」


  そう言いながら、エルの頭を撫でる。

  そんなアルカードの言葉で、エルはほんの少し心が軽くなった気がしたのだった......。



  その後、今後の注意事項や予定を話し終え解散となった所で、エルだけダリルに「話がある」と呼び止められた。


 「ルビスから聞いたぞ。 アイツに一撃入れたそうだな?」


  なんて、どこか嬉しそうに聞くダリル。

  しかしエルは、


 「あ、うん。 少し前に一度だけ......」


  と歯切れが悪そうに返事をして、視線を逸らした。

  実は、あれ以来エルは一度もルビスに剣を当てられていないのである。

  なぜならば、ルビスがそれなりに本気を出すようになったからだ。


  どうやら、今までは実力の半分も出していなかったらしい。

  だが、エルに一撃を当てられたことで、もう手加減の必要なしと判断したのか、 エルはまた地面と仲良くする事が増えた。


 「まだ、英雄には憧れてるのか?」


 「もちろん。 そのために剣術の道を選んだから」


  なんて、当たり前といった様子で自信満々に返事をするエル。

  すると、ダリルの顔つきが変わった。


 「――将来は騎士団に入るつもりか?」


 「それは......」


  アドニス家に生まれて、剣の道を選んだ以上、騎士団に入るべきなのだろう。

  エルの憧れであり信条でもある『英雄のように出来る限り人を助ける』に最も近いのが騎士団なのだから。


  ダリルも元よりそのつもりでエルに剣を教え始めた。

  しかし、エルは迷っていた。


  傭兵、冒険者、騎士団。剣で人を助ける方法はいくつかある。

  そして、それぞれ立場が違い、それぞれの人の助け方が存在している。


  英雄は、人や場所、環境によって基準が変わるものだ。

  十三英雄達にも、それぞれの立場があった......。


  ――とある国の兵士だった者。

  ――国王だった者。

  ――傭兵だった者。

  ――ただの村娘だった者。


  それぞれが、それぞれの出来る限りをやった結果、多くの人に認められ、やがて英雄と呼ばれるようになったのだ。


  ――将来、騎士団に所属して、本当にしたいことが出来るのか。 守りたい人に、救いたい人に、手を差し伸べられるのか。


  それが、エルにはまだ分からなかった。


 「......いや、まだお前は子供だ。 この話はエルがもう少し大人になってからでも良いか。 それに、他に目指したいものが出来るかもしれない」


 「ごめんなさい」


 「どうして謝る? 絶対に騎士団に入らないと決めた訳じゃないだろ? それに、エルが他の道を選んだとしても怒るつもりはないさ。 それこそ来年入学する学院で沢山学んで、色々な世界を知るといい」


  と、ダリルはエルに優しく微笑んだ。


 

 

  ——そして、数ヶ月後。

  冬も過ぎ去り、穏やかな気温になり始めた春。

  エルは王都の北西にそびえる王立学院の門前に立っていた......。


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