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魔術師狩りのエルアリア【改稿版】  作者: 雪柳ケイ
1章

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11.兄様と第一王子

誤字脱字を修正しました

「正直、反応すらさせるつもりはなかったんだがな......」


ジークはエルの喉元に向けた木剣をゆっくりと下ろしながら、少し悔しそうに言った。


「まさかカウンターを狙ってたなんて、驚きました」


「なんだ、見えてたのか」


ジークが剣を弾き飛ばしたあの動き......。

師匠との稽古中に何度も同じ方法でやられているので、エルは感覚で理解できた。


エルが切り上げを放った瞬間、ジークは構えを変えたのだ。

とはいえ、そう簡単にできるものでもない。


あの一瞬でエルの剣筋を読んで即座にカウンターへ切り替えるその反応速度とセンスは、流石は英雄王の子孫だと言える......。

悔しい、とエルは自身の真っ赤になった手を見ながら、心の中で敗北を噛み締めた。


――それなりにやれる自信はあった。

だが、今の勝負で実力も技術も経験も、何もかも足りないと再認識させられた......。


まあそれでも、相手の動きに反応出来ていたし、剣筋も悪くなかった......はずだ。

敗因としては、技量の差と経験の差だろう。

しかし、この負けにはかなりの学びがあったのだ。

今回はそれで良しとしよう。


そう心の中で勝負の内容を反省していると、端で見ていたセリシアが駆け寄ってくる。


「——エル様、お疲れ様です! かっこよかったですよ!」


「ありがとう、セラ。 でも負けちゃった」


自嘲気味に笑いながら、エルはそう返す。


「でもエル様、凄くかっこよかったですよ!」


しかし、セラはそんなの気にしないと言った様子で褒めてくれる。

おかげで、エルはほんの少し落ち込んだ気持ちが晴れた気がした......。




そうしていると回廊からメイドが姿を見せる。


「——あ、ジーク殿下! こんな所に!」


メイドはジークを見るなり怒った様子で駆け寄ってきた。

どうやら、ジークの侍女らしい。


「まずいっ、リアだ!」


ジークはそのメイドを見るなり、焦った表情を浮かべて弾け飛んだ剣を回収する。


「すまん、俺は先に失礼させてもらう。エル、今度はドレスじゃない時に手合わせをしよう」


そう言ってジークは、満足そうに笑っていた。


それを見た瞬間エルは、ジークもただ剣が好きで剣に憧れている自分と同じ子供なのだと感じた。


——王族だからと、勝手に堅苦しいイメージを持っていたけれど、案外自分達とそんなに変わらないのかもしれない......。


「次は負けません」


王族相手に好敵手(ライバル)、なんて言うのは烏滸がましいかもしれないが、ジークはエルにとって初めてできた好敵手だった。


そうして、走り去るジークと視線を交わしたエルは、セラと一緒に慌てて大広間へと戻るのだった—―。




「——エル、どこ行ってたの?」


セラと一緒にパーティー会場へ戻ると、アルカードが入口の前で腕を組んで立っていた。

「ほんの少し息を吸う」と言って出てきたが、既に半刻は経ってしまっている。

怒るのも当然だろう。


しかし今してきた事を正直に話しては叱られる。

と、そう考えたエルは、答えを誤魔化した。


「――あ~、ちょっと中庭まで?」


嘘は言ってない。 ......嘘は。

ただ、色々端折っただけだ。


「ふーん?」


エルの返事に、案の定どこか納得いかない様子のアルカードだったが、セリシアに気づくと話題をそちらへ移す。


「そちらのお嬢さんは?」


「あっ、セリシア・エーデルレオンと申します! エル様の友達です!」


セリシアはそう言って礼儀良くお辞儀をする。

気のせいかもしれないが、先程のジーク殿下への挨拶より丁寧だ。


「アルカード・アドニス、エルの兄です。 よろしく、エーデルレオン嬢」


どうやら、エルに初めて友達が出来たのが嬉しいらしく普段は表情変化が乏しい兄がこれまた珍しく笑って見えた。


「エル様のお兄様......。 でしたら是非、エル様と同じように私の事はセラもしくはセリシアと呼び捨てにしてください」


兄様に対しては随分気さくに話しかけるセリシア。

ジークにはここまで積極的ではなかった。

と言うより、かなり雑な対応をしていたような......。


「なら、セリシアと呼ばせてもらうよ」


「ぜひぜひ!」


そんな雑談をしていると、アルカードの背後からとある人物が姿を現す——。


「——やぁ! 何やら楽しそうだね、アル!」


そうテンション高めに声を響かせたのは、この国の第一王子——アスク・ヴァーミリオンだった。


ジークよりも明るい赤色のポニーテールに、同じ黄金の瞳。

さっき挨拶で顔を合わせた時は落ち着いた印象を受けたが......今は正反対で、その面影は微塵もない。


「妹に初めての友達が出来たから、それを喜んでるだけだよ。 それで、なんか用?」


アルカードは唐突に姿を見せたアスクに嫌そうな表情を浮かべて、返事をする。


「おいおい、僕はこのパーティーの主役だよ? なんだいその邪魔くさそうな顔はぁ」


若干無礼なアルカードの返事にも、腹を立てることなくニコニコと軽い口調で会話を続けるアスク。 親友というだけあって軽口を言い合える仲なのだろう。


「主役ならこんな端っこに居ないで他のとこに行けば?」


「え~酷いなぁ。 僕ら親友だろ~?」


と、アルカードの冷たい態度など気にせず、アスクは抱きついて頬を擦り付けようとする。


「あーうざいうざい、王族ならもっと王族らしくしてくれ」


「そんなぁ、この方がいいって君が言ったんだろぅ~?」


「時と場所は考えてほしいんだが」


そういって、アスクを無理やり剥がして、突き離すアルカード。

しかし、アスクは負けじと抱きつこうとし続けた。


それを横で見ていたエルとセリシアは、そんな様子に唖然としてしまう。


——二人が仲が良いのは知っていたけど、まさかここまでとは思っていなかった......。 それに、頭のなかで思い描いていたアスク殿下のイメージ像が一気に崩れた。


パーティー会場に到着した直後、エルが挨拶をした時はもっとキッチリした印象だったのだ。


「——お二人とも、すごく仲がよろしいんですね......」


それまで目を丸くしていたセリシアがそう口を開くと、アスクは満面の笑みを浮かべ、アルカードは苦虫を噛み潰したような嫌そうな表情を浮かべた。


「まぁね!」


「まぁね、じゃなくて。 離れてくれ」


「兄様、流石に王族にその言い方は......」


「《《今》》のコイツはこういう扱いで良いんだ」


面倒臭いと言った様子で王族をこいつ呼ばわりするアルカード。

そして、それを気にせず兄様に抱きつくアスク。


「いいやエルちゃんの言う通りだ! もっと優しくしろ!」


「エ、エルちゃん......?!」


と、唐突なアスクからの「ちゃん」呼びに、目を丸くするエル。


「おい......。 流石に調子に乗りすぎだ」


妹を軽々しくちゃん呼びしたことにイラついたのか、アルカードはそう言ってアスクのおでこに軽くデコピンをお見舞いした。


「あイタァ!」


と、そんなデコピンをもろにくらったアスクは情けない悲鳴をあげて千鳥足で兄から離れる......。


そして、その数秒後。

スッキリしたような溜息を吐くと、顔つきがガラッと変わった。


「——はぁ、満足した......。 失礼、アドニス嬢。 先程は不躾な呼び方をしてしまって悪かったね」


先程までの様子とは打って変わって、エルの知っているキッチリとしたアスク殿下に戻っている。


「あ、いえ。 気にしないでください」


——まあ......正直、ちゃん呼びも悪くなかった。

などと、心の中で呟くエル。


「そうだ、ジークには会えたかな? さっき、アドニス嬢の事を話したんだけど」


「あ、はい」


そう言えばアスクのお陰で、ジークとの接点が出来たのだ。

感謝しなければ、とエルは思った。


しかし、横にいた兄が聞き捨てならんと言った様子で前に出る。


「エルのこと話したの?」


「いやぁ、前からよく妹が英雄に憧れて剣術頑張ってるって聞いてたもので、ジークと話が合うかもなって思って......マズかったかな?」


「いや、マズくはないけど......。 まぁ、あまりトラブルには巻き込まないでくれよ?」


「あぁ......そっか、そうだよね。 アイツに友達が出来ればって思ったんだけど、相手を間違えたかもな」


そう言って、アスクはしょんぼりとしてしまう。


どうやら、アルカードはジークとエルを会わせたくなかったらしい。

弟のためだと言ったアスクも、それに理解を示している様子だ。


——個人的には知り合えて良かったと思っている。

今後も機会があれば是非手合わせしてもらいたいくらいだ。


「エル様とジーク殿下、仲良さそうでしたよ?」


そんなエルの気持ちを代弁するかのようにセラがそう口を開くと、アスク殿下の表情が明るくなる。


「そうか、なら良かった......。さて、僕はこの辺で失礼するよ。 三人で話してるところに割り込んじゃったみたいだしね。 あとは楽しくやっておくれ」


「あ、はい。 ありがとうございます」


そう言って、そそくさとこの場を離れるアスクにエルとセリシアはお辞儀した。


「——はぁ......ようやく嵐が去ったな。 それじゃあ、僕も向こうに行ってるから、何かあったら声掛けて」


と、去り行くアスクの背中を見てため息を吐いた兄様も、疲れた様子で会場の窓際に戻って行く。

そうして、残されたエルとセリシアは、たった今起きた出来事をクスクスと笑って、パーティーの終わりまで一緒に過ごしたのだった。

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