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8話:守護十二家

タイトル変更しました。

「--、だいたいの話は理解したよ。それにしても漫画の中の人物が目の前にいるなんて、こうやって実際に目の当たりにしても現実感がないね」


 しおり達と別れた後、俺は逆月君に連れられて、応接室という場所に通されていた。

 赤い絨毯が広い部屋一面に敷かれ、壁も細かい模様が描かれていて、まるで外国にでも来た気分だ。今俺が座っているソファも柔らかく、一瞬で高級品だと分かる。


「俺からしたら、天術の方が現実感がないな。まぁでも、将来テロリストになるって言われるよりはまだ現実味があるか」


 溜息をつきながら、机を挟んで反対側のソファに座っている逆月に話しかける。そんな俺を見て、逆月は苦笑いを浮かべていた。


 逆月にはあちらの世界で石田が来てから起こった事を簡単に説明した。ギアの事や博物館での事、将来俺が凶悪なテロリストになる可能性がある事も含めて、全部をだ。

 後は佐藤とアリスの危険性を特に。結局、佐藤は軟禁される方向になりそうだ。



「初対面でそんな事言う人、よく信用したね」


 逆月は薄く笑みを浮かべる。なんとも含みのある笑い方だ。



「それなりに証拠もあったからな。だけどそれを言うなら、逆月も良く俺の話を信用したな。俺の話こそ、荒唐無稽なものだろう」


「勿論、貴方を信用した訳じゃないよ。ただあの四人の中で一番話が通じそうとは思っているけどね。こちらとしては貴方の話が本当かどうかはどうでもいい。逆月家に害があるかどうか。それだけが重要なのさ」


 逆月は笑みを深める。彼としては、こちらの話より、これからどうするかが重要なのだろう。自身と身内にとって害があるかどうか。少し俺の考えに似ている気がする。


 逆月の年齢はしおりや文奈と大して変わらない筈なのだが、とてもそうとは思えない。当主というだけあって、若いながらも様々な場面を乗り越えているのだろう。





「失礼します。砂盃です」


「入って」


 応接室の扉がノックされ、逆月の言葉と共に開く。

 すると燕尾服を着た眼鏡の男が入って来た。確かこいつはさっきリムジンを運転していた奴だ。


 年齢は見た所三十前後。スポーツ刈りの頭と細身だが鍛えられた体から、妙に威圧感を感じる。陰陽師の話も聞いていたし、彼も戦闘を行う陰陽師なのかもしれない。

 また何より表情が硬い。アイリスや立花も無表情だが、こいつの場合は無理に感情を押し殺しているように見える。



「調査の結果が出ました。詳細は後ほど報告させていただきます」


「いや、ここで話して」


「……承知しました」


 燕尾服の男はこちらを一瞥し、それから懐に手を入れる。そして折りたたまれた紙を二枚取り出して、俺と逆月の前のテーブルに広げる。



「調査の結果、秋山考輝、佐藤亮太、秋山アリス、立花佳行の戸籍は存在しませんでした。また秋山考輝が持っていたタブレットと呼ばれる端末は今の技術ではとてもではありませんが作れないそうです」


 どうやら俺達の身元を調べていたらしい。一枚目の紙には、俺達の名前が書いてあり、横には全て該当なしと書かれている。

 それにしてもこういった内容は本人の目の前で見せるべきではないと思う。


「……普通本人の前でこんな話をするか?」


「無条件で信用されるよりも、こちらも疑いがあると知っている方が信用できるでしょう? それでもう一つの方は?」


 逆月はまた笑った。戦っている時はそうではなかったが、こいつはよく笑う。

 確かにいきなり信用されるより、一回疑われた方が逆月を信用しやすい。いきなりあんな話を鵜呑みにする奴など、何を考えているか分からなくて恐ろしい。


 執事はもう一枚の紙を広げると、そこにはびっしりと家系図のようなものが書かれていた。その家系図には一本だけ赤色の線でなぞってある。線の先端を見ると、石田しおり、石田文奈と書いてあった。そして反対側には、守宮と書かれたものに合流していた。



「仰られた通りに、石田家の家系を遡り調べた所、当主様の睨んだ通り、守護十二家の血を引いている事が分かりました。九代前ですが、守宮家の本家の血筋です」


「既に滅んでいる家だね。分家も陰陽師を皆辞めてしまったみたいだし」


 これはしおり達の血筋を調べたもののようだ。確か天術には血筋によって使える特殊な術があると言っていたので、それで調べたのだろう。

 しかし、元の家はすでに陰陽師でないようだ。もし家が残っているならそこの家の陰陽師に頼めば元の世界に帰れる可能性があっただけに残念だ。



「しかし、守宮とはまた妙な話になってきたね……」


 逆月は顔をしかめた。何か納得のいかないものがあるようだ。


「……何か問題があるのか?」


「ちょとね。……まぁ話をすると長くなるのだけども、最初から説明しようか。

 まず日本には昔、全国の陰陽師をまとめる十二の家があって、どの陰陽師もこの家の分家か弟子入りをしているような状態だった。日本全土を守るようなその姿から、これを守護十二家と呼ぶんだけど、何を隠そう逆月家もその一つなんだよ」


 印時。

 猫屋敷。

 朝夕。

 六合。

 騰蛇。

 逆月。

 野芥。

 霞浦。

 不知火。

 金玉。

 守宮。

 鳴。


 逆月は家名と思われるものを次々と言っていく。


「この十二の家が守護十二家なんだけど、陰陽師の衰退と共に絶える家もあって、今や陰陽師をしている家は半分しかないんだよね。それで守宮家は最初に絶えた家なんだ」


「という事は、資料が少なくてしおり達の天術の修行が捗り難いという事か?」


「いえ、守宮家は有名なので、資料は少なからず残っておりますが、その内容が問題なのでございます」


 執事の男が眼鏡をクイッと直しながら、説明を引き継ぐ。

 そういえばまだ名前も聞いていない。



「内容が? えっと――」


「申し遅れました。私は砂盃明人と申します。逆月家の家令を勤めさせて頂いております。

 それで残っている資料によりますと、守宮家は十二家の中でも無類の強さを誇っていたようです。特に妖との闘いでは他の追随を許さない程でした。逆に戦闘以外に関する資料は少ないですが。おそらく戦闘に適した継承天術だったのでしょう」


 執事――砂盃は丁寧にお辞儀をして自己紹介をすると、内容を説明してくれた。

 話を聞く限りだと、守宮家は根っからの戦闘集団のようだ。


「つまり、守宮家の継承天術は世界を移動出来るようなものではない可能性があると?」


「どのような継承天術なのか具体的な記載はありませんが、そういう事になります」


 しかしそれだと前提が崩れてしまう。

 そもそも、しおりの使う継承天術によってしおり自身や俺達は世界を移動した筈なのだ。だがそのような継承天術をしおりが持っていないとすると、話はまたややこしくなる。


「継承天術が変化する事はあるのか? もしくは守宮家ではない他の家の継承天術をしおりが引き継いでいる可能性とか」


「継承天術が変化するという話は聞いた事ないかな。守宮家の継承天術じゃない可能性は低いかもね。守宮家以上に強く継承されるものなら、もっと有名になっている筈だし。

 でも一つだけ言えるのは、世界の移動には天術が要因なのは間違いないよ。移動した日に大規模な天術が行使されたのは間違いないから。そうなると、他の人が関与していないならば、石田さんの天術が原因だという事になるよ」


 俺が不安に思っている事が分かったのか、逆月は丁寧に説明してくれた。

 確かに俺がこちらの世界に来たに天術を使える可能性があるのはしおりだけだし、そもそも最初はしおりだけで移動している。彼女の天術が原因と考えるのは自然だ。


 しかし、俺はふと昼間神社で会った、白い服の女性を思い出していた。

 彼女は何か知っているような口ぶりの上、俺の名前を知っていた。しかも突如姿を消している。もし彼女も天術の関係者だとしたら、彼女が原因という事も考えられそうだ。

 超展開ばかりですっかり忘れていたが、あの女性も謎だ。



「……どうかした?」


 急に黙った俺を不信に思ったのか、逆月がこちらの顔を覗いて来た。

 あの女性の事も、天術の専門家である逆月に話した方が良いのかもしれない。


「実は、今日神社で――」





「……妙だね、それは」


 俺の話に、逆月は思った以上に食いついた。

 話を聞き終わると逆月は顎に手を当てて考え始める。そして考えがまとまったのか、こちらを向いて、砂盃に手招きする。


「とりあえず、その女性に会わないと何とも言えないかな。それにもしかすると山でコソコソしているネズミかもしれないし。砂盃、各所に連絡をしてその女性を探してみて」


「承知しました」


 逆月はその女性が逆月家の山を荒らしている犯人だと考えたようだ。

 直立で待機していた砂盃は軽く礼をすると、部屋の外に向かう。連絡をしに向かうのだろう。



「その女性にしても、石田姉妹の修行の成果にしても、今は待つしかないね。何か派手な動きがあるといいのだけども。

 さて、時間もいい具合になってきたし、そろそろ夕飯にしようか。食事の味は保証するよ」


 逆月は悪戯っぽく笑う。どうにも戦闘時と雰囲気が違い過ぎて調子が狂うが、こっちの方がこいつの素なのかもしれない。


「すまない、ご馳走になる」


 窓から外を見ると、既に日は傾いていていた。結構長い間話をしていたようだ。







 夕食は大きな食堂で行われた。頭上には巨大なシャンデリアが輝き、壁には高価そうな絵が飾ってある。今は夏なので使われていないが暖炉まであり、まさしく西洋の屋敷と言った感じだった。


 十五人くらい座れそうな大きなテーブルで逆月、しおり、文奈、アリス、俺の五人で囲んで食事をとる。佐藤と立花は一緒の食事を断ったそうだ。

 夕食はハンバーグにスープ、サラダ、パンと普通のメニューであったが、かなり美味い。料理を多少しているから分かるが、かなり手間をかけているようだ、



 しかしそんな食事にも目もくれず、しおりは終始ハイテンションだった。


「考輝さん! 私もやっぱり天術使えました! ほら、火出せます! 文奈ちゃんと同じで私の属性も火でした!」


 余程天術が使えたのが嬉しかったのか、何度も指先に火を灯しては見せてくる。まだその程度しかできないみたいだが。

 それでも、玩具を買ってもらった少女のようにはしゃいでいた。



 そんな食事を終えた後、石田姉妹は砂盃の運転で家に送られた。一応危険な可能性もあるので、逆月もついて行った。今度はリムジンではなく、普通の乗用車だった。石田家に迷惑をかけないような配慮らしい。


 ちなみに二人の見送りの際には立花も出てきた。どうにもまだネットが発展していない事を良いことに、かなり大暴れしているらしい。既に架空の名前で作った口座には、百万近くの預金があるとの事だ。この短時間で一体何をしたのだろうか。

 しかし折角なので、いくつか買い物と探し物を頼んでおいた。



 そんな少々混沌した場ではあったが、石田姉妹は家に帰っていった。









 車に揺られながら、後部座席に座っている逆月良仁は外をぼうっと眺めていた。

 住宅街の夜の街並みはとても静かで、ただ車の走る音だけが響いている。



「砂盃……どう思う? 今回の事」


 外を眺めながら、車を運転している己の従者に声をかけた。

 その表情は硬くどこか無機質で、感情が読み取りにくい。ただ、疲れているのは間違いないようだ。


「今回の事とは、石田文奈様が神獣を従えた事でしょうか? それとも山を荒らしている者の事でしょうか? はたまた秋山様達が、漫画の中から出てきた事でしょうか?」


 一方の砂盃は冷静に、淡々と質問の意味を聞きなおす。

 直立の姿勢で車を運転する彼はピクリとも動かない。



「全部だよ。この短期間で問題事が起きすぎている。何か裏があるのではと勘ぐりたくなる程にね」


 そう言うと、逆月は溜息を吐いた。


 空の月が雲に隠れ、周囲の住宅も少ない工場地帯に入ってので、辺りが暗くなる。外灯こそあるものも、古いタイプなのか広範囲を照らせていない、



「……そうですね。妙な感じはしますが、私としては連鎖的に起こったもののような気がします。何か些細な事が原因で――」


 会話の途中で、砂盃は急ブレーキを踏んだ。

 逆月は大きく揺られながらもドアに掴まり、何事かと車の前方を見る。



 車の前方には、ライトに照らされた人影が立っていた。

 その人影は全身を灰色のローブで覆われ、フードも被っているので顔はおろか性別も分からない。見た目はかなりの不審者だ。


「敵か……」


 しかし逆月はその人物を敵と認定した。フードの人物から感じる大きな天力、そして殺気。敵対しているのは間違いないと感じていた。

 逆月は一言だけ呟いて車を降り、砂盃も無言で頷いて車を降りた。すると周囲が四角い箱のようなもので囲われ、空気が変わる。


 二人で相対すると、フードの人物はより濃密な殺気を飛ばす。何人か殺した事があるのではと感じる程の濃さの殺気であった。



「結界を敷くのはいいけれど、いきなり殺気をこんなにぶつけて不躾だね。どこの家の者かな? 知っているとは思うけど、僕は逆月家――」


 逆月は一先ず会話でのコミュニケーションを試みるが、フードがボコボコと嫌な音を立てながら膨らみ始める。

 そしてフードから出ていた両手が黒いハサミに変わり、ローブの後ろから針の付いた尾が伸びてきた。


「話す気はないか。それに神獣……蠍かな? 殺る気しかないみいだね」


 逆月は喋りながらも自身の背中から翼を生やす。砂盃も手刀を構え臨戦態勢を取った。



「……」


 フードの人物は何も言う事もなく、ゆっくりと両手のハサミを二人に向ける。そして大きくハサミを広げた。



「熱波」


 そして小さく呟くと、ハサミから火炎が放出される。声は何か加工されたようなダミ声で、性別も年齢も判断は出来ない。

 放たれた火炎は真っ直ぐに逆月と砂盃に向かって進む。かなりの火力があるのか、火炎が通った地面が焦げ付く。


「我が心、行雲流水、流れゆく」


 前に出て砂盃が手で前方に円を描くと、円形の水の盾が出来た。

 その盾で火炎を受け止めるが、火炎の勢いが強いのか水蒸気を出しながら徐々に押される。砂盃の顔も苦しそうだ。


「月の加護:出力強化」


 そんな砂盃に逆月は手も向け、一言呟く。すると水の盾の大きさが倍近くになり、砂盃の表情も楽そうに変わる。

 そして水蒸気の量も多くなり二人の周りは水蒸気で囲まれて見えなくなった。


 フードの人物は二人の姿が見えないが火炎を放ち続ける。


「! へぇ」


 その水蒸気から砂盃が飛び出し、全力疾走で敵との距離をつめる。おそろしく綺麗なフォームだ。

 その姿にフードの人物は感心したように呟くと、火炎を止めて迎撃の準備をする。想像以上だが想定内。フードの人物にはどこか余裕があった。



「月の加護:瞬発力強化」


 しかし水蒸気から空に飛び上がった逆月が再び砂盃に手を向けると、砂盃のスピードが急激に上昇し、一気にフードの人物まで肉薄する。

 これにはフードの人物も驚いたのか、息を飲む音が砂盃の耳に伝わる。



「天玄睡蓮洪」


 フードの人物の懐まで入った砂盃は、拳を水の塊で覆い、そのまま走った勢いを殺さずにフードの人物の腹に拳を叩き込む。腰の入った打撃はフードの人物を軽く吹き飛ばすが、それでもフードの人物は倒れない。余りダメージが入っているようには見えない。


「ん?」


 しかしフードの人物は自分の腹に水塊がくっ付いているのに気がついた。

 そして気づいたと同時に水塊が膨張し、先程の打撃並みの衝撃が起こる。しかもそれは一回ではなく、強烈な音と共に何回、何十回、何百回と発生し、周囲の砂塵を巻き上げる。先程とは逆に、今度はフードの人物の姿が見えなくなった。



「砂盃、これ殺しちゃってない? いろいろ情報を聞きだしたかったんだけど」


 逆月は砂盃に話しかけるが、鋭い目つきで砂塵を睨んでいる。


「ご冗談を。神獣の使い手が、この程度で死ぬわけありますまい」


 砂盃も砂塵から目を離す事なく、バックステップで下がりながら、空中で静止している逆月に真下まで下がる。

 どちらも油断は一切していなかった。



 二人が睨む中砂塵が晴れる。


「……何?」


 砂塵が晴れると、そこには誰もいない。

 その変わり、大きな穴が一つ空いていた。


「当主様!」


 状況を察した砂盃はジャンプをしながら叫ぶが、その時には彼のいた地面にひび割れが入る。バキバキと放射状に広がるそれの中心から、大きなハサミを振りかざすフードの人物が現れる。そのハサミは赤く熱せられ、ジューと不気味な音を立てる。


 直前で砂盃は察したものも、そのハサミは砂盃を射程に捉えていた。


「熱破」


 楽しそうな声と共に、砂盃にハサミが叩きつけられる。


「風乗り」


 しかし砂盃の足元から突風が吹き上げ、砂盃は風に乗って急上昇する。そのまま逆月の高さまで上昇し、フードの人物の攻撃範囲から離れる。


 攻撃の対象を失ったハサミはそのまま地面吸い込まれる。そして地面に当たると、大きな音を立てながら地面が溶けた。アスファルトはドロドロと赤く融解し、まるで溶岩のようだ。



「助かりました、当主様」


 空中で静止している砂盃は、逆月に一礼をするとフードの人物に視線を向ける。口元だけ見えたフードの人物はニヤニヤと笑っていた。

 そんな姿を見て砂盃は大きく溜息を吐いた。


「流石にショックですね。本気の一撃を入れたのに、あんなにピンピンされているのは」


「神獣の影響かな……? いくら何でも異常な固さだ」


「これだから神獣というのは――」


 砂盃が話している途中で、フードの人物が閉じた状態のハサミを二人に向ける。ハサミの隙間から赤い光が漏れ、シューと煙を発している。

 そしてその状態のハサミの前に空気が目に見える形で圧縮されていく。そして圧縮された空気もハサミの形状を形作った。



「砂盃、デカいのが来るよ。最大防御を。

 月の加護:出力・集中力強化」


「承知しました。

 我が心、明鏡止水、波紋を背負いて――」


 危険性を察した逆月は砂盃に指示をとばすが、砂盃は既に防御の準備を行っていた。

そんな二人のやり取りを見て、フードの人物は一層笑みを深める。そして小さく口を開く。


「紅蓮嵐蠍――」





 しかしフードの人物は詠唱を途中で止め、天術の発動を止めた。


 不信に思った逆月が様子を確認すると、フードの人物は口元をへの字に曲げて佇んでいた。ハサミの間からはプスプスと不完全燃焼している煙が上がる。


 そして舌打ちをして先自身が掘った穴に飛び込む。すると周囲を覆っていた結界も消えた。

 しばらく逆月達は周囲を警戒していたが、フードの人物が再び姿を見せる事はなかった。





「……何だったんだろ、あいつ」


 もう襲ってこない事を確認した後、逆月と砂盃は地面に降りて穴をのぞき込む。穴の底は見えず、逆月の言葉は吸い込まれた。


「まるで、誰かから戦うのを止められたような反応でしたね。本人は非常に戦いたがっていましたから」


「最低でも、一人仲間がいるみたいだね。……それにしても神獣を使う上にあの強さ。逆月家の領地を荒らしているのは十二家のどこかの家って事でほぼ確定かな。しかしこう直接狙ってくるって事は、あの姉妹が危ないかもね」


「……護衛は二人つけるようにします。お二人にはこの事は伝えておきますか?」


「いや、むしろ不安にさせてしまうだろうし、やめておこう。それに、その方がおびき寄せるには丁度良いのかもしれない」


 逆月は溜息を吐きながら、空を見上げる。


 満月から少し欠けた月が、丁度雲に隠れた。










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