13話:漫画の中の私
考輝さん達が買ってきてくれたコンビニの弁当で夕食を済ませた後は、これからの事に関する話し合いが行われた。
まず佐藤に関してだが、彼が佐藤亮介として使っていた家も口座もタブレットも使えない状況なので、職が見つかるまで考輝さんの家に居候する事になった。
私としてはあまり良い事ではなく、アリスちゃんに至っては猛烈に反対したが、結局は考輝さんが家主なので決定は覆らなかった。
アリスちゃんも考輝さんの家に住む事になった。彼女の元の家族に関する記憶もう薄れ、殆ど覚えていないらしい。しかし、両親が目の前で死んだ記憶はあるらしく、元の家族に戻す案はなくなった。
ひとまずは考輝さんの遠い親戚という形にして、家に置くらしい。あと倫理観が問題ありとの事で、アイリスと協力して教えていくとの事だ。
ユッキー……立花さんは家があるので普通に家に帰ったが、ちょくちょく遊びに来ると言っていた。
私に関しては相も変わらず居候のままだ。同居人の数は増えたが。
そして、明日は私が元の世界に戻る為の調査を行う予定だ。基本的には私が落っこちた公園の調査になる。正直望みは薄いかもしれないが、博物館の一件もあるしやってみる事にした。
考輝さんもユッキーも手伝ってくれるらしい。アリスちゃんは私がどこかに行ってしまうのが嫌らしく、泣いて止められたが、まだ帰れる確証はないので大丈夫と言っておいた。心は痛むが。
それから、この世界が漫画で読まれている事を佐藤とアリスちゃんの二人に伝えた。
『へー。まぁ別にそれでも俺のやる事は変わらねぇよ』
『私は考輝としおりがいれば、他の事は何も問題ないよ!』
二人ともあまり興味はなさそうだった。
「もう寝るかな……」
私は今日の事を一通り考えたあと、ベッドで横になる。
昨日寝る時には今日一日でこんな事になるとは思ってもいなかった。
そもそもあの時は漫画の中に入れたとただ浮かれ、考輝さんと会えた事で有頂天になっていた。この世界を漫画の中だと軽く考え、私の行動がどんな結果をもたらすかきちんと考えていなかった。
「明日、考輝さんとしっかり話そう……」
そう呟いて、私は目を閉じた。
『――この強盗が入った三店舗に共通して言えるのは、警備ロボットごと店舗のシャッターが突き破られ、商品が一つ残らず盗まれた事です。またこの三店舗の距離が近く、盗品が大量にある事から犯人はまだ近辺に――』
「……これ家の近くだな」
朝になり、今度は考輝さんと一緒に朝食の準備をしていると、テレビのニュースに考輝さんが反応した。
ちなみに今日の朝食はトーストとウィンナーとサラダだ。二人で朝食の準備とか、新婚みたいでなんか恥ずかしい。なおアリスちゃんはまだ寝ていて、佐藤はブラブラ散歩をしている。
「えっ!? 近所でこういった事があると怖いですね……」
その言葉に考輝さんは苦笑いをしながらウィンナーの皿をテーブルに置いた。
「正直、今家にいる奴らの方が危険だけどな」
「ハハ、それもそうですね」
それもそうだったので思わず乾いた笑いを浮かべてしまった。
もしこの家に強盗が入ったら、後悔する間もなく切られるか、ハチの巣にされる。間違いなく。
「それにしても盗みに入ったのが本屋に防犯グッズ屋におもちゃ屋って節操がないですね」
「そうだな。まぁ犯罪者は何を考えるか分からないからな。さて、飯の支度も終わったし、アリスを呼んできてくれ。佐藤はそのうち来るだろう」
「分かりました。じゃあ行ってきますね」
私は二階にあるアリスちゃんの眠っている部屋に向かった。
「アリスちゃん、起きてる?」
「お、起きてるよ! 今日も元気!」
ノックをすると思った以上に元気な声が返ってきた。しかも何故か慌てている。
「アリスちゃん? 開けるよ?」
その反応が怪しかったので、ドアを開けて部屋を確認する。
「だ、駄目!」
すると部屋は大量のプラモデルで埋め尽くされていた。
どれもこれも完成度が高く、細部までしっかり着色もされている。種類もロボットが多いが、車や城の物もあった。そしてアリスちゃんが両手にプラモデルを持って口に運んでいた。ギアの力で隠そうとしていたのだろう。
しかし、こんな大量のプラモデルは昨日まで確実になかった。考輝さんもこういった趣味はなかった筈だ。
「アリスちゃん……? この大量のプラモデルは一体どうしたの?」
「えっとね、えっとね……アイリスちゃんお願い! ――、アリス!? 私に投げないでください! しかもこんな時に本気の人格交代拒否とか、使いどころ間違っています!」
アリスちゃんは説明を放棄したのか、表に出ている人格がアイリスちゃんに変わった。しかも人格交代を拒否しているようで、アイリスちゃんには珍しくアタフタしている。可愛い。
「――おはようございます、しおり様。この部屋の大量の模型なのですが、これは、その……昨日夜に街を散歩している時に拾ったのです。なので、別に盗品という訳では――」
アイリスちゃんは意を決したのか、無表情に戻り冷静に弁明を始める。
しかし、いくら何でも穴があり過ぎる。
「アイリスちゃん」
「はい」
「秋山さんの所行こうか」
「はい……」
多分、プラモデルだけじゃなくて、本や防犯グッズも持っていそうだ。
「……家に来て一日もしない間に、いきなり何をやっている、お前達は……」
「ごめんなさい……」
事情を聞いた考輝さんは、目頭を押さえながら溜息をついた。
目の前にはアリスちゃんが正座をして俯いている。
結果として、この近くの三店舗を襲撃したのはアリスちゃん達だった。
最初は重火器以外の自衛手段を手に入れるために防犯グッズ屋に行ったそうなのだが、夜中の為、案の定店は閉まっていた。そこで諦めて帰ろうとしたのだが、防犯が意外と甘い事にアイリスちゃんが気づき、つい出来心でやってしまったらしい。
ちなみにおもちゃ屋と本屋は、調子に乗って二人の趣味の店も襲撃したらしい。
本当はギアの力でずっと仕舞っておくつもりだったようだが、一度飾ってみたくなって飾っている時に私に遭遇したらしい。
「立花に工作も依頼したし、ギアを使った犯行だからそう簡単にたどり着く事はないと思うが、迂闊な行動は控えてくれ」
「申し訳ございません……」
今度はアイリスちゃんに変わって謝っている。
どうやら片方だけ怒られるのはズルいという話になり、途中で交代しているようだ。
「まぁ、考輝さん。二人も反省していますし、その位で。それにしても、昔からプラモデル趣味だったの? 結構キレイに出来ているけど」
流石に少女がずっと俯いている姿に心が痛くなったので、助け船を出す。
アリスちゃんは顔を上げて笑顔になってくれたが、考輝さんからは軽く睨まれた。
「でしょ! こんな事も出来るよ!」
アリスちゃんは嬉しそうに服をめくって腹に手を当てると、未開封のプラモデルの箱を取り出す。箱にはロボットのイラストが描かれている。
なお彼女の服装はダボダボのシャツとスウェットだ。私と同じく考輝さんの服を借りている。
「それをこうして三十秒待つ!」
その箱再び口から仕舞う。
こう見ると食べるというより、口の近くに運んだものが消えているように見える。
「そして完成!」
そのまま三十秒くらい待つと、アリスちゃんのお腹から先程の未開封だったプラモデルが完成した状態で出てきた。なんと今の一瞬で作ってしまったらしい。
「……今の一瞬で作ったのか?」
考輝さんもこれには驚き、目を見開いていた。
「うん! 私の中の小さいアイリスちゃん達が頑張ってくれたの!」
笑顔でアリスちゃんはそう言うが、今一意味が分からない。
考輝さんを見ると、同じように首を傾げている。
「えっとね、私達が仕舞ったものはね、どこかの白い場所に行くの。その白い場所には小さいアイリスちゃんがたくさんいて、整理をしたり手入れをしているの。それでアイリスちゃんが表に出る時は、小さいアイリスちゃんは皆小さいアリスに変わるの」
私達に上手く伝わっていないのが分かったのか、アリスちゃんが頑張って説明してくれるが、より分からなくなった。
「……アイリス、上手く説明できるか?」
考輝さんもよく分からなくなっているのか、アイリスちゃんにも説明を求めた。
「――、すみません……私もアリスの説明と同じようなものしか出来ないです……。映像を撮れないか実験もされましたが、不可能でした。あと補足として、私達は戦闘時に銃口だけ皮膚から出して弾を発射していますが、引き金を引いているのは小さい私達です。銃の反動も全てその白い空間が受けています」
アイリスちゃんも上手く説明は出来ないようだ。
一度その空間というものを見てみたいが、生物は入れないらしい。もうそういうものだと受け入れた方がいいかもしれない。
「……深く考える事は止めるか。まず飯にしよう。何だか朝から疲れた」
考輝さんも考えるのを止めたのか、朝食の準備が出来ているテーブルに向かう。
私達もテーブルに向かい3人で朝食を取った。なお佐藤は全員が食べ終わった頃に帰ってきた。
朝食を取った後、俺は立花と映像電話で連絡を取りながら、石田がこの世界に来た夜について調べていた。今日は、立花本人は来られないとの事だ。まぁ映像電話にもユッキーが映っていて、立花本人がいない時とあまり変わりはしないが。
それで二人がかりでその日の気象や、何か特別な事がなかったかを調べると同時に、石田から石田の世界で何かなかったかを聞いていく。
しかし、なかなか気になる事は見つからない。
なお佐藤は職探しに出かけ、アリスは部屋でプラモデルを作っている。
アリスは時折前に現れて完成した物を報告していく。そういう所を見ると、年相応なのだなと思う。
「原因が完全に分からない……」
『そうですねー。他にもしおりさんのように、違う世界から来た人も調べてみましたが、皆自称で怪しい感じでした』
「私も神社の石段から足を踏み外した事以外に特別な事はしていなくて……」
正直、手詰まり感が非常に強くなっていた。そもそも取れる手段が限られている。
そして最終的に、現地に行こうという話になったのだが、昼間は人が多い。そこで石田が降ってきた時間頃に公園に向かう事になった。
そうなると夜まで時間が空いたため、大人しく待っていると、アリスが人生ゲームをやろうと提案してきた。ちなみに人生ゲームはアリスが昨日パクったものだ。
大学生になって人生ゲームはどうかと思ったが、俺以外が乗り気だったので結局やる事になった。佐藤も途中から帰ってきたので参加させた。無理矢理に。
ちなみにアリスとアイリスは順番事に人格を交代し、別のプレイヤーとして参加している。
「地震で五万と家を失う!? 借金しなきゃ……」
「わーい、アリス子だくさん!」
「ヒヒ、やっぱり職業は安定しているサラリーマンだな」
「殺人鬼が何を言っているんですか。……また一回休み」
「火事か。火災保険入っていて良かったな」
『ここで私ユッキーの、一か八かのカジノ全財産賭け! ……ハッサーン!?』
結果だけ言うと結構盛り上がった。
何回か行い、総合的な順位はアリス、佐藤、俺、アイリス、立花、石田の順となった。殺人鬼が地味に世渡り上手いのと、立花が調子に乗って自爆するのが目立った。しかし、そんな立花にすら石田は負けていた。何故だか運が滅茶苦茶に悪い。
そして時間も経ち、俺と石田は例の公園に向かった。
しかし、やはりというべきか、特別なものは何も見当たらない。
一応公園を一周し、空撮用のドローンで空も探索するが、結果は変わらなかった。
そして一時間ほど公園を探索して、俺と石田はベンチで小休止を取っていた。
「……」
「……」
二人とも何も喋らず、ただ沈黙が続いている。
だが石田は何か言いたい事があるようで、こちらをチラチラと見ている。こういった時、こいつは本当に分かりやすい。
ただ何か覚悟を決めているようだし、あちらか話始めるのを待つ。
それから数分後、石田は口をゆっくりと開く。
「……秋山さん、私と初めて会った時の事を覚えていますか?」
「まだ二日前だしな。お前に将来テロリストになるって言われた時は、頭おかしい奴と話してしまったと思ったぞ」
しかし、まだ二日しか経っていないというのは何だか驚きだ。体感的にはもっと長い気がしていた。間違いなくこの二日は今までの人生の中で最も濃い二日だ。
「いやー、あの時はすみませんでした。あの時はまだこの世界を、漫画か何かだと勘違いしていましたから」
石田は空を見上げる。
「違う世界の私の軽率な行動が、多くの人を殺して、それに付随する人の人生も変えてしまいました。少し考えれば、そういった事になる可能性があるって分かる事なのに笑っちゃいますよね」
確かに石田に言われた事が原因で俺は事件に巻き込まれたし、研究所の職員や機動隊員は死んだ。その人達の家族の事も考えれば、不幸になった人は多いだろう。
しかし、アリスは助かった。石田がいなければアリスは今日も苦しみ、精神も摩耗させていたはずだ。
「私、この世界の未来が分かるなんて思っていて、秋山さん――考輝さんのテロリストになるって運命から変えられるのは私だけだと思い上がっていました。神様にでもなったつもりで。でも結局は違いました。私の行動は運命を早めているだけでした」
確かに俺は石田に会うまで普通の大学生で犯罪とは無縁だったが、今や殺人鬼を家に匿い、政府の研究所を襲う犯罪者になった。
しかし、博物館に行くだけでこんな事態になる事を予測出来る奴はいないだろう。石田の暴走が原因の箇所もあるが、一概に石田のせいには出来ない。ただ間が悪かったのだ。
「……そこまでお前が気負う必要は――」
「だから私は決めました!」
俺の声を遮り、石田が大声を出す。
「私はこの世界で異物です。だからまずは帰る事を考えますが、正直今のままでは方法を見つけるのは難しいと思います。だから後三日で帰る手がかりすら見つからない時は、帰る事をきれいさっぱりと諦めます」
「それからこの世界で『生きて』いきます。しっかりと根を張って。私の行動に責任を持って、漫画と比較する事はなく、ここを現実だと受け入れて、迷う事なく進んでいきます!」
「そうか……そこまで覚悟したなら、俺はとやかく言わない」
石田なりに考えた答えなのだ。
自分の進む道は、自分で決めるのが良いに決まっている。それが間違っているかは別にしてだ。その道の先大きな後悔をしたとしてもだ。
「それにしても、これで簡単に帰る方法が見つかったら、それはそれで恥ずかしいな」
「そうですね。でももしその方法が簡単なら世界を往復しちゃいそうです。どうせなら考輝さんに私の世界を案内――」
石田は最後まで言葉を発する事は出来なかった。
出来なかったというよりは、それどころではなくなった、という表現が適切だろう。
何せ俺達が座っているベンチを中心に、地面が円状に光始めたのだ。
「はぁ!?」
「な、何これ!!」
驚いて立ち上がるが、途端に光が目を開けていられない程に強くなった。
思わず目を強くつぶってしまう。
そして次に目を開けた時には、何故か空中に放り出されていた。
しかも地面に衝突するまであまり時間はない。俺はともかく、生身の石田では間違いなく怪我をする高さだ。
「石田! こっちに来い!」
「は、はい!」
石田の名前を呼ぶと、石田は返事をしながら手を伸ばす。
俺はその手を掴んで引き寄せると、所謂お姫様抱っこの体制を作る。
そしてその状態で地面に着地する。
大きな音と共に、衝撃が足を駆けのぼる。
「だ、大丈夫ですか?」
「……なんとかな」
衝撃で足は痺れているが、特に問題はない。
まずは石田を地面に下ろし、ゆっくりと足を動かす。
そして辺りを見渡すと、先程までの公園ではなく、どこか神社のような場所になっていた。明かりも外灯が一本立っているだけでも少なく、あたりも薄暗いためどうにも嫌な雰囲気だ。
しかし問題なのは、俺がこの場所など知らない事だった。
住んでいた街に、ここまで大きな神社はなかった。
「……ここどこだ?」
呟きながら石田を見るが、彼女はどこか放心していて遠くを見ていた。
石田が見ている方に視線を向けると、鳥居の間から夜の街並みが見おろせた。どうやらこの神社は山の上に建っているようだ。
「私……ここ知っています……」
石田が弱々しく呟いた。
「ここ……私の世界の神社です」
未だに放心状態の彼女を、一つしかない月が照らしていた。
これにて一章終了となります。
二章の書き溜めはまだ半分もないので、更新ペースは落ちてしまうと思います。とりあえず、三日に一度を目指します。




