表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark moon  作者: chocolatier
馴染んだ世界と迷い猫
22/48

仕事に向かう面々を送り出して三時間後。

ジジ、と掠れた音が無線からの入電を伝えた。


「どうした?」


桑野が呼びかける。

応えた声は、紺だった。


「女の子を保護したんですけど…連れ帰っても良いですか?」


赴いた麻薬関連組織を一掃した際に発見したのだという。


「多分16-18歳くらいかな?ちょぉっと様子が変だから、表の警察に渡す前に薬物検査もしたいの!」


いきなり話出した小野寺の、ただでさえ高めな声が無線で割れて、鼓膜に突き刺さる。桑野は慌ててボリュームを絞る。


「検査なら仕方ねぇか」


暫く唸って結論を出した桑野から指示を得て、ラルムは地下の医務室へと向かった。



医務室には既に、小野寺と少女が到着していた。

紺は、どうやらラルムとすれ違いで上に向かったらしい。


「こんにちは。名前、云える?」


椅子にかけた彼女と目線を合わせる。

胡乱(うろん)な瞳が、ゆるり、とラルムを見る。


「中古、格安。1万円」


何を云われたのか分からなかった。

ラルムの目を見つめる少女の表情は何も変わらない。


「早く」

「え、ちょ!?」


ぐい、と引かれた手が、彼女の痩せた太腿に触れる。

慌てて手を引いても、少女の目には何の感情も過らない。


「先払い」


差し出された手で、やっと。理解した。

彼女は、ずっとこうして生きてきたのだ。

身を売る言葉以外、何も知らないのだ。


この痩せっぽちの少女は、名前も尊厳も無く、生きてきたのだ。


彼女が差し出した手を取る。引き寄せる。抱きしめる。強張った体が、初めて彼女が見せた感情だった。


「もう、大丈夫…大丈夫だから」

「…セックス、しないの?」

「しないよ」

「殴る?」


ラルムは大きく首を横に振る。


「こわい注射は?」

「しない」

「なんで?」

「君が、人間だから…」

「私は、商品」

「違うよ」


違うんだよ。君は泣いて良い。笑って良い。幸せになって良い。

もう痛い思いも、怖い思いも、してほしくない。そっと、長い黒髪を梳いてやる。手入れされていない、痛んだ手


触りが哀しくて。ただ、幼い子をあやすように頭を撫でて、抱きしめて。


そうしてやると、彼女の体から力が抜けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ