慰
仕事に向かう面々を送り出して三時間後。
ジジ、と掠れた音が無線からの入電を伝えた。
「どうした?」
桑野が呼びかける。
応えた声は、紺だった。
「女の子を保護したんですけど…連れ帰っても良いですか?」
赴いた麻薬関連組織を一掃した際に発見したのだという。
「多分16-18歳くらいかな?ちょぉっと様子が変だから、表の警察に渡す前に薬物検査もしたいの!」
いきなり話出した小野寺の、ただでさえ高めな声が無線で割れて、鼓膜に突き刺さる。桑野は慌ててボリュームを絞る。
「検査なら仕方ねぇか」
暫く唸って結論を出した桑野から指示を得て、ラルムは地下の医務室へと向かった。
※
医務室には既に、小野寺と少女が到着していた。
紺は、どうやらラルムとすれ違いで上に向かったらしい。
「こんにちは。名前、云える?」
椅子にかけた彼女と目線を合わせる。
胡乱な瞳が、ゆるり、とラルムを見る。
「中古、格安。1万円」
何を云われたのか分からなかった。
ラルムの目を見つめる少女の表情は何も変わらない。
「早く」
「え、ちょ!?」
ぐい、と引かれた手が、彼女の痩せた太腿に触れる。
慌てて手を引いても、少女の目には何の感情も過らない。
「先払い」
差し出された手で、やっと。理解した。
彼女は、ずっとこうして生きてきたのだ。
身を売る言葉以外、何も知らないのだ。
この痩せっぽちの少女は、名前も尊厳も無く、生きてきたのだ。
彼女が差し出した手を取る。引き寄せる。抱きしめる。強張った体が、初めて彼女が見せた感情だった。
「もう、大丈夫…大丈夫だから」
「…セックス、しないの?」
「しないよ」
「殴る?」
ラルムは大きく首を横に振る。
「こわい注射は?」
「しない」
「なんで?」
「君が、人間だから…」
「私は、商品」
「違うよ」
違うんだよ。君は泣いて良い。笑って良い。幸せになって良い。
もう痛い思いも、怖い思いも、してほしくない。そっと、長い黒髪を梳いてやる。手入れされていない、痛んだ手
触りが哀しくて。ただ、幼い子をあやすように頭を撫でて、抱きしめて。
そうしてやると、彼女の体から力が抜けた。




