34 勝利?
痛いくらいの静寂。
重たい人間の頭が転がる音だけが響く。
エルンの首以外の何者も、しばらく動かなかった。
「死を目前にあの速さ……
これが……<暗殺者>…………」
静けさを打ち破ったのは魔導師だった。
今この瞬間、世界で1人になった魔導師。
勝った。
俺たちの勝ち。
これでシオンも……
「う、ゲホッ、うええっ」
血だ。また口から。気分が良くならねえ。
だめだ。立ってんのも……しんどい……
「ゆ、ユウタさん!?」
「どういうことだ! 術者は死んだ!
まさか……やはりシオンは消えてない!!生命力の魔力変換すら魔法に組み込んだのか!?」
視界がかすむ。
2人が言ってることがよくわからない。
返事ができない。
疲れたのかな……そうだな……全力で走ったし……
「ユウタさん! 目を閉じないでください!!
本物を……本物をまた手に入れるんでしょ!?
あ、ああ、待って、だめですよユウタさん!!」
「ふざけるなよエルン!!
くそっ……思い出せ、何か、何かあいつは……!」
泣くなよリリィ。大丈夫だって。
ガルーダも。お前も疲れてんだろ。
ちょっと休むだけだから。
ちょっと、眠らせてくれ。
「…………! ……!!」
声も、もう、聞こえねえや……
悪い。先に、休むわ…………
おやすみ。
────
──
…………ん……?
やべ…………寝てた…………
なんだっけ。勝ったらすぐ寝たんだっけ。
ていうか体しんどっ。てか重い。
……むしろ何か乗ってね?
ゆっくりと目を開ける。
「……すぅ…………すぅ…………」
「…………自分のベッドで寝ろよ………………」
リリィが俺の腹にうつ伏せて寝こけていた。
何やってんだこいつ。
リリィを見ていると部屋の扉が開いた。
「……リリィ、こうた……い…………」
「ようガルーダ。
お疲れさん。あの後すぐ寝ちまって悪かっ」
「ユウタ!!!」
「うおぉっ、な、なんだよ……」
あ、ほら見ろ。
うるさくするからリリィが起きたぞ。
「んん…………どうしたんですかガルーダさ…………」
「お、おはよう」
「……よ、よがっだあああああぁ…………」
「うおお泣くな泣くな。鼻水きったね。
ああもう、顔洗ってこい」
なんだなんだ。
人が起床したのがそんなにおかしいか。
泣くってどういう了見だ。
「…………よくもまあ、たった2日で目を覚ましたな。
貴様不死身か?」
え、2日も寝てたの!?
ええー……うそー……
こりゃあ尋常じゃないな。
「なあ、俺になんかあったのか?」
自分で言ってて変な質問だと思うよ。
「まあ、それなりにな。
その話は食事をとりながらするとしよう」
──
「へえ、エルンの血液から対シオンの魔法をねえ」
「ああ。ずっと不思議だった。
自律魔法ほど複雑なもの、魔法陣も無しに発動できるはずはない。
エルンは、自分の血管の配置を操作し、肉体そのものを魔法陣に組み換えていた。
さらにクリスタルの埋め込み。
あんなことをすれば、肉体が崩壊する。
崩壊する度に再生。それができる実力と精神力があってこその荒業だ。
奴はとっくの昔に狂っていた」
……その気持ちは、まあ、わかる。
俺がおかしくならなかったのだって、運が良かったからだ。
リリィのおかげだ。
「エルンは、自律魔法をほとんど完全なものにしていた。
術者が死んでも魔法は生きる。
とんだ天才だ。
奴の計画には、シオンの解除は含まれていなかった。
だからユウタのシオンも解けなかった。
……対シオンの魔法を作るには、シオンに深く関わったエルンの血液を使う必要があった。
ものの5分で対シオン魔法作成を終えた俺も、そこそこどうかしているな」
「お前も天才だったってだけだろ」
ガルーダは茶化すなと言うが、笑顔が隠せてない。
ガルーダが天才だってのはお世辞でも茶化しでもなく、俺の本心だ。
優しい天才。
1つの村のために何十年も尽くすってのは、結構根性いるよ。
「リリィもずっと貴様のことを看ていたんだ。
感謝しておけよ」
「なんでお前が偉そうなんだよ。
……ありがとな、リリィ」
「そ、そんな……私は何も……何も…………」
「? リリィ?」
リリィが段々と俯いていく。
何かあったのか……?
少しすると、リリィは顔を上げた。
決意と勇気に満ちた表情は、
ガルーダに向けられている。
「ガルーダさん。
私に魔法を教えてください」
こんにちは
小夜寝草多と申します。
いろいろと悩んだお話でした……
かつて無いくらい展開を悩みました。
思いつかないというより、数ある展開からどれを選ぼうかなあという、幸せな悩みでした。
すごく実のある楽しい悩みだったなあと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




