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推し活サークルの事件簿  作者: 竹間単
■第一章  姫の私物が盗まれた!?

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【side 徳佐翼】1-2


「申し訳ありませんが、ボクは何も見ていません。ノイズキャンセリングヘッドホンで外部の音を遮断して配信を見ていましたから」


「あーっ! 配信って言えば、今日タケルンの配信があったのに、教授のせいで見られなかったの。もう教授なんて嫌い! 教授の呼び出しがなかったら、メッセージカードだって盗まれなかったもん! 全部、教授が悪い!」


 配信と聞いた姫香ちゃんが嘆きましたが……そうです、ボクは部室でタケルンの配信を見ていたのです。

 あの時間は、スマホをガン見していて、さながらタケルンとボクだけの世界でした。

 だからボクは、本当に何も見ていないし聞いてもいないんです。

 今となっては、もっと周りに注意を払っていれば良かったと後悔するばかりです。もっと周囲を警戒していれば、メッセージカード盗難事件を未然に防ぐことが出来たかもしれないのに。


「そんなに集中して、徳佐氏は何の配信を見てたんだお?」


「えっと、それは……」


 タケルンの配信です。

 ですがそれを言うと、配信までチェックする濃い目のタケルンオタクであることがバレてしまいます。

 何と答えるべきでしょうか。


「えっと、その……野良猫を保護する配信、を見ていました」


 これで誤魔化せたでしょうか!?

 だって、猫は全人類が好きな動物ですよね!? 姫香ちゃんだってリボンネコが好きだと言っていましたし。それならボクが猫好きだとしても、変ではないですよね!?


「へえ。徳佐は猫が好きだったんだな。てっきり特撮系の配信でも見てるのかと思っていたのだが」


 あーーーーーっ!?

 特撮オタクとして、ボクはなんという失態を犯してしまったのでしょう。ここは特撮系の配信と答えるべきところでした。

 焦っていたとはいえ、咄嗟に特撮という単語が出てこなかった自分にガッカリです。

 ですが、今さら変更は出来ません。そもそも今大事なのは、ボクが見ていた配信の内容ではなく、ボクが配信を見ていたときの状況です。


「この際、配信の内容はどうでもいいんですよ。それよりも大事なのは、ボクが配信に夢中で、目も耳も塞がっている状態だったことです。そのため、もしもあの時間に部室で何かが起こっていたとしても、ボクは気付かなかったはずです」


「なんか徳佐氏、急にテンションが低くなったんだお」


「変なことに気付かなくていいですから。今はボクのことより、姫香ちゃんのメッセージカードの話をしましょう」


 いらん追究をしようとしてきた兄小田先輩をあしらって、話を本筋に戻した。


「そっかあ。とっくんが何かを目撃してるかもと思ったけど、配信に夢中だったんなら無理だよね」


 姫香ちゃんが残念そうに呟きました。

 ううっ、良心が痛みます。

 もちろんボクがメッセージカードを盗んだわけではありませんが、せめてヘッドホンをしていなければ物音に気付けた可能性があります。あのときの自分を殴りたいです。


「最近は配信文化が進んでるから、拙者も見るものが多くて困ってるんだお。供給が多すぎて困るなんて贅沢な悩みなんだお」


「兄小田先輩は何の配信を見るんですか?」


「『魔法少女☆ひめるん』の中の人たちがやってる配信番組なんだお。雑談だけじゃなくて『魔法少女☆ひめるん』にまつわる情報コーナーもあって、なかなか馬鹿に出来ないんだお」


 『中の人』は、兄小田先輩がよく使う単語です。アニメのキャラクターに声を当てている声優さんのことを差しているらしいです。

 ちなみに特撮でも中の人という単語を使いますが、特撮の場合はスーツアクターを差すことが多いです。


「情報コーナーということは、公式の配信番組なんですね」


「そうなんだお。中の人が個人的にやってる配信もあるけど、そこまでは追えないんだお。だって拙者『魔法少女☆ひめるん』に一番ハマってるけど、それはそれとして他のアニメも見たいんだお」


「時間は限られていますからね。本当に嬉しい悲鳴ですね」


「鉄道関連の配信もあるが、やっぱり俺は実際に乗る方が好きかな」


 兄小田先輩とボクの会話を聞いていた鉄堂先輩が会話に混ざってきました。

 しかしいつもは元気に喋る姫香ちゃんが、今は会話に混ざらず浮かない顔をしています。メッセージカードのことが気がかりなのでしょう。


「足に伝わる振動、揺れるつり革、みるみる変わる景色に、連結に離合に警笛に風圧。車内で食べる駅弁だって鉄道の魅力の一つだ。これらの魅力は配信では味わえない。それに……」


「今は配信や鉄道の話より、姫のメッセージカードを探してほしいな」


 熱の入ってきた鉄堂先輩の言葉を、姫香ちゃんが遮りました。

 当然です。今の姫香ちゃんはタケルンから貰ったメッセージカードを失くして傷心中なのに、他人の推し語りを聞いている余裕なんて、きっとありません。


「あっ、ごめん。つい鉄道のことで頭がいっぱいになってしまった」


「気持ちは分かるよ。姫もいつだってタケルンのことで頭がいっぱいだもん。推しがいると、すぐに推しのことを考えちゃうよね」


「ですが、今話すべきことではありませんでしたね。すみません。今は姫香ちゃんのメッセージカードを探すことが先決ですよね」


「空気を読まずに話を膨らませて申し訳ないんだお。拙者、空気が読めないって言われがちなんだお」


「大丈夫、気にしてないよ。ただ姫は早くメッセージカードを見つけたいんだ」


 姫香ちゃんは気にしていないと言ってくれましたが、やはり浮かない顔です。


「ねえ。みんなには悪いけど、一応荷物検査を……」



「荷物検査は一旦保留にしませんか!?」

「まだ調べるところは他にもあるはずだお!?」

「荷物検査は最後の最後にとっておこう!?」



 ……おや。

 何故か兄小田先輩と鉄堂先輩も、荷物検査を避けたいようです。

 どうしてでしょうか。

 サークルの仲間を疑いたくはありませんが、もしかして二人のどちらかが、姫香ちゃんのメッセージカードを盗んだ犯人なのでしょうか。

 そう思って二人を見ると、二人は一斉に、顔をあらぬ方向へと逸らしてしまいました。




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