【side 姫川姫香】1-2
「姫香ちゃんが遅いなんて珍しいな。また教授に呼び出されたのか?」
「そうなんだよね。ちょっとレポートにハートマークを描いただけで呼び出しなんて、酷いと思わない?」
「レポートにハートマークですか……それは、うん。教授も大変ですね」
姫の言葉を聞いたとっくんは複雑そうな顔をしてる。
もしかしてとっくんもハートマーク反対派なのかな?
「うわあ、姫香ちゃんは可愛いなあ。日本一可愛い。鉄道以外に興味の無い俺でも、姫香ちゃんのことは可愛いと思うよ。俺も姫香ちゃんからハートマーク付きの手紙が欲しいなあ!」
「教授に提出したのは手紙じゃなくてレポートだけどね」
一方で、てっちゃんは姫のことを絶賛してくれた。
やっぱりハートや星でデコられた可愛いレポートは、姫らしさが出てていいよね!?
実は、今度はハートマークを描くだけじゃなくてシールを貼ろうと思って、いっぱい可愛いシールを買ってあるんだ。次のレポートに貼ろうっと。
「こらこら鉄堂氏。拙者の方がもっと、姫川氏のことを可愛いと思ってるんだお。姫川氏は日本で一番じゃなくて、地球で一番可愛いんだお。ぐふふふ」
「地球で一番程度ですか? ボクは姫香ちゃんが宇宙で一番可愛いと思ってます。日本規模、地球規模の、先輩方には負けませんよ」
てっちゃんに触発されたのか、あにおだととっくんが姫のことをどれだけ可愛いと思ってるかを競い始めた。
すぐに争いを引き起こす姫の可愛さって、罪かも。
「罪と言えば、タケルンも罪な男だよね。アイドルの恋人は、ファンか仕事のはずなのに」
「アイドル? 前にタケルンは俳優だと言っていなかったか?」
「はい。タケルンは演技で魅せるタイプの俳優ですね。まあ、演技上で必要があれば歌うこともありますが」
おっと、姫の不用意な発言でみんなを混乱させちゃった。
タケルンは俳優として売り出してるから、誤解をさせちゃダメだよね。
「ごめんね、アイドルって言うのは言葉の綾。とっくんの言う通り、タケルンは演技派俳優だよ。でも顔は超イケメンなの。姫の心のアイドル」
「むむ? タケルン氏は、超イケメンだから罪な男ということなのかお?」
あにおだの質問に、わざと声を潜めて答える。
「ここだけの話、実は姫、タケルンからすごいものを貰っちゃったんだ」
そう、姫はついに推し俳優から愛の綴られたメッセージカードを貰ってしまったのだ!
タケルンの出てる全部の公演を観に行ったことで、姫の愛がタケルンに伝わった結果だと思う。もちろん姫が可愛いことも告白の後押しになったはず。可愛く生まれてよかったー!
「これを見せたら、きっとみんな驚くと思うよ」
姫は今日、推し活サークルの仲間にもタケルンから貰ったメッセージカードを見せたくて、大学に持って来た。
だって一人で抱えるには、すごすぎる秘密なんだもん。
「すごいものって何だお? サイン入りチェキかお?」
「ああ、アイドルはよく自分の写ったチェキを売っているらしいな」
「ですから、タケルンはアイドル的な売り出し方はしていないんですよ」
「うん。チェキじゃないよ。すごいものっていうのはね、実はね……」
みんなの驚く顔を想像しながら、鞄の中を漁ってタケルンから貰ったメッセージカードを探す。
「…………あれ?」
メッセージカードが見当たらず、ついには鞄をひっくり返してみたのに、どこにもない。
え。何が起こってるの?
「姫香ちゃん、どうかしたんですか?」
「あれ、あれ、おかしいな」
「姫川氏、何を探してるんだお?」
「タケルンから姫への、愛のメッセージ!」
大学には絶対に持ってきた。だって今日は授業中にメッセージカードを見ながら、うっとりしてたんだもん。実は家に置いてきてた、なんてことはあり得ない。
「推し俳優からの愛のメッセージというのは、何かの比喩か?」
比喩なんかじゃない。
タケルンからの、姫への愛が綴られたメッセージカードは、確かに存在する。物体として存在してる。存在してる……はずなのに。
これはもう、認めるしかない。
「いやあああ! タケルンのメッセージカードが無くなってるーーー! あれはタケルンが姫だけにくれたカードなのにーーーっ!」
メッセージカードが無いことを理解した途端、自然と悲鳴にも似た声が出た。
だってあれは、タケルンが姫のために、推しとファンとの関係を飛び越えて送ってくれた特別なカードなんだもん。
タケルンの舞台を観てると必ず何度も目が合ってたから、前からタケルンが姫のことを意識してることは知ってたけど、ようやくメッセージカードをくれたの。
だから自慢したくて大学に持ってきたのに。
この世に一つだけの、タケルンから姫への愛の手紙なのに。
そのメッセージカードが、消えちゃった。
「俳優が姫香ちゃんだけにくれたメッセージカード……貴重な品ということか」
「鞄に入れて部室に置いておいたの。それなのに……!」
「言いたくはないですが、部室内で盗難が起こったということですよね?」
「うわーん! 姫のメッセージカード、どこに行っちゃったのーーー!?」
タケルンから貰ったメッセージカードを姫が失くしたって知ったら、きっとタケルンは悲しんじゃう。
勇気を出して伝えた愛を蔑ろにされるなんて、誰だって悲しいもん。
タケルンにそんな悲しい想いはさせたくない。
「絶対に見つけないと……あのメッセージカードは、タケルンの愛そのものなんだもん」
姫だってメッセージカードが無くなったことはものすごく辛い。でもタケルンを悲しませることは、もっともっと辛い。絶対にタケルンのメッセージカードを見つけないと。
メッセージカード紛失に悲しむ姫を見たあにおだが、立ち上がって拳を天に掲げた。
「ふんぬーーー! 姫川氏の私物を盗むなんて許せないんだお! きっと姫川氏の私物をスーハースーハーしたい変態が犯人なんだお! みんなで変態を見つけるんだお!」
「スーハ―スーハーって……いえ、犯人が変態かはさておき、他人の物を盗む行為は許せませんね!」
「そうだな。犯人を見つけて、タケルンからのメッセージカードを取り返そう!」
泣き崩れる姫の周りで、先輩たちが一致団結してメッセージカードを探す約束をしてくれた。
ありがとう、みんな。
でも盗難が起こったのはこの部室でなんだけど……この中に犯人はいないんだよね?




