【side 徳佐翼】2―4
ボクと姫香ちゃんが笑い合っていると、鉄堂先輩がわざとらしく咳払いをしました。
「あー……話が逸れてしまったが、部誌はどうしようか」
そうでした。今のボクたちは、部室を獲得するために完成度の高い部誌を提出しないといけないのでした。
「本野先輩には申し訳ないですが、このマダミスはボツにした方が良いと思います」
「そうだよね。さすがに姫もこのマダミスで部室が貰えるとは思えないよ」
「でも本野氏は、このマダミスを部誌として提出しろって言ってたんだお?」
「それはそうだが…………ん? んんっ?」
兄小田先輩の言葉を聞いた鉄堂先輩が、真横になるほど首を傾げました。
「鉄堂氏、どうしたんだお?」
「本野先輩にこのマダミスを部誌にしろ……とは、言われていないな?」
「えっ」
「はい?」
「どういうことなんだお!?」
兄小田先輩と姫香ちゃんとボクは、一斉に声を上げました。
今までの話が一気にひっくり返ったからです。
「鉄堂先輩は、部誌を作らないと部室が無くなるから、本野先輩に助けてもらおうと思って会いに行ったんですよね!?」
「そうだ」
「それで本野先輩っていう人に『犯人を見つけてマダミスを完成させてみろ』って言われたんだよね!?」
「そうだ」
「本野氏に、完成させたマダミスを部誌として提出しろって言われたんだお!?」
「それは言われていない」
今度はボクたちが首を傾げる番です。
では鉄堂先輩は、本野先輩に何を言われたのでしょう。
「俺が本野先輩に部誌のことで悩んでいると話したら、本野先輩は『後輩を鼓舞するものを渡す』『推し活サークルの後輩たちへの愛を込めたプレゼント』と言って、このマダミスをくれたんだ。思い返してみると、これを部誌として提出しろだなんて、一言も言っていなかった」
「じゃあどうして本野先輩はボクたちにマダミスを解かせたのでしょう。話の流れ的に考えて、突然部誌と無関係のものを渡すとも思えませんよね」
「このマダミスを解いて拙者たちが手に入れたものは……気付いたことは……」
このマダミスを通してボクたちが気付いたこと。それは。
「分かった! 推しへの愛と情熱だよ!」
姫香ちゃんが手を挙げて大きな声を出しました。
「みんな、このマダミスを解いて、シナリオが味気ないって思ったよね? 推し活サークルの部誌にするには、推しへの熱意が足りないって思ったよね? 推し活の尊さが描かれてないって思ったよね?」
「確かにそんな話もしたんだお」
「なるほど! 俺たちにそのことを気付かせるために、本野先輩はわざとイマイチなマダミスを渡してきたのか!」
合点がいきました。あの本野先輩が作ったにしては、違和感のあるマーダーミステリーだと思っていたんです。
無機質というか人間ドラマが無いというか、ぶっちゃけ駄作でした。まさか、わざと駄作を書いていたなんて。
「推し活サークルたるもの、拙かったとしても推しへの熱い想いは自分の言葉で伝えるべきだと、本野先輩はイマイチなマダミスを通して説いていたわけですね!」
「本野氏がイマイチなものを書いて渡すなんて変だと思ったんだお。全ての謎が解けたんだお!」
「……三人とも。あんまりイマイチを連呼しない方が……本気で書いたものかもしれないし」
本野先輩のことをよく知らない姫香ちゃんが、困ったような顔で言いました。
「そうですね。他人の創作物にイマイチと言うのは、褒められた行為ではありませんよね」
「どんなに拙い創作物でも、そこに推しへの愛が込められてるなら、それだけで傑作なんだお」
「きっとこのマダミスは、解決した後の俺たちの心が動くことまでを計算して書かれたものだったんだ。イマイチどころか大傑作だ!」
なるほど。鉄堂先輩の言う通りかもしれません。
きっと「マーダーミステリーを通してボクたちの心が動く」ところまでが、本野先輩の作品だったのです。そしてその作品は、たった今、完成しました。
「本野先輩って人は『推し活サークル』を推してたんだね。そうじゃなかったら、こんなに心は動かないもん」
「ええ、きっとそうです」
本野先輩は卒業してなお、推し活サークルのことを愛してくれているのでしょう。
人を動かすことの出来る最も大きな力は「愛」です。
推しのいるボクたちは、そのことをよく知っています。
「大切なことにも気付けたところで、今度こそ自分たちの力で部誌を作ろう! 拙くてもいいから、自分の言葉で推しへの愛を語るんだ!」
鉄堂先輩の言葉に、この場の全員が頷きました。
部室を守ることに目が行きすぎて、ボクたちは初歩的なことを忘れてしまっていたようです。
どんなに拙かったとしても、推しへの愛は、自分の言葉で、自分の熱で、伝えなくては意味がありません。
「推しへの愛を込めた部誌……具体的にはどういう部誌を作りましょうか」
「姫、思ったんだけど、部誌って紙しか認められないわけじゃないよね? 映画研究会は映画を提出するでしょ。そういう感じで、姫たちも製作物を紙以外のものにするのはどうかな?」
姫香ちゃんがものすごく良いアイディアを口にしました。
部誌は、サークルの活動報告として提出するものです。ということは、活動報告になるものであれば、紙にこだわる必要はないのです。
「映画、いいですね! 特撮モノは映画も人気なんですよ。あっ、実はボク、ジオラマを作ることが出来るんです。何かに使えませんか!?」
「映画なら、拙者は魔法少女モノが撮りたいんだお。全編アニメ……は難しいけど、オープニングとエンディングはアニメ風にしたいんだお! 実は拙者、少しばかりイラストが描けるんだお!」
「時刻表トリックなら俺に任せてくれ! 普通に乗るよりも、乗り換えを工夫することで早く到着できる駅をいくつか知っている!」
「タケルン……はさすがに出演してくれないだろうけど、姫、タケルンのことを追いかけてるうちに演技についても学んだんだ。タケルンは演技の話をいっぱいするから。姫、演技できるよ!」
すごい。推しのおかげで、全員が多芸のようです。
「あとはボク、独学ですがアクションも練習しているんです。だからボクも敵役として出演できます!」
「拙者、作曲が出来るオタクを知ってるんだお。すぐに連絡が取れるお! 衣装は卒業生のコスプレオタクの先輩が貸してくれるかもしれないんだお!」
「俺は害悪撮り鉄が嫌いだが、鉄オタ仲間に頼まれて編集作業を手伝うこともある。だから動画の編集が出来るぞ!」
「姫、タケルンを追いかけてるうちに、脚本とか撮影時のイマジナリーラインについても学んだんだ。だから監督脚本も出来るよ!」
イマジナリーラインは、映像作品の撮影をする際に気にするべき線のことです。
姫香ちゃんは普段は勉強が苦手なのに、タケルンが絡むとめちゃくちゃ勉強熱心になるようです。
普段の授業も無理やりタケルンと結び付ければ、赤点とは縁が無くなるのではないでしょうか。
それにしても、まさか推し活サークルの全員が、こんなに高スペックだとは思いませんでした。
「推し活サークルで映画制作……イケる気がします!」
「力を合わせて作品を完成させるんだお!」
「推しに対する熱意をたくさん込めた映画にしよう!」
「推し活サークル、ファイトー!」
こうして完成した自主制作映画『魔法少女ひめかvs怪人ヘルメット~解釈違いを巡る時刻表トリック殺人事件~』は、一定の評価を得ました。
その評価はネタ映画としての評価ではありましたが……とりあえず、部室はまた一年、守られました。




