【side 徳佐翼】2-3
「これを部誌にするのは……どう思う、みんな?」
鉄堂先輩が渋い顔で質問をしました。
気持ちは分かります。頑張って答えを見つけたのに、答えを見つけた結果、シナリオがマーダーミステリーとしてイマイチな出来だったのですから。
「姫は面白かったよ。ただ、あにおだがいなかったら解けなかったかも。姫、ぬいママのこと知らなかったもん」
「姫川氏の行く舞台には、ぬいを持ってくる人はいないのかお?」
「それはいるけど、ぬいぐるみを子どもとして見てるなんて思わなかったよ」
「まあ普通は思いませんよね」
だからこそ、このトリックはマーダーミステリーとしてどうかと思うのです。オタク知識の有無で解答を導き出すことが出来るか否かが決まるのは、ゲームとして賛否両論あるはずです。
「申し訳ないけど、これを部誌として提出したところで部室が獲得できるとは思えないんだお。トリック以上に、何と言うか、このシナリオは味気無いんだお。愛が足りないんだお」
「俺もそう思う。シナリオ内にオタクたちは出てくるが、それだけだ。オタクたちの、推しへの愛や情熱が表現されていない気がする」
「ボク……私もそう思います。マダミスとしてちょっとアレですし、何より推し活の尊さを全く感じませんよね」
「分かるー……って、それよりも姫、さっきから気になってたんだけど、どうして今日はとっくんの一人称がブレてるの?」
ボクが、「ボク」と「私」の一人称で揺れていることに気付いた姫香ちゃんが質問をしました。
すると姫香ちゃんの発言に、なぜか兄小田先輩がボク以上にあわあわとし始めました。
「姫川氏、それ以上はいけないんだお。一人称を変えるのは勇気がいることなんだお。だから、一人称が定着するまではそっと見守るのが友人の努めなんだお」
「でもなんで急に一人称を『私』に変えようとしてるのか気にならない? とっくんは『ボク』が似合ってるのに」
「姫川氏、ダメなんだお。徳佐氏は一人称を『ボク』から『私』に変えることで、少年から大人の男になろうとしてるんだお。仕事の場では自分のことを『私』と呼ぶ機会が多いらしいから、きっと徳佐氏は将来のために『私』呼びに変えようとしてるんだお」
やっぱり兄小田先輩はボクのことを男だと思っているようです。一年以上も一緒にいるのに……真実を話すなら、今しかありません。
鉄堂先輩も兄小田先輩も、女である姫香ちゃんと普通に話しています。推し活サークルのメンバーなら、性別によって態度を変えることはないはずです。
「あの……今さらですが、ボクは女です」
「ええーーーっ!?」
ボクの発言に対して誰よりも大きなリアクションをとったのは、鉄堂先輩でした。
「鉄堂先輩もボクのことを男だと思ってたんですか」
「だって徳佐は自分のことを『ボク』と呼んでいるし、特撮オタクには男が多いイメージだったから……名前も『翼』でカッコイイなあ、と……」
「先入観は怖いんだお。いつも特撮ヒーローみたいな服を着てるから、拙者も今の今まで徳佐氏は男だと思ってたんだお。声も少年ボイスって感じなんだお」
「姫もとっくんは男だと思ってた。スラっとしてるし、髪型はベリーショートだし……ペッタンコだし、ね?」
姫香ちゃん、一言多いです。
「ということは、徳佐氏はもしや『ボクっ娘』なのかお!?」
「ええ、まあ」
ボクの返事を聞いた兄小田先輩は、その場で地団駄を踏みました。
「ふんぬーーー! こんな身近にボクっ娘がいたなんて。しかし惜しむべきは、拙者にボクっ娘属性が無いこと。悔しいの極みなんだお!」
よく分からない悔しがり方です。
兄小田先輩がよく分からないのは、今に始まったことではありませんが。
「『ボクっ娘』ってなあに?」
「自分のことをボクと呼ぶ女性のことだ……って、兄小田と一緒にいるうちに俺も変な知識が増えたな」
「変な知識じゃないんだお。ボクっ娘は一部界隈では大人気なんだお。歴史も意外と古くて、最初のボクっ娘と言われてるのは……」
兄小田先輩の長いボクっ娘講義が始まりそうだったので、無理やり遮ることにしました。
「驚かせてしまいましたが、ボクはこれまでもこれからも特撮オタクとしてこのサークルに所属するつもりです。だからボクが、ボクっ娘……男じゃなくても、これまでと変わらずに接してくれませんか?」
するとボクの質問に、サークル長である鉄堂先輩が自身の胸を叩いて言いました。
「当然だろう。推しを愛する者に、性別も年齢も関係ない! 大事なのはハートだ!」
「鉄堂先輩!」
「姫ととっくんは同じタケルンオタクの同志だよ。それ以上でもそれ以下でもないよ。ごめんね」
「拙者にはボクっ娘属性が無いから、徳佐氏のことはオタク仲間としてしか見れないんだお。申し訳ないんだお」
「……一瞬感動しかけたのに、なんでボクがフラれたみたいになってるんですか」
鉄堂先輩に続いて全員が感動的なことを言うのかと思いきや、姫香ちゃんと兄小田先輩は告白を断るときのような言葉を投げてきました。ボクは告白なんか一切していないのに。
ですがこれも、自由人ばかりの推し活サークルらしいやりとりかもしれません。
「それでとっくんは、これから一人称を『私』に変えるの?」
「いいえ。やっぱりボクは、これからも『ボク』でいこうと思います。今日試してみましたが、一人称を変えるのは難しかったので」
「それが良いと思うよ。姫の中でも、もうとっくんは『ボク』のイメージで固まっちゃってるもん」




