【side 徳佐翼】2-2
「残念だけど、リボンネコオタクはいろんなものに触っているから、どれに毒が塗ってあったのかは絞れないな」
「それにリボンネコオタクがクッキーを食べていない場合、手に付いた毒を摂取するタイミングがありません」
考え込んでいた姫香ちゃんが突然、そうだ!と手を叩きました。
「リボンネコオタクはペットを飼ってなかったのかな? 例えばペットの口に毒が塗られてて、そのペットと舐め合いっこをしちゃったとか」
「その場合は飼い主の前にペットが死んでいますよ」
「あっ、確かに。姫の家のワン太はすぐに舐めてくるから、これだ!って思ったんだけどな。ワン太が可愛いから、姫からも、すぐにチューしちゃうの」
リボンネコオタクがペットを飼っているという記述はありません。ペットについて言及する直接の記述が無くても、例えば部屋にドッグフードが置かれていたら犬を飼っていると言えるでしょうが、そんな記述もありません。
このシナリオだけで、リボンネコオタクがペットを飼っているか否かを判断することは出来ません。
「拙者は、リボンネコオタクはペットを飼ってない気がするんだお。だって旅の写真には全部リボンネコが写ってるんだお」
確かにリボンネコのぬいぐるみと一緒に旅行をしている写真については記述がありました。
「憶測でしかないが、俺もペットは飼っていないと思う。ペットがいたのでは頻繁に旅行は出来ない。それにペットの代わりにしているのか、リボンネコオタクはリボンネコをペットのように扱っている気がする」
鉄堂先輩の言葉を聞いた兄小田先輩は、口に手を当てて、信じられないと言いたげな顔をしました。
「鉄堂氏、それは禁句なんだお! ぬいママにとって、ぬいぐるみはペットじゃなくて子どもなんだお!」
「ぬいママ……?」
兄小田先輩の発した単語に、姫香ちゃんが首を傾げました。
「ぬいママは、ぬいぐるみを子どものように扱うオタクのことなんだお。お洋服を着せたり、お風呂に入れたり、一緒に旅行をしたりして、ぬいぐるみとの暮らしを楽しむんだお」
「リボンネコオタクはぬいママなの?」
「ぬいぐるみとの観光写真が壁に貼られてるんだお。きっとぬいママなんだお」
「なるほど。普通は観光地でぬいぐるみの写真は撮らないもんね」
「…………」
実のところ、ボクはたまに旅行に特撮フィギュアを持って行きます。洋服を着せたりお風呂に入れたりはしませんが。
だってボクにとって特撮フィギュアは子どもではありません。あくまでもヒーローです。特撮フィギュアのことは、ヒーローとして愛しているんです。つまりボクはヒーローと一緒に旅がしたいんです。
ですが、ぬいぐるみを子どもに見立てるオタクも確かにいます。
ぬいママは、ぬいぐるみを自分の子どものように可愛がって…………あれ。
「ぬいママ……子ども……可愛がる……可愛いものにキス……」
あーーーっ! すべてが繋がった気がします!
「あの、赤ちゃんのもちもちのほっぺって、可愛くて食べちゃいたくはなりませんか!?」
「急にどうしたんだお? 確かに可愛いものを口に入れたくなる層は一定数いるらしいけど、徳佐氏もそうなんだお?」
「ボクの話ではありません。マダミスの話です。もしかしてぬいママであるリボンネコオタクは、ぬいぐるみが可愛くて、つい口に入れてしまったのではありませんか!?」
「そんなまさか……あ。被害者の口の中から結構な本数の繊維が検出されたと書いてあったな」
鉄堂先輩が急いでマダミスの追加情報を読み返しました。
そうです、リボンネコオタクの口の中には繊維が入っていたのです。
「その繊維、ぬいぐるみのものではありませんか?」
「もしかして紅茶は、繊維が口の中に入って気持ちが悪かったから飲んだのかな。口の中をリフレッシュしようとして」
「ぬいぐるみの写真を撮っているからには、リボンネコグッズの中にぬいぐるみもあるとは思うが……いや、やっぱりダメだ。もともとリボンネコオタクの部屋にあったものだから、三人には毒を塗ることが出来ない」
「いいえ。一つだけあるじゃないですか。外から持ち込まれたぬいぐるみが」
このシナリオの中には、たった一つだけ、毒を塗る時間が十分にあっただろうぬいぐるみが存在します。
リボンネコオタクに誕生日プレゼントとして渡されたアレです。
「分かった! フラワーアレンジメントに付いてたぬいぐるみだね!?」
「その通りです」
ガーデニングオタクなら、事前にぬいぐるみに毒を塗っておくことが可能です。つまり。
「ガーデニングオタクが犯人なんだお!」
「事件解決だね!」
兄小田先輩と姫香ちゃんが、嬉しそうにハイタッチをしました。
「ただ言いたいことがあるんだお。本野先輩は拙者なら分かりそうと言ってたみたいだけど、拙者はぬいもフィギュアも口に入れないんだお。ぬいを持つオタク全員が可愛いものを口に入れるとは思わないんでほしいんだお!」
「ぬいとの向き合い方は人それぞれってことだね。そしてこのマダミスのぬいママはぬいを口に含むタイプだったんだね」
「まあトリックには一応筋が通ってる気がする。口の中に繊維が入ってた描写もあるし。しかし……ぬいママがぬいぐるみを口に入れるマダミスか……」
問題はそこです。
こんなぶっ飛んだマーダーミステリーが、万人受けするとは思えません。
ぬいママの存在を知らない人たちは、解答を聞いて石を投げることでしょう。それにぬいぐるみを口に入れないタイプのぬいママも、石を投げるに違いありません。




