【side 姫川姫香】2-3
それはさておき。今はこのマーダーミステリーを完成させないと。
でも、マーダーミステリーはここで終わってるみたい。
「これだけの情報で犯人と殺害方法が分かるものなの? 姫、全く分からないよ」
「キャラシートは無いんですか? マダミスには登場人物それぞれの設定が書かれているシートがありますよね?」
「そういったものは無いんだ」
「キャラシートにヒントが隠されているかもしれないと思ったのですが、残念です」
姫はマーダーミステリーのゲームに詳しくはないけど、とっくんとてっちゃんの会話から察するに、普通ならもっとヒントになる情報がもらえるみたい。それがキャラシート……登場人物表みたいなものかな?
でもこのマーダーミステリーにはそれが無いらしい。残念。
「情報が少なすぎるんだお。これ、マダミスとして破綻してるんじゃないかお?」
「破綻しているかは不明だが……本野先輩曰く『分かる人はすぐに分かるし、分からない人は解答を聞いたら石を投げる』とのことだ」
「これだけの情報ですぐに分かる人もいるの!?」
そんな人、もう超能力者の域だと思う。容疑者を見ただけで犯人が分かるタイプの能力者……推理小説を楽しめなさそうでちょっと可哀想。
「うーん。マダミスの評価は賛否両論ということですかね」
「分かる人が絶賛するとは言ってないんだお。分かった上で石を投げるかもしれないんだお」
「最悪じゃないですか」
頭に手を当てながら考えてみたけど、姫はすぐには分からない人みたい。解答を聞いたら姫も石を投げたくなるのかな。
「うーん。石を投げたくなるということは、攻めたマダミスなのかもしれませんね」
「攻めた殺人事件……ぶっ飛んだトリックとか?」
「本野先輩は『オタクなら分かる。特に兄小田が分かりそう』とも言っていたな」
「拙者!? 全然ピンと来てないんだお!?」
名指しをされたあにおだが、自分を指差して慌てている。
パニックになりかけるあにおだを、てっちゃんが押さえた。
「まあ待て。次のページに追加情報があるから読んでみよう」
「なーんだ。まだ情報があったんだね!」
てっちゃんがノートのページをめくると、新たな文章が出現した。
その文章をてっちゃんが音読する。
「追加情報は…………鑑識オタク『おや。被害者の口の中からおかしなものが検出されましたよ。これは何かの繊維ですね。しかも結構な本数があるようです。どうしてこんなものが口の中にあるのでしょう。ちなみに一番怪しいクッキーからは、毒物反応は検出されませんでした』と書いてある」
「うんうん、それで?」
「これで終わりだ」
「えっ!? 追加情報ってこれだけなの!?」
驚く姫に向かって、てっちゃんが頷いた。
「これだけだな。ちなみに今の追加情報で、このマダミスの情報はすべて出た」
「これで終わり!? うそ、これだけで解けるわけなくない!?」
ペラペラとノートをめくってみたけど、本当にこれ以外のことは書かれてなかった。めくってもめくっても、白紙のページばっかり。
ということは、これだけの情報で殺人事件の謎が分かるってこと?
姫にはさっぱり分からないよ。
「ボクは……私はクッキーに毒が入っていたのかと思っていましたが、違うんですね」
「それだと事件が秒で解決しちゃうんだお」
「しかし、たったこれだけの情報で難解なトリックを予測することは難しいと思う。ゲームとしてアンフェア過ぎる」
てっちゃんの言う通り、この事件はシンプルなものだって姫も思う。
だって事件は、被害者が毒を飲んだだけ。密室の謎を解いたり、アリバイを崩したり、そういう複雑な話じゃない。
どうやって被害者に毒を飲ませたのかと、その犯人を見つけるだけ。
……って、姫にはそれが分からないんだけど。でも。
「毒が入ってたのはクッキーじゃないけど、簡単な解答ってことだね?」
「たぶん、だがな。さすがに描写の無い釣り糸やドローン等の道具を使ったトリックではないと思う」
「分かる人はすぐに分かるし、分からない人は解答を聞いたら石を投げる。そしてオタク、特に兄小田先輩が分かりそうな解答……兄小田先輩は何か分かりましたか?」
「そんなことを言われても、拙者も全然分からないんだお」
「兄小田が分かりそうだというのは、あくまでも本野先輩が口頭で言っていたヒントだ。マダミスはシナリオだけで解答に辿り着けるはずなんだが……」
やっぱりシナリオの中にすべての謎が隠されてるんだ。
だとしたら、姫がやるべきことは一つ。
「姫、もう一回シナリオを読んでみるよ!」
何としてもこのマーダーミステリーを解いて、部誌を完成させて、部室を守るんだ。
大好きなこの場所を、姫が守るんだ!




