犠牲
「くっ」
自動反撃システムが射角と距離を割り出し、意思より速く索敵システムが襲撃者へと砲門を向ける。
対岸の棟。その屋上に狙撃手の姿が、一瞬遅れて視界に映る。
これまでガルムの感知を欺いていた光学迷彩と熱遮断膜が、発砲の熱によって乱れ、砂嵐のような明滅している。
奇襲。
考える前に花を咲かせる者と、耕す者の引き金を落とす。
大口径連続狙撃ライフルの射手は、まずは頭蓋をガーデナーで粉々に砕かれ、重外堡破壊用の爆縮徹甲炸薬弾によって銃と共に灰燼となった。
「おい、07。しっかりしろ、おい」
しゃがみ込み、07の容態を窺う。
あたりに飛び散ったガルムの残骸には、見覚えのある臓物の破片が散らばっている。腸は見分けがつく、あの浅黒い肉塊は肝臓だろうか。夥しい出血。
「ああ、隊長。すみません。しくじりました。これは駄目ですね。休暇申請は出来そうにないです」
07は困ったように告げる。普段と変わらぬ口調だ。
「喋るな。救護ジェルで損傷箇所を覆えば、まだ希望はある」
「無理ですよ。肝臓と胃、腸の七割が吹っ飛んでます。横隔膜も破れているんで、あと32秒で呼吸が止まります」
致命傷を負いながらも淡々と告げる07。
搭乗者の損傷を検知したガルムが、痛覚にマスキングをかけて脳への痛みを遮断しているので、今際の際だろうと苦しむことがないのだ。全ては部隊の構成員に動揺を与えないための技術的処理である。クソったれ。
ガルムが救助のために、処置の終わった外骨格から搭乗者を吐き出そうとしている。だがとても間に合う速度ではない。なにより、止血が終わったところで失った臓物を再生させることなどできない。
「ちぇ、家族の仇も討てずに終わりですか。まったく無念極まりないですよ。隊長、せっかくだから聞いてくださいよ、私は」
そこで言葉は途切れた。
07は残された時間で遺言を伝えることができなかった。
こうして07――ミシェル・ピースパークは21歳という短い生涯に幕を下ろした。
ガルムが感情抑制剤を口に放り込んでくる。吐き出し、代わりに唇を噛みしめる。
痛覚とわずかな出血にガルムが鎮静剤を与えてくる。
この外骨格は肉体的な悔いの痛みすら赦してくれない。
「こちら01。07を損耗。作戦を継続する」
帰ってくる六つの返事は、短く冷たいものだった。
感情抑制剤を飲んだ仲間たちは、仲間を悼むこともできない。
立ち上がり、仲間の命を奪った過激派を処理するために移動を開始する。
ガーデナーで淡々と要所を守っていた武装集団を片付けていく。後ろから飛びかかってきた男が工具で装甲を叩く、外骨格には傷一つつかない。剪定者で襲撃者の胴体を両断する。会議室の机や椅子でバリケードを作っていた抵抗勢力を耕す者で防衛壕ごと吹き飛ばす。
熟しすぎたトマトでも踏み潰したように撒き散らされる人体。一方的な虐殺。
先程のような奇襲はない。高価な大口径狙撃ライフルも、光学迷彩もあれ一つだったのだろう。
「こちら06。1F西で人質12名を確保」
「こちら02。2F会議室で人質9名を確保」
淡々と花壇についた虫を処理するように過激派を片付けていると、仲間たちから捕虜を見つけたという報告が上がってくる。
「こちら01。安全が確保されたエリアはあるか。過激派が連れていた人質を一箇所にまとめたい」
「こちら04。一階大ホールが適切と推測される」
04の位置と講堂の地図を確認。
どうやら一階大ホールが、建築物の中心点になっているようだ。十分なスペースがあり見晴らしのいい作りなので、非戦闘員を集めておくには適切だろう。
「了解。各員は抵抗勢力を排除しつつ、人質を所定の位置に送れ。04は大ホールにて人質を保護しつつ待機。事情聴取が行われるだろうから、勝手に外部に出ないように見張っておけ」
「了解」
命令を受領する隊員たち。
作戦が終わりに近づきつつあることを感じ取り、背後に張り付いた弾薬をチェックする。以前の戦闘から補給を受けていないが、まだ12%も残弾が残っている。
抵抗も散発的になってきたので、これが一割を切ることはないだろう。
そして、俺は正面にたった勇敢で愚かで、すぐ天に召すことになる集団に片手をあげる。
彼我の距離は32メートル。
その距離を銃弾の形をした死神は刹那よりも早く駆け抜けた。
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