結末
過激派によって拘束された人質の数は284人だった。
座り込んだ人質たちは一様にうつむき、顔を確認できるものは少ない。
無理もない。二メートルを越える巨人が顔に紫色の鬼火を燃やして自分たちを見下ろしているのだ。かりにガルムへの知識があったとしても、過激派への一方的な虐殺を目の当たりにしたのだから尋常ではない恐怖だろう。
「これで全部か」
「施設内の全制圧エリアにいた捕虜は確保済です。抵抗勢力も全て処理しました」
その言葉に肩の力が抜ける。憂鬱な仕事は終わったらしい。これでやっと07を弔うことができる。
「こちら陸軍第六師団所属機甲化大隊のメルヴィン大尉。作戦の終了を報告する」
無線封鎖を解除し、上空で待機しているはずの無人機を通じて作戦本部に状況終了を告げる。
これで晴れて休暇が取れるだろう。
《認められない。施設内にはまだ熱源が複数確認できる。全て排除せよ》
しかし返答は冷たい機械音声だった。
「何を言っている。敵勢力は全て排除した。熱源スキャンを行え」
「否定。まだ施設内には複数の過激派と断定できる熱源が確認できる。作戦を継続せよ」
神経が苛立つのが分かった。また薬が口にねじ込まれ、それを吐き出しながら無知蒙昧な作戦本部に言葉を放つ。
その雰囲気が身をかがめた人質たちを更に怯えさせたが、彼らを解放するには早く作戦完了を認めさせるしかない。
「作戦は終わった。証拠となるデータは送信したはずだ。確認しろ」
「否定。まだ施設内には過激派が284名残っている。速やかに排除せよ」
耳を疑った。作戦本部はこの怯える人質を過激派と断定しているのだ。
「彼らは過激派ではない。人質になった自国民だ。武装もしていない、ただ巻き込まれただけだ」
「否定。彼らは過激派である。速やかに排除せよ」
淡々とした機械音声に怒りが湧く。不愉快な薬を吐き出し、イカれた理論を展開する作戦本部に怒鳴りつけようと唇を開く。
そのとき、ガルムの腕が上がった。
腕を上げようとしたのではない。まるで見えない糸で釣り上げられたように、勝手に腕が持ち上がったのだ。
「ガルム部隊カイロ中隊のコントロール権を自動治安維持システム《EAGLE》に移譲。アイ・ハブ・コントール」
「待て、何をするつもりだ!」
他の仲間のガルム達の腕が持ち上がる。その射線状には、身を寄せ合って震える人質の姿がある。
「ああああ、ああああっっっっっ!!」
そして見た。
人質の中からこちらを見つめる自分の妻子の姿を。
戦場に向かう前、どこかの施設で娘と二人で演劇を見ると言っていた最愛の家族が人質になっていたのだ。その演劇の場所がここだったのだ。
「え、その声」
彼女の言葉は轟音とともに掻き消えた。
七つの左腕が砲火を放ち、命と、秩序と、俺の絶叫を掻き消す。
妻と娘だったものが、赤く削られ跡形もなく消え去った。
軍の猟犬であるガルムは、搭乗者を無視して死を振りまき、床板と人間を共にミキサーにかけていく。
その光景が永遠のように網膜に焼き付く。目を閉じることすらできない。
全てが終わるまで五秒も掛からなかった。
煙のごとく立ち上るコンクリートの砂塵の中には、もう人の姿などなかった。
声が出ない。感情がグチャグチャになり、自動的に感情抑制剤が口の中にねじ込まれる。
《任務完了を確認。ガルムの操作権を返還する。作戦本部がヘリを降下させる。カイロ中隊は撤退せよ》
その言葉を聞きながら、俺はゴクリと感情抑制薬を飲み下す。
即座に荒れ狂っていた感情の波が引いていき、ガルムの腕が自由を取り戻す。
そして、俺はその腕を喉に密着させ、引き金とともに自らの頭蓋を咲かせた。
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作戦記録
2049年 8月 11日
■■■州 ■■■■■■市にてテロリストグループ《赤い爪痕》による民間施設占拠事件が発生。
同日、陸軍の自動治安維持システム《EAGLE》に指揮下■■■■■による鎮圧作戦が決行。
テロリストグループ411名の完全な無力化に成功。
損害報告
メルヴィン・ロッツ 中尉 死亡
ミシェル・ピースパーク 准尉 死亡
ヒロインを出したほうがいいと言われたのでヒロインを出しました。
これにて短編は完結です。
トンデモ兵器を書けて満足です。




