第五話:エッフェル塔から舞い降りる手紙
#カタワレ時の手紙 #なろう悲恋 #涙腺崩壊 #エドとあかり #諏訪湖 #君の名は聖地 #泣ける小説 #感動の結末
翌日、夕暮れの『カタワレ時』の空に、再び太陽が静かに浮かんでいた。凍てついた諏訪湖の上で、薄紫と濃いオレンジの色彩が見事なグラデーションを描いて混ざり合っている。私はあの長い滑り台――『ロングスライダー』の終着点のすぐ脇に立っていた。冬の冷たい強風は相変わらず骨の奥まで突き刺さる。しかし、遥か彼方から小さなシルエットが猛スピードでこちらに走ってくるのが見えた瞬間、その寒さは一風にして消え去った。
あかりだった。その愛らしい顔はひどく緊張で強張っている。大きくて丸い二つの瞳が、溢れんばかりの期待を込めて私を見つめていた。
「エドお兄ちゃん!」彼女は息を弾ませながら叫んだ。「フワちゃんから……フワちゃんから、何かお便りあった?」
私は温かい微笑みを浮かべ、厚手のジャケットのポケットに手を差し入れた。そして、昨夜のうちにそれらしく丁寧に飾り付けをしておいた、少し色褪せた薄茶色の封筒を一つ取り出した。「もちろんあったよ。今朝早くに、国際航空郵便がこれを私に届けてくれたんだ」
あかりの瞳が、パッと目に見えて輝いた。彼女は興奮でガタガタと震える手で封筒を開けた。その中には、丁寧な日本語の書き文字が並んだ一枚の便箋が入っている。当然、それは私が昨夜、一文字ずつ細心の注意を払って書き上げた私の直筆だった。
私は掠れる声を優しく整え、彼女のためにその手紙の言葉を読み聞かせた。
【旅するフワちゃんより】
世界で一番優しいあかりちゃんへ。
フランスのパリから、こんにちは! 昨日の夕方、長い滑り台のそばから急にいなくなっちゃってごめんね。あかりちゃんを悲しませたり、泣かせたりするつもりじゃなかったんだ。
今ね、私は小さなカフェの椅子に座って、とっても高くて綺麗なエッフェル塔を見つめているよ。ここは諏訪と同じくらいすごく寒いけれど、街の人たちはみんな親切です。さっき、とっても甘いクロワッサンを食べたんだ。あかりちゃんとも一緒に食べられたらよかったのにな。
お願いだから、もう泣かないって約束してね? あかりちゃんの宝物みたいな涙は、こぼしてしまうには美しすぎるから。あかりちゃんが諏訪湖のほとりで笑ってくれるたびに、その温かい風がパリまで届いて、私の心をぽかぽかにしてくれるんだよ。私はこれから、もっともっと素敵な別の場所へ向けて旅を続けます。
次の手紙を待っていてね!
いっぱいの愛を込めて、フワちゃんより。
手紙を読み終えた瞬間、あかりの目から一筋の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。しかし今度の涙は、心が壊れてしまうような絶望の涙ではなかった。それは、胸の奥底から込み上げた安堵の涙だった。彼女の無垢な顔に、これ以上ないほど愛らしい、弾けるような喜びの笑顔がようやく咲いたのだ。
「フワちゃん……本当にパリにいるんだ」 あかりはその手紙を胸の奥できつく抱きしめながら、愛おしそうに呟いた。「迷子になったんじゃないんだ。ただ、お散歩(旅)をしてるだけなんだね」
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凍てつく1月の日々は、恐ろしいほどのスピードで過ぎ去っていった。UGMの休暇のおかげで、私は諏訪の街で完全に自由な時間を過ごすことができていた。そして毎日の夕方、私の世界の中心はただ一つのことだけに定まっていた。――それは、『フワちゃんからの嘘の手紙』を書くことだ。
私は自らの想像力と文学の知識のすべてを絞り出し、10歳の少女の心を虜にするような小さな大冒険のストーリーを毎晩紡いだ。最初の週、フワちゃんは黄金の砂漠に囲まれたエジプトの壮大なピラミッドの美しさについて語った。その次の週には、世界のどこか別の国で一足早く咲き誇る見事な桜の景色や、私の母国であるインドネシアの美しいボロブドゥール寺院の急な階段を登った冒険譚を綴った。
毎日の夕方、立石公園であかりは目をキラキラと輝かせながら、いつも私を待っていた。自分の大切な人形が幸福に満ちた旅をしているのだと信じ切ることで、彼女の心は完全に落ち着きを取り戻し、その日常は再び無邪気な喜びで満たされていった。遠くからいつも付き添っていた彼女のお母様は、わざわざ私の元へ歩み寄り、娘の心の傷を癒やしてくれた私の無償の優しさに対して、目に涙を浮かべながら何度も深い感謝を述べてくださった。
冷たい白雪の間で、再び響き渡るようになったあかりの無邪気な笑い声を聴きながら、彼女が帰ったあと、私はよく一人で薄暗くなりゆく諏訪湖のほとりに立ち尽くして深く思索に耽った。私の頭の中の哲学的な声が、また静かに囁くのだ。
『人間は往々にして、過酷な真実を突きつけることだけが、喪失に対する唯一の特効薬だと思い込んでいる。何かが消え去ってしまったという現実を、私たちは小さな子どもにまで強引に受け入れさせようとする。その現実の刃が、子どもの脆い心にとってあまりにも鋭利すぎるということに気づきもしないで。
しかし私に言わせれば、本物の愛というものは、いつでも融通の利かない現実を冷酷に要求するだけのものではない。時に、豊かな想像力によって紡がれた物語――純粋なまでの誠実さによって編み上げられた優しい嘘は、一人の人間の魂を絶望の深淵から救い出す確かな架け橋になり得るのだ。私はあかりを欺いているのではない。私は彼女に、人生における最も深遠なレッスンを教えているのだ。――すなわち、愛の本質は、肉体的な存在の有無に縛られるものではないということ。たとえ空間が私たちを愛するものから引き裂こうとも、私たちがただ「信じる」ことを選び続ける限り、その想いは永遠に枯れることはなく、海を越えて互いの胸に響き続けるのだ。』
私は、夕闇に溶け込んでいく湖面の『御神渡り』の亀裂を見つめながら、静かに微笑んだ。偽りの手紙たちは、喪失の痛みを美しい希望の物語へと見事に昇華させていた。しかし、私は分かっている。フワちゃんの旅は、いつか一つの「帰還(終わり)」を迎えなければならないということを。そして私は、あかりの未来にとって最も意味のある形で、このイマジネーションの物語の最終章を設計する準備を始めなければならなかった。
第五話をお読みいただき、本当にありがとうございました。
エッフェル塔やピラミッドといった世界中の美しい景色を舞台に、あかりの笑顔のために毎晩手紙を書き続けたエド。現実の残酷さから少女の心を守るために彼が語った、愛と信頼に関する深い哲学は、読者の皆様の心にも温かな余韻を残したのではないでしょうか。
次回、第六話。
1月の楽しい休暇はいよいよ終わりの時を迎え、エドはインドネシアのジョグジャカルタへと帰国しなければなりません。この大冒険に一つの終止符を打つため、エドはあるおもちゃ屋で、フワちゃんの「新しい旅の成果」として一匹の茶色いクマのぬいぐるみを買い求めます。そして彼が用意した、大人になるまで決して開けてはならない『二通の秘密の手紙』とは――。
物語はいよいよ、切なくも美しい感動のクライマックス(完結)へと向かいます。アカリが18歳の高校生になった未来のシーンとともに、時を超えて明かされる本当の奇跡の結末を、どうぞ最後まで見届けてください。
続きの最終章が気になった方は、ぜひ【次の話へ】お進みください。皆様のブックマークへのご登録や評価(★★★★★)が、物語を永遠にする最大の力になります!




