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第三話:引き裂かれた黄昏と、滑り台の終着点に響く泣き声

#カタワレ時の手紙 #なろう悲恋 #涙腺崩壊 #エドとあかり #諏訪湖 #君の名は聖地 #泣ける小説 #感動の結末

諏訪湖を遥か下に見下ろす丘の坂道を登るにつれ、私の足取りは一段と重くなっていった。しかし、立石公園に一歩足を踏いれた瞬間、その疲労は一風にして消え去った。夕暮れの時刻が訪れていた。冬の極めて澄み切った大気は、その日の夕日の奇跡を驚くほど鮮明に描き出していた。


諏訪湖の上の空が、ゆっくりとその色彩を変えていく。濃いブルーから、オレンジ、ピンク、そして薄紫へと移り変わる幻想的なグラデーションが、魔法のように渦巻いていた。アニメ『君の名は。』のなかで、夕方から夜へと移り変わるこのトワイライトタイムは『カタワレ時』と呼ばれている。現実の世界と超自然的な世界との境界が、うつつのなかに溶けて曖昧になってしまう時間。そして今、私はその人知を超えた美しさを、立石公園の高台からリアルに目撃していた。


私は深く息を吸い込み、この静寂をもう少し長く堪能しようとした。しかし、その黄昏の平穏は、突如として響き渡ったあまりにも切ない声によって引き裂かれた。


それは、小さな子どもの泣き声だった。雪に覆われた静まり返る丘の真ん中で、ひどく儚く、声を詰まらせて泣きじゃくる声。


私は周囲を見回し、声の主を探した。視線が止まったのは、公園の丘を切り裂くように設置された一本の長い滑り台――『ロングスライダー』だった。その冷え切った滑り台の終着点のすぐ脇に、一人の小さな女の子が雪の上にぽつんと座り込んでいた。


防寒用の厚手のジャケットを着ていたが、その小さな身体は激しい鳴きじゃくりのせいで絶え間なく震えていた。ひどく愛らしくて愛おしい顔を伏せ、冷たい白雪を虚ろに見つめている。両手の小さな指は、まるで世界で一番大切な心の拠り所を失ってしまったかのように、からっぽの空間をきつく握りしめていた。


どくん。


これほど小さな子どもが、これほど絶望的に泣きじゃくる声を聴いた瞬間、私の胸の奥が突如として激しく痛んだ。まるでみゾおちを鋭く刃物で刺されたかのような感覚だった。昔から、私は小さな子どもがたまらなく愛おしかった。私にとって、子どもはこの地球上で最も純粋な存在であり、世界の残酷さに傷つけられてはならない聖域なのだ。こんな極寒の冬の真ん中で、声を詰まらせて泣いている姿を見るだけで、私の胸は苦しさで張り裂けそうになった。


気づけば、私自身の目にも熱い涙がじんわりと溜まっていた。深い共感の海に沈むように、視界が涙で潤んでいく。失われてしまった自分の幼少期への郷愁と、目の前の小さな命を何としてでも守りたいという衝動が、心の内で激しく混ざり合った。


私は足音を立てないようにゆっくりと近づき、彼女と視線の高さを合わせるために雪の上に両膝を突いた。怖がらせたくはなかった。


「大丈夫?」

私は自らの声の底からできる限りの温もりを伝えるように、きわめて優しい声で話しかけた。


小さな女の子が、ゆっくりと顔を上げた。漫画のキャラクターのように大きくて丸い瞳は、涙のせいでひどく赤く腫れ上がっていた。冷たい空気のせいで赤くなった頬を、大粒の涙がとめどなく伝い落ちていく。


「フワちゃん……フワちゃんが、いないの……」

途切れ途切れの、激しい咽び泣きの隙間から、彼女はぽつりと呟いた。


彼女の話によれば、お気に入りのリカちゃん人形の「フワちゃん」が、この公園のどこかで迷子になってしまったのだという。文学や文化を深く学ぶ身として、1967年に誕生したお洒落なリカちゃん人形が、日本においていかに伝説的な存在であるかはよく知っていた。日本の小さな女の子にとって、あの大きくて丸い目をしたお人形は単なるプラスチックの玩具ではない。共に人生を歩む、かけがえのない友なのだ。この小さな少女が感じている喪失の重さは、大人が自らの家を失ったときの絶望と何ら変わりはなかった。


「お名前は、なんていうの?」

自分の目もまだ濡れたままだというのに、私はできる限り安心させるような微笑みを浮かべて尋ねた。


「あかり……コトハ、あかり……」

彼女は、モコモコとした厚手の可愛い手袋で涙を拭いながら答えた。


「あかりちゃん」私は彼女の無垢な瞳をじっと見つめた。「私の名前はエド。もう泣かないで。あかりちゃんが泣くと、この美しいカタワレ時の空まで悲しくなってしまうから」


私は立ち上がり、彼女に向かってそっと右手を差し出した。「さあ、エドお兄ちゃんが一緒にフワちゃんを一生懸命探してあげる。見つかるまで、一緒に探そう」


立石公園の丘に夜の帳が静かに降り始め、空に残されたわずかな薄紫の色彩を塗りつぶしていく。冷え切った長い滑り台の脇で、私はひとつの、子どもじみているけれど、同時にこの上なく神聖なミッションに身を投じることを決めていた。――それは、胸を痛めて傷ついたあかりの、あの愛らしい顔に再び笑顔を取り戻すというミッションだった。

第三話をお読みいただき、本当にありがとうございました。


カタワレ時の幻想的な美しさのなかで、ついに交わされたエドとあかりの運命的な出会い。泣きじゃくるあかりの姿に胸を痛め、自らの目にも涙を浮かべるエドの圧倒的な優しさは、極寒の信州の丘に確かな温もりをもたらしました。


次回、第四話。

二人は暗くなりゆく公園の中を、必死になってフワちゃんを探し回ります。しかし、冷たい雪が積もる広い敷地の中で、小さな人形は一向に見つかりません。再び絶望の涙を流しそうになるあかりを前にして、エドの脳裏にある「文学者としての、そして一人の人間としての決意」がひらめきます。

現実の残酷さに立ち向かうため、エドが紡ぎ出そうとする『世界で一番美しい嘘』とは――。


ここから物語は、二人の心を繋ぐ感動の展開へと加速していきます。エドが優しく語る、愛と人生に関する切ない哲学の言葉を、ぜひ次回もお楽しみください。

この優しい嘘の始まりを見届けたいと思ってくださった方は、ぜひ【次の話へ】お進みください。皆様のブックマークへのご登録や評価(★★★★★)が、何よりの励みになります!

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