第二話:凍てつく青の広がりに刻まれた、神々の足跡
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真冬の極致へ、ようこそ。上諏訪駅の一歩外へ踏み出した瞬間、1月の空気が容赦なく私に襲いかかった。このあたりの気温は、時にマイナス10度以下まで急降下する。息を吐き出すたびに、分厚い白煙が宙に立ち上り、骨まで突き刺すような冷たい強風にかき消されていく。しかし、肌を打ち据えるこの極寒も、私の胸を満たす圧倒的な感動をいささかも冷ますことはできなかった。
私は歩いて諏訪湖のほとりへと向かった。目の前に広がる光景に、私は完全に息を呑んだ。果てしなく広がる湖の全域が完全に凍りつき、白みがかった青い巨氷の絨毯へと姿を変えていたのだ。長野県の冬の空気は不純物がなく澄み切っているため、湖の上の空はどこまでも高く、どこまでも青い。その鮮やかなコントラストのなか、周囲を囲む雪化粧をまとった山々の稜線が、驚くほど鋭く、壮大に、そして恐ろしいほど美しくそびえ立っていた。
湖の真ん中に、私がずっと待ち焦がれていた自然の奇跡が目を捉えた。――『御神渡り(おみわたり)』だ。
昼間の烈日と、夜間の凍てつく静寂との激しい寒暖差により、凍りついた氷面が途方もない圧力を受ける。氷は悲鳴を上げるように裂け、自然の力だけで上へとせり上がり、高さ30センチから1メートルに及ぶ小さな氷の畝となって、湖を真っ二つに切り裂きながら連なっていた。
日本文学を学ぶ身として、この詩的にひび割れた氷の連なりを見つめていると、胸の奥が深い畏敬の念で激しく震えた。地元の神道信仰において、この現象は「神の渡航」を意味する『御神渡り』と呼ばれる。伝説によれば、この亀裂は諏訪大社の神である建御名方神が、対岸の社にいる妻の八坂刀売神に逢いに行くために、分厚い氷の上を歩いた足跡なのだという。
私は凍てついた湖のほとりに立ち尽くし、ただその神話の情景をじっと見つめていた。
神々でさえ、ただ一度の逢瀬のために、冷酷な氷の海を叩き割らなければならないのだ、と私は心の中で思った。人間の生もまた、それと同じではないだろうか。時に運命は、私たちの平穏な日を容赦なく引き裂き、ひび割れや痛みを創り出す。それはひとえに、私たちが心から愛するものへと歩んでいくための「道」を切り拓くためなのだ。
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湖の縁をさらに歩き進めると、冬ならではの極めて独特な光景が目に入った。遥か彼方、完全に凍りついていない水域に、ドーム型の特殊な船がいくつも並んでいる。暖房設備が整ったその船の中で、地元の人々が冬の風物詩である『ワカサギ』釣りを心ゆくまで楽しんでいた。外では冬の嵐が猛り狂っているというのに、彼らは温かなドームの中でぬくぬくと糸を垂らしている。人間と大自然が織りなす、実に見事な調和のスケッチだった。
2時間近く歩き続け、寒さのあまり指先の感覚がすっかりなくなってしまったため、私は一度休息をとることにした。湖畔の街、上諏訪のいたるところに湧き出る天然温泉の一つに足を運ぶ。
温泉の温かな湯船に身体をゆっくりとしずめていくと、長旅の疲労も、骨まで凍てつかせた寒さも、湯気とともに綺麗に消え去っていった。私は目を閉じ、全身の血管にじんわりと染み渡る温もりをただ享受した。
茹だるように暑いジョグジャカルタや、喧騒に満ちたブルクスムルのキャンパスが、今は遥か遠くの出来事のように感じられる。しかし、この静寂と氷の閉ざされた世界のなかで、私の人生は、修士論文の草稿には一文字も書き残していない、まったく新しいページを開く準備をしているような不思議な予感がしていた。
私は目を開け、外の窓を見た。夕日がゆっくりと傾き始めている。時間が来た。私は急いで、湖のさらに高台にある立石公園へと向かわなければならない。今夜、私はあの伝説的な『カタワレ時』の色彩を捕まえに行くのだ。
第二話をお読みいただき、本当にありがとうございました。
極寒の諏訪湖に降り立ち、神々の足跡である『御神渡り』の神秘に触れたエド。凍てつく自然のなかに人間の生き方の真理を見出す彼の哲学的な視線は、異国の地でも深く冴え渡っています。温泉の温もりで体力を取り戻した彼は、いよいよこの旅の本番である、あの黄昏の丘へと向かいます。
次回、第三話。舞台は夕暮れの立石公園へ。世界の境界が曖昧になる『カタワレ時』、美しく赤紫に染まる空の下で、エドの耳に一瞬にして胸を締め付けるような切ない泣き声が飛び込んできます。公園の長い滑り台の終着点、雪の上に一人座り込んで激しく泣きじゃくる10歳の少女、あかり。彼女との運命的な出会いが、エドの人生に最も美しいイマジネーションの奇跡をもたらすことになります。
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