9 間取り図と実物
この日内覧に行ったのは、
いつも物件をたくさん紹介してくれる
あの熱心な不動産屋さんから
強く勧められた物件でした。
希望の駅ではありませんでしたが、
重要路線に数駅で出られ、
価格、間取りともに希望を満たしてはいたため
とりあえず見ることにしたのです。
詳しく物件内容を確認してみると
そこはいわゆる”違法物件”でした。
建蔽率が完全にオーバーしているのです。
違法と言っても別に、
裏社会で行われているようなダークなタイプではなく、
かつての建築法がゆるゆるな時代に、
”後から勝手に増築しちゃったテヘペロ☆”的なものです。
行政に見つかった注意される、と言われますが
不動産屋さんに聞いても
「注意されたって話は聞いた事ありませんねえ」
とおっしゃっていました。
住宅に関する法律についてですが、
建物にはさまざまな規制があります。
用途制限、接道義務、高さ・日照に関するもの、
そして建蔽率と容積率。
まずは用途制限ですが建物の種類です。
一番制限が厳しいのは工業専用地域です。
ここには住宅だけでなく、
図書館や学校も立ててはいけません。
ものづくりに集中してください、ということではなく
やはり危険が伴う可能性を含んでいるからだと思われます。
大学や病院が建てられるのは
先ほどの工業系と低層地域以外です。
それらを建てたい、という野望の持ち主は気を付けましょう。
なお、駅前や大通り沿いといった”防火地域”に建てる場合、
窓や建具を対応のものにしなくてはなりません。
大火事が起きた時に連焼しないためです。
そのため建築費が割高になりますが
防災の意味ではメリットといえなくもないです。
次に接道義務です。
これは建物を建てる際、その敷地が
公道、私道に関わらず幅4メートル以上の道路に
2メートル以上接していなければならないという決まりです。
しかし幅が4mなくても、2項道路(みなし道路)として
建てることが可能な場合も多々あります。
その道路に面する各家に”セットバック”と呼ばれる、
自分の土地を提供する義務が生じるのです。
つまり”将来建て替える時はみんな道から後退して
この道路を4m幅にしていこうぜ”という約束を
みんなで結ぶ感じです。
とても気が長いお話と思われますが、
都市計画でみれば案外あっという間です。
そして建蔽率と容積率。
建蔽率はこの土地の〇%の面積に、
家を建てて良いよ、という割合です。
50%の場合、20坪の土地なら、
家を建てられる面積は10坪。
後は庭や駐車場になります。
容積率はこの土地の〇%の広さ(敷地面積)の建物を
建てて良いですよ、という割合です。
160%の場合、20坪の土地なら敷地面積は32坪ぶん。
とはいえ、一階は建蔽率を考慮しますので
建蔽率が60%であれば、一階に建てられるのは12坪ぶん、
二階、または三階で残りの20坪ぶんを使うことになります。
これらは区域によって細かく定められており
そのエリアをまたがって建てられた物件は、
「ここまでは高さが〇mだけど、ここからはダメ」
といったふうにキメラ状態になります。
たまに見かける不思議な形状をした屋根の家は
もしかすると区域をまたがって建っているのかもしれません。
「自分の土地なんだから好きに建てさせろや!」
と思うかもしれませんが、
それらが設定されているのには理由があります。
建蔽率は隣家との間に一定の空間を設けることで、
火災の延焼を防ぎ、風通しや日当たりを確保するためです。
容積率は地域の人口密度をコントロールし、
道路や上下水道などのインフラのキャパシティを
超えないようにするためです。
これがないと、狭い敷地に60階建てのマンションを建て
暴利をむさぼろうという輩が出てきた際、
その周辺道路は常に混雑し、電気、水道の使用も過集中
近隣住民の迷惑は半端ないでしょう。
これらは国が定めた基本ルールに基づき、
各土地がある市区町村などの地方自治体が都市計画で決めています。
古くからの住宅街は高さ制限も建蔽率も低い代わりに
日当たりや風通しが良い街並みが広がっています。
駅近など商業・防火地域、そして耐火建築物であれば
100%というポンジュースのような建蔽率も可能です。
時おりピッタリとくっつくようにして立っているビル、
あれはそれを実行した強者どもです。
住宅街はたいてい60%くらいで、
お隣さんと間隔が開きますが、それ以外にも
”隣家との境界線から50センチメートル以上離す”
という民法も存在します。
しかしこれは”前からこの辺はみんなピッタリ建ててた”
という古くからの慣習(京都の町屋とか)や
”お隣さんと相談して、お互い気にしないって決めた”
という双方同意によって、無効にする事が可能な決まりです。
しかし上記条件を満たしてないのであれば、
50cmあけて立てなくてはなりません。
都心や市街地はそのようにピリピリしておりますが
大富豪、もしくは夫の実家のように
回覧板を自転車に乗って渡しに行く地域の方は
何を言ってるのかわからない話かもしれません。
その日見に行った物件は住宅密集地だったので
それはもう立派な建蔽率オーバー物件でした。
私道の突き当りに建ち、
三階建てでルーフバルコニーもありました。
息子は”ルーフバルコニーさえあれば自分の部屋も要らない”、
というくらい欲しがっていたので
それ目当てでもあったのですが。
売りに出て結構経っており
価格も何度か下げられていた理由が
中に入って納得しました。
”昔オシャレだったけど今はだらしない中年”。
そんなイメージを放つ物件だったのです。
まず、タバコ臭い。ヤニで壁が茶色いだけでなく
建具などにも染みついており
簡単なリフォームで
なんとか出来るレベルではありませんでした。
そしてこだわって建てたのがマイナスに出ており
通路や階段が狭く、妙にデコボコしており
歩きづらい上、家具が置きにくいのです。
肝心のルーフバルコニーまでもが
なんだか壁が平らではなくガタガタしており
”広々~”というよりも”でこぼこ~”という感想でした。
間取り図では天井から飛び出た梁や
幅の狭さは読み取れません。
(縮尺も窓の位置も適当なので)
結局、不動産会社の人は最後まで推してきましたが
私たちは丁寧に、それでいてキッパリと
辞退させていただきました。
間取り図は見るだけでなんだかワクワクします。
変わった間取りも豪邸の間取りも楽しめます。
しかし実際、新居探しとしての間取り図は
実際の建物とは全然違う印象を受ける場合もあり
ガッカリすることのほうが多いのが現実です。
現時点でかなりの数の物件を見ましたが、
”思ったのと違う”はあっても
”思ったより良いね!”は一軒だけでした。
やはり何に対しても期待しすぎないのは、
生きていく上で重要な心構えなのかもしれません。




