22 条件だけでは決まらない
私は引っ越しに合わせて
現在の仕事を退職することに決めていました。
今はやや市街地から離れて住んでいるため
他の家族は転居によって、
会社や学校が間違いなく近くなります。
しかし私だけは家からとても近い勤務先だったため
通うのが難しく、また引っ越しの準備もあるため
(残業もある忙しい仕事で働きながらでは絶対に出来ない)
転職することにしたのです。
それまで多忙だったこともあり
有給は一か月分以上溜まっていました。
また会社的に退職時まとめて取ることは許されていたので
これを準備期間にあてることができました。
”さっさと物件を決めて引っ越し、
有給消化期間に新居の片づけをしよう。
そして同時に新たな仕事も探しておかないと。”
……そんなことを考えていた時が、
私にもありました。
新しい住所が確定しなければ
予約や再就職も難しいため、
全てが停止してしまうというのに。
明渡日まで三カ月。
以前も書きましたが、
時間はあるようで、全然ありません。
たとえ”ここだ!”という物件が見つかり
内覧で気に入ったら買付書を提出。
ローンの仮審査を通ったら本審査へ。
だいたいその過程だけで一か月はかかります。
さらに銀行が融資(お金を出す)のはその先です。
そして契約後(支払った後)でなくては、
リフォーム工事を開始することはできません。
しかも戦争による資材不足などの理由により、
リフォーム工期に遅れが生じているとのこと。
全室や廊下の壁紙、床を全て交換し、
ユニットバス、キッチン、トイレの交換をする場合は
最低でも2か月はかかるとのことでした。
リフォーム期間を計算に入れるなら、
絶対に今月中に決めなくてはならないはずでした。
もしくは新築も視野に入れなくてはなりません。
そんな中、お馴染みの不動産屋さんが
新たな物件を紹介してくれました。
超メジャー路線の駅から徒歩10分で3LDK。
旗竿地で奥まったところに建っているけど、
隣家との間隔もそれなりに空いているため
”押し込められて建っている”感じはありませんでした。
他に欠点をあげるなら、
やや半地下になっており大雨の日が心配な事、
駅までの道のりに少々起伏があり
坂が多いこと、くらいでしょうか。
”中肉中背、ごく平均的な外見の人”。
世間話もそつなくこなし、
愛想が良いわけでも悪いわけでもない。
ごく”普通”という言葉がピッタリの物件でした。
うちはとても地味な夫婦なので、
目立ったものは苦手ですし、
”合理的なのが一番”、という性質です。
それなのに。
「条件は全部、満たしていますよね?
駅としても価格的にもすごくお勧めですよ」
不動産会社の方は、そう嬉しそうにおっしゃいました。
しかし、いまいち私たち夫婦は
気持ちが乗りきらないでいたのです。
確かに条件はあっているのに、
何故か踏み切れない。
「はい、ここにします」
という言葉が出てこないのです。
毎回毎回、”実物が良ければ決めるぞ”、
という気持ちで内覧を申し込むのですが
間取りがサイトにあったものとは違うこともあるし
周辺環境などを含めると
どうしても決断できないまま過ごしてきました。
ほとんど毎回、”思ってたのと違う”といった思いで
内覧から帰宅していたのです。
それは建物が古かったとか汚かったとかではなく
構造的な欠点や周辺状況において
”現地に行ってみて分かること”で
断念せざるを得ませんでしたが。
しかし今回は違いました。
とりあえず条件は満たしているのです。
”日照の悪い旗竿地”というのはもちろん、
”起伏が多い場所である”、というのは、
高齢になってから住みづらいといわれるため
確実にマイナスポイントではありますが、
全てにおいて100点の物件はあり得ません。
何かを妥協するのは仕方のないことでしょう。
でも、この物件に決められないのは何故か。
私は思いました。
どれかを、何かを、誰かを選ぶのは
表面的な”条件”だけではないんだなあ、と。
”嫌い”が無くても”好き”が無ければ決められない。
欠点がない、というより
チャームポイントというか、
何か一つでも”ここが好き!”というトリガー、
それが必要になって来るのです。
いやいや、家なんて住めれば良いでしょ。
そうも思いましたが、
この場合の”好き”や”嫌い”は
単なる感想や趣味の問題ではなく
”住宅としての美点・欠点”なのです。
”好き”は快適に住めそうかどうか、
”嫌い”は今の状況よりも不便になるかどうか。
最低条件は満たしているけど
この家で居心地よく暮らしている
ビジョンが見えなかったのです。
ここは数日悩み、検討を重ねました。
しかし結局、”こんなに悩むのなら違うのだろう”と
ここに決めることはできませんでした。
そして不動産会社の方にも申し訳ないので、
条件というものについて再び見直すことにしました。
それにしても、どんな家でも言えることは
”実物を見てみなくてはわからない”
ということです。
そのため内覧というのはとても大事です。
友人は自宅を決める時、
旦那さんに連れられて嫌々行ったのに、
行ってみたら思ったより良い家で
(うちとは逆ですね)
大変気に入って即日購入を決めていました。
同時に”過剰な期待しないで見る”、
というのも大事かもしれません。
私たちは毎回、時間制限もあって本気過ぎて
”ここか?! ここなのか?!”
という期待と不安を混ぜたような状態で見ていましたが
”ヒマなんで、ちょっと寄って見ました~”
くらいのテンションのほうが
物件に対してフラットにみることができたかもしれません。
しかし私たちは結局その後も
「ちゃんと見なくては売主さんにも
不動産会社さんにも申し訳ないし
熟慮しなくては将来後悔してしまう」
という考えのまま
”一期一会の真剣勝負”を繰り返し続け、
結果、惨敗を重ねることになるのでした。




