20 不動産の値引き交渉
夫が新たにブックマークしたのは、
今までとは一風変わった”面白い”物件でした。
エリアとしても、今まで探していた第一希望の町でも、
より交通利便性の良い第二希望の町でもありません。
その物件Nの駅は古い下町の雰囲気を持ちながら
新幹線すら止まるような超巨大ターミナル駅へ
わずか数駅で行けるような場所でした。
「なんか、ビルみたいだね」
私は現地で、その物件を見上げながら思わずつぶやきました。
4階建てですが、接道が3.7mくらいしかなく
狭く細長い箱型の形状をしていたのです。
一階はほぼ駐車場と部屋が、
二階はLDK,三階は2部屋、
そして4階には1部屋とベランダがありました。
どの部屋も通常より小さめに作られており
家の中を階段で上下で行き来することになるため
年を取ってからここに住むのは難しそうです。
しかも付近には大きな川が流れていて
それはもう思いっきり”ハザード地帯”なのです。
でもこの物件の担当者いわく
「この辺りに住んでる人で、
ハザードを気にされている方はいませんよ」
とのことでした。
確かに”この辺りが浸水した”という
ニュースを耳にしたことはありませんが。
とはいえ、私たち夫婦の条件を
いろんな面で外れているこの物件ですが
なんとも抗いがたい魅力があったのです。
それは”唯一無二の個性”というものでした。
最近の建売住宅はとても良く出来ていて
狭い敷地を合理的に使えるように
3LDKの間取りが作られているのですが
そのせいか、判で押したように
似たような間取り、
似たような外見になってしまうのです。
この物件Nは、
”小綺麗に整えられ礼儀正しい優等生”
を見慣れた私たちの前に現れた、
”背がひょろっと高くて飄々とした、
マイペースな自由人”だったのです。
しかも築30年近く経っているため
見た目も中身もそれはもう古くて、
間取りも手を加えないと住めない、と思われました。
さらに一部、違法に改築しているところがあり、
ローン審査は厳しいだろう、と担当者にも告げられました。
なんとか現自宅の売却益のみで買える金額だったので、
そこはなんとかなりそうだけど、
問題は恐ろしくかかるであろうリフォーム代です。
この”すっごくクセはあるけど面白い”タイプは
人でも建物でも嫌いではなかった私たちは
いったん持ち帰って考える事にしました。
帰宅して、必死にリフォーム計画を書き出しました。
床、壁、天井はもちろんはり直し。
建具も交換、収納も撤去もしくは交換。
何より壁をいくつかぶち抜く必要があり、
もちろん全ての水回りは交換しなくてはなりません。
算出された金額は、
”新築そっくりさん”などを利用した場合と
ほぼ変わらない価格となってしまいました。
なんせ外壁も配管も、
まるっと手を加える必要があるのですから。
私たちは、リフォームにかかる費用だけでなく
その土地の地価などを鑑みて
「この値段なら買えます」
と担当者に送りました。
しかし担当者の返事はNOでした.
持ち主さんは絶対に”1円も値下げはしない”、
と決めているそうなのです。
”え、この物件、
地価の1.8倍だけど、そうなんだ”
私たち夫婦は驚きました。
慣例的に、中古物件の場合、
地価からみてもかなり金額を”盛っている”のがほとんどです。
不動産価格の高騰もあって、
かなり強気な価格設定となっています。
それもあるのか、なかなか売れない物件などは
3~10%くらい(または端数切り)の
値下げは珍しくないと聞きました。
めちゃくちゃ築浅でも100万円くらいは
不動産会社の担当のほうから申し出てくれるくらいです。
もちろん大胆な大幅値下げは売主の心証を悪くするため、
”なぜその金額なのか”という合理的な理由が必要です。
相手にとっては思い入れのある、大切な家です。
それをいきなり”この家は〇〇万円の価値しかない!”
などと突きつけるのは失礼極まりない行為です。
”大規模な修繕がなくては住めない”
”隣家に越境しているため売却時が大変”
”建蔽率を超過しているためローン審査が厳しいが
この金額ならローン審査無しの現金で購入できる”
といった、客観的な理由をお伝えしなくてはなりません。
それでも売主さんが”この金額”と決めたのなら
それが何より大切なことです。
私たちはあっさりとこの物件から手をひきました。
まあ、”面白い”という理由で家を買ったら
後悔したと思われますし。
しかし結局数カ月、この物件は売れ残っていました。
やはり不動産価格が高騰しているとはいえ、
地価を大きく上回り過ぎているのは
買い手から避けられてしまうのでしょう。
そもそも地価にはさまざまな種類があります。
まず、国土交通省が発する公示地価。
これは一般の土地取引の指標や、
不動産鑑定・公共事業用地の買収価格の基準となる値です。
次に各都道府県が発する基準地価。
公示地価の補完であるため
その対象外エリア(市街化調整区域など)もカバーしています。
続いて国税庁の発する路線価。
これは相続税や贈与税の算出基準になります。
さらには各市町村の発する固定資産税評価額。
固定資産税や都市計画税、不動産取得税などの算出基準です。
これは各自治体が独自に評価基準を定めて決定しており
通常は公示地価の7割程度の金額となります。
そして最後に、実勢価格(時価)です。
これは不動産市場が定めた、実際の売買取引額です。
需要と供給のバランス(人気の駅など)、
土地の形状(旗竿地は安くなります)、
売主の事情によって変動します。
”売り手と買い手の合意によって決まる”ものなので
前述のとおり値下げ交渉することも可能です。
ただ、今回のように”おもしれー物件枠”ならともかく
”本当に欲しい”と思った物件は
ライバルも多いと思うので、
価格交渉はほどほどにしていきたいと思いました。




