18 物件の過去(告知義務)
なかなか新居が見つからなかった私たち夫婦は
希望エリアだけでなく、
通勤・通学な可能な範囲全てに対し
徹底的な検索をかけることにしました。
この”草の根を分けてローラー作戦”により
まったくノーチェックだった地域に
かなり良い条件の物件を発見したのです。
それは二路線使える安定路線にあり
駅からも6分ほどの好立地でした。
昭和のころから人気のある邸宅街で
今でも住宅地として根強い人気のある町でした。
病院、買い物施設も充実しています。
そんな場所にこの値段ってあり得るのか。
間違いない、何らかの”訳あり”なんでしょ、そうでしょ。
何も信じない野生動物の目をしたまま
その担当者に連絡すると
お手頃価格である理由を告げられたのです。
「この物件、白アリが出たんですよ」
はい、やっぱり出た告知義務。
それも白アリ。
(分類上はアリではなくゴキブリの仲間です)
木造物件にとってそれは、
お化けが出るよりも怖いかもしれません。
幽霊は柱をかじらないけど、
白アリは視えない場所をどんどん削り
壁の向こうで大事な資産を削っていくのですから。
さらに担当者は衝撃的なことを告げました。
「それだけではありません、
ここ去年、豪雨の時に水没したんですよ」
え、そんなはずは……。
私たちは物件をチェックする際、
”再建築可能”と”所有権”の確認だけでなく
ハザードパップを逐一チェックし、
危険性が高いエリアの物件は
問い合わせ自体、控えていたはずなのに。
何故なら、50代以上の夫婦がこの先
終の棲家として暮らす予定の家だからです。
大雨洪水注意報が出た時、
高齢者にとって避難は一大事です。
緊急時には迅速な行動が何より大切なので
台風のたびに気にかけなくてはなりません。
さらに言えば、もし豪雨で住宅に被害が出た場合、
年金暮らしの者に修理費用を捻出するのは
とても大変なことだと思われます。
浸水による被害で家屋が破損した場合
その対処に難渋することになるでしょう。
ファイナンシャルプランニングの観点からも
防災というのはとても重要な家計防衛術なのです。
「近くに川なんてありましたっけ?」
こちらがそう尋ねると、担当は否定しました。
「内水氾濫ですよ。マンホールからあふれたんです」
そうか、そっちか。
”内水氾濫”とは、川の水が溢れる氾濫と異なり、
マンホールや側溝から水が吹き出して
道路などが浸水する現象です。
急激な豪雨が大量に流れ込むことにより、
下水道の処理能力を超えた雨水が
地上にあふれ出すことで発生します。
川が近くにない都市部でも頻発しています。
これはとても危険な状態で、
水圧でマンホールの蓋が外れていることがあり、
冠水した道路ではそれが目視で確認できず、
誤って踏み外す転落事故が発生する恐れがあるのです。
また”エアハンマー現象”といって、
大雨で下水管内の水が満杯になると、
管内の空気が強く圧縮され、
重量数十キロあるマンホールの蓋が吹き飛ぶことがあります。
大雨の時には空と川ばかり気にしがちですが
実は街中にも危険が溢れているのです。
詳しく聞けば、この物件は
駐車場が半地下になっており
去年の大雨で一階が7cmくらい水没してしまったそうです。
「水没というのは……かなりのマイナスなんですよ」
担当者がおっしゃる通り、
水没被害は不動産の資産価値を下げる要素となります。
過去に不動産が床下・床上浸水などの水没被害を受けた場合、
売却時にその事実を必ず買主へ告知する義務がありますが
建物を解体して建て替えた場合でも
原則として告知義務が残ってしまうのです。
そう。水没は消えない”前科”なのです。
シロアリが湧いたとか、
人が亡くなった等は
建て替えちゃえば問題ないけど
この土地で起きた自然災害は、
あたかも語り部のごとく
次の持ち主へと代々受け継がれていかねばならぬのです。
……まあ、知っておいた方がもちろん良いことだし、
自治体もどんどん対策をとっているため、
昔と同じ(また浸水する)というわけではないのですが。
しかしうちとしては、白アリが出ただけでなく
”完全には駆除していない”という続報を聞き、
この”告知義務ダブル物件”はあきらめたのです。
今回はいわゆる”物理的瑕疵”のある物件でした。
雨漏り、シロアリ被害、建物の傾き、地盤沈下。
建物や土地そのものに物理的な欠陥がある場合、
それを買い手に告知する義務があります。
中古住宅のほとんどは
ホームインスペクションをしておらず
”現状のまま引き渡し”として
瑕疵があっても責任を負わない、という形で売られています。
なおホームインスペクション(住宅診断)とは、
専門家が住宅の劣化や欠陥を客観的にチェックし、
現在の状態や、必要な修繕箇所をアドバイスするサービスです。
将来の適切な修繕計画を立てるために活用されています。
何回か担当とやり取りし、疑問に思ったのは
事故物件など不利な情報が基本、
”後だし・口伝”なことです。
水没も白アリも同様の扱いで、
サイトには記載されておらず、
またメールでの記載も避けられ、
必ず”電話で(口頭えで)”伝えられる形となっていました。
伝統芸能や古武道の”口頭伝承”か。
気にしない人は全く気にしないんだから
最初からサイトにその手の情報を載せておいてくれたら
お互いに変な手間を省けるのになあ、と思います。




