4話 絶対零度と初恋もどき?
朝、教室に入ると皆がざわついていた。
原因は一つのネットニュース。
スマホの画面には、大々的にこんな見出しが躍っていた。
『話題のあの漫画が遂に実写ドラマ化!!
主演は注目のアイドルグループ・「ゆずりんこ」九尾天狐(16)』
「うぉおおおすげぇ!!さすが我らが九尾さん!!」
「ねぇ!天狐ちゃん!サインちょうだい!!」
クラス内が九尾に寄り添い、盛り上がる。
「しょーがないなぁ〜」と照れながらサインをする九尾。
顔を見るなり、満更でもない様子だった。
彼女はきっとこうなる事を予想しており、発表までウキウキしていたのだろう。
その自己肯定感は羨ましい限りだ。
たが、中にはそれが気に食わない人種だっている。
「ねぇ、九尾さん。ちょっといいいいですか」
隣のクラスから2人の女子が教室に入ってくる。
右側にいる女は目にかかっている前髪を分けながら九尾に話しかけた。
「・・・いい加減にして下さい。」
紛れもない、嫉妬だ。
「何のことでしょうか?」
「主演に選ばれたからといって、あまり天狗にならない事です。あなたが選ばれたのは誰でもない、私達のクラスメイトである座敷原さんの御父様のおかげではありませんか」
そういえば聞いた事がある。
隣のBクラスにはとてつもない財閥のお嬢様がいるって。
って事はその側近の2人なのかな・・・?
「座敷原さんにはお世話になりましたが、オーディション自体は行っております。今回とは関係がありません。」
「あくまでも『私の実力です』って言いたいわけなんですかぁ〜??」
もう1人の女子が口を開いた。
こちらは先程の子とは正反対に、長いつけ爪をし、如何にも『ギャル』って感じだ。
「ざっしーは何も言ってないけどさぁ、正直最近のアンタ見てるとイライラしてると思うんだよねぇ。男に媚び売っててそれでお金稼いでる。ましてや父親がそれに片足突っ込んでて奪われるみたいで」
「・・・・・」
無言で苦渋を飲み九尾は下を向く。
あまりにも言い過ぎだ。
確かに彼女は調子乗ってしまいがちだが、それでも彼女なりの努力をしてここまでの人気を手に入れた筈だ。
それを真っ向から否定する権利なんて誰にもない。
数々のトラブルや壁を潜り抜け、今の九尾がある。
(だからこそ、言い方ってもんがあるだろうがっ・・)
俺は前髪女の肩に手を触れようとする。
その瞬間・・・・・
「ひぇっ!??!」
ギャルが身震いを起こす。
そう、まるで全身に寒気が一気に湧き上がったように。
「・・・・・・・・・・・」
ギャルの後ろに、雪代がいた。
ギャルは自身の首筋を抑え、雪代の方を振り向いた。
「あっ、あんたはあの有名な、雪代ふゆっ」
雪代は髪を耳に掛けながら、ギャルの耳に口元を近づけた。
『・・・・あまり、彼女を虐めては駄目ですよ・・?』
ここからだと雪代が何と言ったか聞こえなかった。
と言うより彼女にしか聞こえないくらいの小さな声で、何かを伝えたようだった。
ギャルは目を大きく開き、その後暫くして勢いよく雪代を睨んでいた。
しかしながらその額には冷や汗をかいている。
「・・・ッ!!あーー!もうメンドクセ!!いこ、書記姫!」
「ちょ!!そんな強く引っ張らないで下さい!あとそのあだ名で呼ばないで下さいッ!!」
前髪女はギャルに手を引かれ、去っていった。
何を言ったが分からないが、一言で彼女達を引き帰らせられる彼女は大したものだ。
クラスメイト達は雪代に対して『よくやった』と絶賛の声を上げた。
九尾は顔をうつむいた。
忘れもしない。この場面の既視感は『転校初日』と一緒だ。
2回目だと言うのに、またしてもかける言葉が見つからない。
俺は立ち尽くして、彼女の様子を伺うしかないのかー。
俺の気持ちとは裏腹に、九尾は勢い良く席から立ち上がった。
「おいっ・・・」
あまりにも急な出来事に驚き、後を追いかけてしまった。
彼女はバタバタと走り、隣の教室へと入っていく。
先程の2人を見つけると、指差して大きく言い放った。
「何を言われようが私は構わないわ!!そんなのネット記事で慣れてるからァ!
見てなさいッ!!私の力でもっと上に行ってやるから!!」
彼女の怒声は、廊下中に響きまくる。
どうやら俺が心配するほどもないくらい、彼女はとっくの前から強い人間だったらしい。
九尾は何も言い返せないままの前髪女とギャルを睨み、「ふんっ」と後ろを向きBクラスから出ていく。
「何よ、その顔」
廊下にいた俺と目が合い、引いた様子だった。
「え?あっ、いやこれはクラス委員として心配してだな・・・」
「ふーん、そうなんだ。色々とありがとうねリーダーさん」
「ん?色々って?」
「私があいつらに嫌味言われてる時、あの陰湿女に言い返そうとしたよね」
「あ・・・それは・・」
気付かれていた。なんという恥ずかしさなんだ・・。
彼女はクスッと笑った。
「ありがとね。もう大丈夫だからっ!!」
俺はその時思い出した。当時彼女が好きだった理由を。
TVで見た、この素敵な笑顔を。
「・・・・眩しいな」
「え?」
「あっ」
声に出てた。と同時に朝のHRのチャイムが鳴る。
「あ〜!もうこんな時間!早く戻ろッ
リーダーさん!」
「そっ、そうだな!!行こう!!」
俺は急足で教室へと戻っていった。
私は挫けない。
使えるものは全部使ってでも、トップに立つ。
アイドルだって、この教室だってそうだ。
あの雪女にだって、いつまでもマウントは取られたくない・・・。
乾幹太を使いこなせない雪代なんかに、私は負けない。
『・・・・眩しいな』
あれ?なんだろうこのざわめき。
私は教室に戻りながら、この気持ちのもやに違和感を持った。
(・・・・なんだろうこの胸騒ぎ・・)
時を同じく、謎の懸念を抱く者がひとり。
嫌な直感が私を襲う。
(誰だろう。私のライバル、いや『敵』が現れた気がするな・・・)
先程のギャルか?いや違う。
今、旦那様と共に教室に入ってきた女だ。
『九尾天狐』。
もし私がさっき追い出さなければ、旦那様が『クラス委員長』として仲裁しに入っていた。
それは、青春を何事もなく過ごしたい旦那様にとっては、避けたいはず。目立たせる事はなんとしても避けたい。
そう思って、あえて私がとめたのに。
もしかしてこの女、幹太くんに・・・・・ッ??
雪代は拳を強く握る。
(こんな初恋もどきに、私が負けるもんですかッ・・!)




