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恋する雪女(?)さんは凍らせたい!!  作者: 黒野原ケイ


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3/3

3話 髪型と狩人と失敗作


 「九尾・・・天狐・・・」

 

 彼女は満面な笑みで俺の方に近づいてきた。

 腰の後ろに手を組み、顔色を伺う様にこちらを見つめる。

 「無造作ヘアって言うのかな?私は昨日みたいなきっちりしたパーマより、今日の方がぼさっとしてて男の子って感じがして好きだなぁー!!」

 「そ、そりゃあどうも・・・」

 顔が近く、握手会や感謝祭だとしてもこんな距離感は取れないだろう。

 心臓が跳ね上がって耳が赤くなっているのが自分でも分かる。

 と同時に、脳内で九尾を推していた時期を思い出した。


 (・・いや待て。こいつ、こうやって現役時代から太客のヲタク共を認知して爆釣してたんだ。危ねぇ、危うくせっかくの高校デビューを喰われるところだった・・・)


 それに彼女は自分の魅了を分かっている。その武器を使ってイケメン俳優まで堕として、当時の俺の気持ちを踏み躙った。

 きっと本当の彼女は昨日の『あの顔』なんだろうなぁ。

 昔は昔だ。今はただの『裏の顔が怖いクラスメイト』だ。

 これからの距離感が大事になっていく。

 気持ちを落ち着かせると、段々と強張っていた顔の筋力が和らいでいった。

 「そう言ってくれてありがとう。練習中なもんでね、暖かい目で見てくれよな!それよか俺らに用があるのか?もしかして手伝いに来てくれたのか?」

 九尾は2、3歩下がり、一瞬スンとした表情をした後に笑顔を見せた。

 「ごめんね〜!今からダンスのレッスンがあるんだ。手伝いたいのは山々なんだけどね......?また明日ね!!」

 彼女は申し訳なさそうにその場を後にした。

 「一体なんの用事だったんだよ、あいつ。ね?雪代さん」

 「・・・・・・・・」

 雪代は猛烈な眼力で九尾の後ろ姿を睨みつけていた。

 (そりゃそうだわな。やりたくもない仕事やらされてる上で茶化されたらムカつくわな・・・・)

 幹太は雪代に深く同情し、大きくため息を付いた。

 

 暫くして、無言で黙々と作業した甲斐があり想像していた時間よりも早く掃除が終わった。

 「ふぅ、やっと終わったなぁ・・・。あとはこのゴミ袋を捨ててくるだけだな」

 ゴミ袋は俺の身長の半分くらいまで大きい。更には木屑が沢山出たため、かなり重い。

 雪代が袋を持ち、持ち上げようとした。

 だがゴミ袋は一向に持ち上がらない。

 それでも頑張ろうとしている所が少し微笑ましかった。

 「いいよいいよ。俺やるよ」

 重そうにしている彼女より、そもそも俺がやるべき仕事だ。

 雪代は首を横に振る。

 「俺捨てとくから先あがって。こんなに汚れてるし、そのままじゃ帰れないでしょ?」

 「!!!//」

雪代は小さい声で「....わかった」と返答し、校舎へと戻っていった。

 俺は彼女を少し見送った後、袋を担いで焼却炉へと向かった。

 それにしてもやっぱり重い。歩きながらもふらふらと重心を持っていかれる時がある。

 (もしかしたら、ちょっと雪代に手伝ってもらって2人で持って行ったほうが早かったかもなぁ・・・)

 そう思いながら歩いていると、小さな段差に躓いてしまった。

 バランスを崩し、前に倒れる。

 (・・・最近転んでばっかりだなぁ。)

 ふと目をやると、ゴミ袋が破れ、悲惨なことになっていた。

 やばっ!やらかした!!

 せっかく雪代と一緒に片付けたのに・・・。

 仕方ない。

 俺は野球部からホウキとチリトリを借り、散らかったゴミを集め始めた。

 (ほんと、運がねーな。幸先が不安になるぜ・・・)


 「おい、大丈夫か?」

 

 声がする方を見るとそこにはゴミ袋を片手に持っている金髪の不良が立っていた。

 忘れもしない。例のうちの不良もどきだ。

 

 「あ、その・・・転んじゃって袋破けて・・・」

 「・・そーなんか」


 不良もどきは俺が惨めだったからなのか、視線を逸らし何も言わずに焼却炉に持っていたゴミ袋を捨てて帰って行った。


 (ちくしょー。不良もどきにもあんな目で見られるなんて)


 自分の情けなさを悔やんでいる。

 何もかもクラス委員になってからだと恨みを抱き始めた。


 15分後。


 「ふぅ〜あと一息だ」

 だいぶ片付いてきたな。あとは大きい藁と新しいゴミ袋を持ってくるだけだ。

 近くにある水飲み場で喉の渇きを潤し、両膝を叩く。

 「すげーな1人で片付けたのか」

 (その声はまさか・・・)

 台車を引きながら、不良もどきが戻ってきた。

 「え?なんで・・」

 不良もどきは照れくさそうに軍手をはめた。

 「・・・1人で大変そうだと思ってよ。台車を整備室から拝借してきた。手伝うよ」

 「い、いいのか?」

 「困ってる人は見逃せなくてな・・・」

 そうか。こいつは入学式の日に生徒を一掃したのは、周りに囲まれて困っている雪代を助けていたのか。

 見た目によらず、良い奴だ。

 「優しいなお前・・・」

 「よせよ。当たり前の事しているだけだ。新しいゴミ袋持ってたからそれに詰めて、こいつで運ぶぞ」

 台車の上に置いてあった新品の袋を取り出して、2人でせっせとゴミを詰めていく。

 

 不良は手際が良く、二人がかりだとスムーズに終わり、焼却炉に捨てる事ができた。

 「ありがとう助かったよ。名前はえーっと」

 「会津(あいず)だ。会津龍太郎(あいずりゅうたろう)。」

 俺と会津は近くのフェンス下に座り込んだ。

 「ごめんな会津。俺、お前の威圧感から少し距離置いてたよ。反省してる」

 「謝る事じゃねーよ。この見た目なら誰だってそうするさ。それにこれは自業自得だから乾は悪くねぇよ」

 「自業自得?」

 会津はリーゼントを撫でながら教えてくれた。

 「俺、中学の頃いわゆる『フツメン』ってやつでさ。とにかく冴えなかったんだよ。その割に体格も良いからそれが原因で先輩からいじめの標的になってさ、散々な目にあった。 だから高校に上がる前の中三の三学期に『舐められたくない』と思って一生懸命考えた結果、この見た目になっちまったっていうわけだ」

 そうか。こいつも俺と同じく高校デビューをしたんだ。

 だけどその身なりと素振りから誰も近づけず、引き返せなくなってしまったただの優しい男なだけ。

 「『失敗』したんだよ。俺は。そんな時に乾を見て『こいつはすげー』と思ったんだよ」

 「え?」

 「だってさ、入学早々あんな滑る事ないぜ??あれは感心したよ。お前も高校デビューだろ?」

 会津は笑いながら俺の肩を叩いてきた。

 「おっ、おうよ・・」

 (こいつ、あれ聞きいてのか・・・)

 記憶から消していた教室に入る時を思い出す。

 「それでも自分を貫けるってのは早々出来ない事だろ?乾の高校デビューは最高のスタートを切ったと思うぜ!それにその髪型、すんげーいかしてる!」

 「いや、どちらかと言うと今日はミスったというか」

 「それでもだ!俺はかっけぇと思う!!」

 なんだろこの感じ。肯定感が爆上がりだ。

 「おっ、俺も会津のリーゼントかっこいいと思う・・」

 「ガチ??そんなこと言われたらもう毎日これでいくしかねーな!!」

 会津はポッケからくしを取り出し、嬉しそうにリーゼントを整えた。

 「ありがとうよ乾。俺の髪型を褒めてくれたのはお前が初めてだ!」

 「こちらこそありがとう」

 俺たちは固く握手を交わす。

 「それとだ。身体測定の時悪かったな。ぶつかってしまって・・」

 「もしかして気にしてたのか?」

 「・・そうだな。雪代にも謝罪したいんだがなぁ」

 会津龍太郎。どこまで優しい男なんだろうか。

 「任せろ会津!雪代は意外と話がわかる方だ!俺の方から言っておく!」

 「良いのか?乾」

 俺は自分の胸に拳を当てる。

 「当たり前だろ?友達なんだから!!」

 「乾・・・・・っ」

 こうして俺は、高校で初めての友達ができたのだった。

 

 学校の敷地を出て、夕暮れの通学路を1人歩く九尾。

 スマホのロック画面を解除すると、『今日明日はゆっくり休んで、一緒に明後日のライブ頑張ろうねッ!』と通知が来ていた。

 「ふっ、一緒にというか、私の足引っ張んなよな・・?私の魅力には勝てないんだから」

 九尾は通知を無視し、カメラを起動した。

 内側に向けて「にこ」っと笑顔を作ってみた。

 (私の『魅力妖術』、やっぱり一度切れると二度目は効かないのかな・・。あの乾ってやつ、昔私の事好きだったって聞いたから試したけどダメだったし・・・)

 しかし、問題はそこではない。

 (あいつだよな、雪代冬華。乾の後ろでバリバリにこっちに冷気剥き出しで睨んできてたもんなぁ・・・)

 九尾が幹太に絡んでた裏では、雪代は嫉妬の炎に燃えていた。

 雪代は自分の冷気で九尾を脅すようにし、切長の目で訴え続けていた。

 (あの目は『彼は私のものだ』って目してたなぁ。もしかして2人って・・・・)

 九尾はクスッと笑いながら呟いた。

 「私の妖術効かない上、あーんな可愛い子に惚れられてるだなんて、風上にも置けないなぁ〜。乾幹太、興味出ちゃった❤︎」

 九尾は獲物を見つけたかのように微笑んだ。

 


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