5話 はじめての??
視界が悪く、外は大吹雪の中俺は一つの灯りを見つけた。
立て付けが悪く、今にも倒れそうな母屋がそこにあった。
ドアを叩き、声を掛けてみたが反応がない。
取手に手をやる。どうやら鍵はかかってないようだ。
「・・・お邪魔しまーす」
恐る恐るゆっくりと、扉を開ける。
すると部屋の真ん中に、女性が1人。
白装束を纏い、正座をしてこちらに頭を下げていた。
「おかえりなさいませ、幹太様」
見上げる顔には見覚えがあった。
「ゆ、雪代・・・・?」
「??」
彼女は不思議そうにこちらを覗いていた。
「・・・・ん」
眩しい朝日が、窓から寝ていた俺の顔に当たり、自然と目が覚める。
今日は土曜日だからアラームをかけていなかった。
「なんだ・・・あの夢・・・」
昔の記憶と混合したのか、体験した出来事とは少し違っていた気がする。
にしても、なんで雪代が・・・・?
「・・・・雪代って・・」
「・・・・・?」
ぼやけていた視界がゆっくりと広がる。
俺の顔に至近距離で冷気が当たる。
すると夢の中のあの女の子が、俺の顔を眺めていた。
「ゆっ、雪代!?!?!?」
紛れもない、本人だ。夢じゃない。
俺は勢い良く起き上がった。
「なななななんで、雪代が俺の部屋にいんの?!?」
彼女はいつも通り表情をひとつ変えず、こちらを見つめている。
動揺する俺。
『なんかしました?』と言わんばかりの雪代。
「・・・俺の家知らんよね?」
彼女はコクンと頷く。
「・・・初めて来たよね?」
彼女はコクンコクンと頷く。
「京子の野郎!!俺の家教えやがったなァ!!!」
俺はパジャマ姿のまま階段を降りていった。
リビングに向かうと、母親と楽しく談笑している京子がくつろいでいた。
「京子ッ!!お前何してくれたんだぁ」
寝起き全力疾走につき、絶賛息切れ中の俺を見てニヤけながら答えた。
「どうだったー?朝起きて美女が部屋にいるシチュエーション。男子高校生なら嬉しいっしょー??」
「シチュエーションってお前は・・・」
雪代が顔を近づけていた事を思い出す。あの距離感はまるで・・。
思い出し、赤面する。
「いっ、いいか!!そんな展開別に俺は望んでない!」
「あら、冬華ちゃん❤︎」
振り向くと雪代も降りてきていた。
手を振る母親に会釈する彼女の口元をつい見つめてしまう。
今朝方見た夢のせいで、変な意識をしてしまう。
母親と雪代は楽しげに話し込んでいる中、俺は頭を冷やしに顔を洗いに行った。
数分後。
「で、今日暇?」
「は??」
私服に着替え部屋に戻ると、京子が不意に問いかけてきた。
隣で雪代は正座している。
「なんで」
「3人でデートでもと」
「デート?!?!」
ふざけてるのか?よりにもよって雪代も一緒だなんて。
想像してみる。絶対に話が続かない。
「フンッ!悪いが今日は先約がいるんだ。残念だったな」
本当に今日は終日予定がある。間が悪かったな京子。
「えーなんだぁ。さては女だな??」
「違うわ!!!」
一瞬、部屋の温度が急激に下がった気がするのは気のせいかな??
「普通に友達だよ!今から駅で待ち合わせなんだ。俺は先に出てくからな!?」
俺は財布と携帯を手に取り、2人を差し置いて部屋から出ていった。
幹太が部屋から出ていき、京子は深くため息をついた。
「はぁ〜、逃げられたね。上手くいかなくてごめんね冬華ちゃん」
「いえ・・・・こちらこそありがとうございます」
雪代は京子に向かって深くお辞儀をした。
「まさかそっちから『幹太の家を教えてくれ』と言われた時は流石に驚いたよ」
「・・・無理言ってすみません。ちょっと負けたくなくて・・・」
「負け?」
「あ!・・いえ、こちらの話です」
「まぁでも幹太のお母さんも気さくな人だから。簡単に息子の部屋に初めての女の子入れてくれるの凄いよねぇ!」
京子が雪代を連れてきた時、『幹太の彼女さん!?こんな美人連れてくるなんて!』と母は家にあげていたのだ。
「ね!言い方思いついた!」
京子は立ち上がった。
「幹太の予定が本当に女じゃないのか、ちょっと尾行してみようよ!!」
「え?何もそこまで・・・」
「実際気になるでしょ?私達と一緒に遊ぶのが嫌で嘘ついてるかもしれない!」
内心疑いを持つ雪代。
「なにしろ面白そうだし!ね!行こう冬華ちゃん!!」
京子は雪代の手を引き、幹太の家から駆け出した。
明空学園から徒歩5分。学生が集まりやすい最寄り駅だとしたらここだ。
近くにあるオブジェに身を隠しながら、雪代と京子は幹太を探していた。
「見つけた!!」
京子の指差した方向に目をやると、幹太の姿があった。
服装は先ほどと同じだ。
どうやらスマホで時間を確認している様子。
「おう!待たせたな!!」
幹太に声を掛けたのは意外な男。
誰もが距離を置く程に、図体がデカい。
「全然!こっちもきたところだから!それより早くいこーぜ、会津!」
京子は愕然とした。まさか入学早々友達ができたと思ったら、うちのクラスの不良となんて。
「え、嘘でしょ幹太。あーゆータイプ1番苦手じゃん・・」
「・・・素敵ですね乾くん」
「え??」
隣にいる雪代は目を輝かせていた。
「・・・外見を気にせず、誰とでも仲良くできるって、素敵じゃないですか?」
わくわくしている雪代を見て、今にも信じられない京子。
「あ!2人が移動しますよ!行きましょう京子さん!」
雪代は京子の手を引っ張り、2人の後を追う。
(数分前までは乗り気じゃなかったのにな・・)
仕方ないと呟きながら、京子も足を速めた。
幹太と会津が寄ったのはゲームセンター。
次に雪代と京子はクレーンゲーム機の裏に隠れる。
「・・・ゲーセンといえば、よく不良が屯する場所ですよね」
「冬華さん、それは偏見過ぎじゃないかな・・・」
探偵のように顎に手をやり考え込む雪代につい突っ込んでしまった。
財布から100円を取り出し、筐体に入れ、格闘ゲームを楽しんでいる幹太達だったが、
「オイ」
「あん??」
何やら会津が2人組に声をかけられた様子だ。
会津とは真逆なタイプの不良、いわば『ツッパリ』の類の人間だ。
会津と2人のツッパリは睨み合っている。
「あわわわわ!ほら!私の言った通りですよ!!乾くんが危ない人たちに絡まれてますううう」
「大丈夫だって!あっちには会津がいるから!(確証とかないけど)」
「みっ、見てくださいッ!乾くんが『ベアハッグ』されてます!!」
「ベアハッグって、んなプロレス会場じゃないんだし・・」
(『ベアハッグ』というより男同士で抱き合っている様にしか見えないんだけど・・・てかなんだそれは)
京子は心の中でツッコミを入れた。
「もう我慢できません。京子さん、私がとめてきますッ」
雪代は感情に揺られ、身を前に出した。
「ちょっ!!冬華ちゃん落ち着いて!!!」
後ろから怒りマックスの雪代の体を掴み込んだ。
「離してください!私が乾くんを守らないと!!」
「ちゃんと見なよ!!あれのどこが喧嘩前なのよ!!」
言われるがままに、幹太達の方を見てみると、なんとツッパリ2人組も幹太達と一緒になって格闘ゲームをして楽しんでいた。
「・・・あれ」
体からが抜け、振り上げていた拳が徐々に下がっていく。
「多分あの人たちは会津の友達だよ。たまたま会って一緒に遊んでるだけでしょ・・・」
京子の一言で雪代の表情が和らいでいった。
「もう〜なんでアイツの事になると冬華ちゃんは周りが見えなくなるの〜」
「・・・・すみません。なんとお詫びすれば・・」
肩をくすめ、いけない事をしたと反省する雪代。
きっとそこまで幹太を大切に想っているのだろう。
「・・・私だって、そんなに人に想われた事ないよ・・」
「!?・・・今なんかおっしゃいましたか?」
つい本音を滑らせた事に気が付いた。
「なっ、なんでもないなんでもない!あ!そうだ冬華ちゃん。男ども暫く動く様子なさそうだし、謝罪の気持ちあるなら気分転換にアレ付き合ってよ!」
京子はプリクラ機を指差した。
「・・なんですかあれは」
「プリクラ知らないの?!そんなJKいるんだ!!」
「・・すみません」
「謝る事ないって!ついてきて!!」
京子の後を追い、機械の中に入る。
お金を入れ、手際よく色々と選択していく京子。
「よしっ準備完了!!後ろからグリーンバック出てくるから気をつけてね」
「・・・ぐりーんばっく?」
すると、上から緑の布が降りてきた。
「『撮影の準備はいいかな?可愛くポーズを取ってね!』」
「なんか喋りましたよ京子さん」
「この画面と同じポーズをするんだよ!ほら、こう!」
「・・こっ、こうでしょうか」
2人は両手を広げ、顔に近づけた。
「『いくよー!はいっ、チーズ!!』」
カシャ。カシャ。カシャ。
指定された通りに次々と2人はポーズを変えて撮影をしていく。
徐々に2人の表情には、笑みが浮かび上がっていった。
「『お疲れ様でした!次は落書き選択だよ!!』」
「これで終了!もう出て良いよ!あ、出たらそこで待っててね!」
「・・・分かりました」
京子は別のブースに移り、何やら書き込んでいる。
その様子を不思議がる雪代。
「よし!できた!!はい冬華ちゃん!」
京子は1枚の写真を手渡した。
そこには4種類の写真が映り込んでおり、それぞれに落書きがされてあった。
『祝!初デート♡』
『ふゆかときょうこ』
『ゲーセンなう!ぷりくらサイコー!』
『やっぱり不良はコワイナ・・』
「これがプリクラってやつ。冬華ちゃんはどのポーズが気に入った?」
「・・・・これ、ですかね」
「あー!『指ハート』ね!これいいよねよくカップルがやるポーズ」
「・・・かっぷる」
「あ、深い意味で言ってるわけじゃないからね・・ごめん」
「・・ぷりくらって、カップルが撮るものなんですか?」
「・・・・まぁカップルでもよく撮るんだけど、女の子の友達同士でやっても楽しいからさ・・」
少し照れながら京子は話す。
「・・・中学の頃はあまり関わって来なかったけど、高校で同じクラスなってうちを頼ってきた時は正直、ちょっと嬉しかった・・・」
「・・・京子さん・・・」
「『京子』って呼んでよ。うちも『冬華』って呼ぶからさ」
心から信用できる人など、今まで居なかった。
私は旦那様さえいればそれで充分と思っていた。
だけどどこかで恐怖心はあった。
『彼を他の人に取られたら?』『私はひとりぼっち?』
私を選ばなかった時の事は嫌なほど考えた事がある。
私と彼は、ただの同級生。
たまたま同じクラスになり、たまたま同じクラス委員をしてるだけの関係性。
彼がどんな人を好きになろうが、彼からしたら私はどうでもいい1人になる。
だけども私にとって、その事実はとても悲しいこと。
あの約束はただの絵空事の様に思ってしまうから。
それが怖くて、怖くて。悔しくて、悔しくて。
京子さんに助けを求めたのもそれが理由・・・。
私の我儘に付き合わせただけなのに。
彼女の貴重な時間を邪魔したのに。
なんでこの人はこんなにも暖かいのだろうか・・・・。
自然と涙が出る。
「なんで泣いてんの!?大丈夫!???ハンカチ使う?」
京子はポケットから取り出した。
「・・・いえ、大丈夫です。貴方の言葉が、とても暖かくて。私にはとても熱すぎました・・・」
「そんな大層な事言ったかなぁ・・・・」
雪代はハンカチを貰い、涙を拭う。
「ありがとうございます。この写真、大切にしますね。京子・・・」
「・・・うん!うちもうちも!!冬華っ!」
プリクラを胸に当て、大切に抱える。
ゲームを終え、ツッパリ2人と解散した幹太と会津はゲームセンターから出ていく。
「あ!幹太達が出ていく!どうする冬華?」
「もう大丈夫です」
雪代はゆっくりと頷いた。
「・・・乾くんのまだ見た事ない一面を少し見れただけで、今日は充分です。それよりも今日はもっと京子の事の方が知りたいです・・・」
うじうじしている彼女を見て、京子は少し赤面する。
「そっ、そうきたか〜!!それもそうだね!幹太の事知りたくなったらまた協力するよ!んじゃ、服でも見にいく?」
「・・・・はいッ!よろしくお願いします!!」
冷たい彼女は笑顔に返答した。
「ところで、いつからアイツの事好きになったの?」
「!?!・・・好きってそんな、それは・・」
2人は手を繋ぎ、2人だけの秘密の時間を過ごしに出かけた。




