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その銃弾1発で  作者: 衣太
価値
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13/21

1

「昨日は興味ない話聞かせちゃって、ごめん」


「悪い?何がだ」



 相澤と別れ、宿屋で休息を取った後の、遅めの朝食だ。

 馬での移動は想像以上に体力を消耗したようで、死んだように眠っていた。アリシアが起こそうとしなかったほどなので、相当な爆睡だったのだろう。

 幸い、滞在時間はまだあるとのことで、買い物ついでに食事を取っている。



「相澤さんとの話、この世界の人には、関係ないことだと思うんだけど」


「そうだな」


「アリシアさん達と敵対する勢力に、戦力として呼ばれたであろう人間を連れてくんだ。最悪、任務が終わってすぐに敵になるかもしれない」



 狙撃手の役目は、1つ。

 狙撃することだ。下條理科にそれを求められるのなら、自分は迷わずその行動を選択する。

 対象が自国の兵だろうが、関係ない。そういう意味での言葉だったが――



「それがどうした」


「どうしたって……」


「気を遣ってるようだが、お前には私を殺せないよ」



 こちらを見ることもなく言い放ったアリシアの言葉は、しかし、確かな重みを感じた。

 殺せない。

 ファーストヒットで100%の命中率があれば、運動能力とは関係なく人を殺せる。そういう話を聞いて尚、彼女はそう言ったのだ。

 『避ける』ではなく『殺せない』と。その言葉の選択には、何か意味があるのだろうか。



「アリシアさんは、なんで兵士になったの?」



 ふとぶつけてしまった疑問に、食事を続ける彼女の手が止まった。

 仲間とは言えない上からの命令にも従い、左遷のような扱いをされても任務を遂行する彼女には、何か兵士であり続ける理由があるように感じたからだ。

 人に言いたくない理由もある。自分や相澤のように、人生にトラブルを抱えている人間もごまんと居る。それを考えもせず、聞いた。聞いてしまった。



「兵士になるか売春婦になるか選べと言われたから兵士になった、それだけだよ」



 それきり、彼女は黙ってしまった。言いたくないとでも言えば良かったのに、彼女は正直にそう答えた。

 全く、なんて人間なのだろう、自分は。

 少し考えれば、彼女のような性格の人間が隠すはずもないと、分かったものなのに。



 食事を追えてひと通り買い物を済ませると、馬に乗る前にアリシアが口を開く。



「お前は急いで王都に行きたいかもしれないが、少し付き合ってもらうところがある」



 彼女のナビゲーションがないと街から出ることすらできない自分にとって、それを拒む理由などありはしない。



「別に良いけど、目的地は?いやまあ、聞いても分からないだろうけど」



 彼女は地図を広げ、今の街と、向かう場所を指した。

 あまり離れてはいない。丸2日あれば着くだろうと言う彼女の言葉を信じ、自分の足腰に気合を入れる。

 数時間の移動でもあれほど疲れたのだ。2日かけての馬での移動に、身体が耐えられるか分からない。しかし、耐えなければならない。

 余分なところで時間をロスするつもりもなければ、彼女にあまり気を遣わせたくもない。


 馬を引いて門を出ると、彼女に銃を返された。

 念のためいつでも撃てる状態にしておきセーフティを掛けると、肩紐を使って背負う。重量が軽い分、あまり邪魔にはならない。


 そうして、移動が始まった。この世界に住む以上、馬の移動にも慣れなければならない。そう自分に言い聞かせて。







「兄ちゃん、面白い銃持ってるなあ」



 日が落ちる少し前に見つけた行商人の集団に合流し、一緒に夕食を取ることになった。

 アリシアが急に馬車に向けて馬の速度を上げた時は追い剥ぎでもするつもりかと思ったが、そんなことはなく。彼女は口は悪いが、この世界でコミュニケーション能力が低いわけではないようだ。

 少しの金銭のやりとりで温かい食事と寝床を提供してくれるというのだから、願ったり叶ったりだ。


 アリシアは野宿をすると言っていたのに、テントや寝具の類は全く持ってきていなかったのだから、もし行商人を見つけなかったらどうするつもりだったのか、聞きたくはない。



「これですか?でもやっぱり、銃ってことは分かるんですね」


「そりゃそうよ。他の連中は違うが、俺が扱ってるのは銃だからな。兄ちゃんそれ、どこで買ったんだい?面白い形だが、あんまり飛びそうには思えねえなあ」



 彼はそう言うと、馬車の荷台から色々な銃を取り出す。

 焚き火の近くでないとほとんど何も見えないほどに暗い。曇っていて、月が出ていないからだろう。


 彼の取り出した銃はほとんどがマスケットであり、口径の大きい散弾用の銃もあった。

 そして、拳銃だ。

 見た目からしてフリントロック式。街の射撃場に拳銃の類は置いていなかったので、高価なものと分かる。



「この中で、一番高いのはどれですか?」



 値段がイコール性能ではないだろうが、正直、見たことのないマスケットを並べられても撃たなければ何も分からない。



「……結構良いのを並べたつもりだったが、兄ちゃんのお目に適うものはなかったか」



 行商人は少しショックを感じているようだ。

 分からないから聞いただけなのだが、少し曲解をされてる。



「撃てねえ銃を売るのは詐欺師のやることだからな、普段は表に出してねえんだが……」



 そう言って彼は、一丁の銃を取り出した。

 見た目はこれまでのマスケットと変わらない。しかし、銃口を覗きこんだ瞬間、理解した。

 溝、ライフリングがあることだ。しかし、溝の粗さが手作業のように思える。恐らく、溝の意味を知った鍛冶屋が改良の際に付けたもので、銃として完成した時点ではその溝が付いていなかったのだろう。



「ミニエー銃ですね。撃てないってことは、壊れてるんですか?」


「そんな名前なのかいこれ?いいや壊れてはねえ。ただ、撃つ為のパーツが足りないんだ。雷管っつう、使い捨ての火薬を固めた小さいパーツなんだが、兄ちゃん知らないか?」



 使い捨ての雷管。射撃場で確かに使った。

 確かあのオーナーは、軍からの横流しと言っていた。行商人には手に入らない物なのだろうか。



「持ってますよ」



 そう言って胸ポケットから取り出したのは、あのオーナーから貰ったものだ。

 貰ったは良いが使い道は特になかった雷管。


 サイズは一円玉よりも小さい平たい円形をしており、衝撃で爆発する仕組みが備わっている。

 胸ポケットに適当に入れておいても隙間から火薬が溢れることもなければ、暴発することもない。恐らくこの精度なら、水に濡らしても問題はないだろう。



「おお!こういうのだよ!兄ちゃんこれどこで……」


「おい」



 話に割り込んできたのは、アリシアだ。

 先程までは少し離れた焚き火、女性陣が固まっている方で食事をしていたはずだが、ふとそちらを見ると焚き火しか残っていない。

 5,6人は居たはずの女性は、1人も居なくなっていた。



「盛り上がるのは良いが、囲まれてる」


「は?」


「他の奴らは馬車に隠れさせた。後はお前らだけだ」



 周りを見渡しても、暗いばかりで何も見えない。

 囲まれているというのは、どういうことだろうか。



「敵だよ。野盗の類だろうが、この場合はどう対処する?」



 銃商の男は行商人グループのリーダーも兼ねており、アリシアはこの男に意見を求めに来たようだ。



「ったく、こんな近場で襲われるとは、ついてねえな……」


「どう対処するのかと、聞いている」



 アリシアは苛立ちを露わにして、再度問いかける。

 見れば、彼女は腰の剣に手をかけ、早急な返答を求めていることが分かった。焚き火の周り10m程度しか見えない自分と違って、彼女にはこちらを狙う野盗の姿まで見えていることだろう。



「普段なら、適当に物を渡して逃してもらうな。あちらさんも、何も身ぐるみまで剥ごうとは思ってねえだろうよ」


「それで、良いのか?」


「ん?」


「良いのかと、聞いている」



 アリシアの口調は荒い。

 疑問しているが、苛立ちを隠そうともしないその表情で睨まれる行商人の気持ちを思うと、胃が痛くなる思いだ。



「……は、ねえな」



 小さな、声。

 自分の半分も歳が行っていないアリシアの言動に、怯えてるわけではない。


 盗賊に襲われても何も対抗できないのを、不甲斐ないと、思えるのか。

 何かを渡して見逃してもらうと、いつしか、それが当然のことだと、今日は運が悪かっただけと、そう考えしまっていたのだろう。

 それが、アリシアを苛立たせてる。

 盗られて当然という、その態度が。



「良くは、ねえよ」


「そうか」


「出来る事なら、積み荷にクソ野郎の手なんて、触れさせたくねえ」


「そうか」


「俺に力があれば、あんな奴らに、好き勝手されることはねえのに」


「そうか」


「けど、ねえんだよ。力。ウチくらいの規模の行商じゃ、傭兵雇えても数人だ。数十人で襲ってくる盗賊に、そんだけで勝てるわけがねえ。だから傭兵なんて置いてないし、時たまこういうことになる」



 彼らの判断は、懸命だ。

 常に傭兵を連れて旅をしても、それ以上の数の盗賊に襲われたらどうしようもない。ならば最初から連れなければ良い。もし襲われた時は、運が悪かった。ただそれだけのことと思えば。

 


「ならば、私を雇うか?」


「は?」


「一飯の礼だ。安くしとくよ」


「んなこと言っても姉ちゃん、確かにアンタ剣は持ってるみたいだが……」



 行商人の言葉は、金属音で遮られた。

 いつしか立ち位置を変えたアリシアが、剣を大きく振りかぶった姿勢で、少し前に立っている。


 また、見えなかった。

 一瞬で数メートル移動し、剣を抜き、振り切るところまで、1つも目で追うことは出来ず。

 見えたのは、彼女の背後に漂う金色の毛。焚き火の光も相まって、とても神秘的な色に見えた。

 髪は遅れて重力を感じたのか、ゆっくりと彼女の背に当たる。

 彼女が何かに向けて、剣を振り払った。大きな金属音は、その時に鳴ったのだろう。



「向こうは、待つ気がないようだが」



 振りかぶっていた剣を中段に構え、こちらに背を向けたまま声を続ける。



「選ぶなら、早くしろ」


「雇うよ。よろしく頼む」



 音に尻もちをついた行商人も、今の一瞬、何が起きたか分かっていないだろう。

 あの金属音の正体も、アリシアの瞬間移動も。

 それでも、彼は選んだ。自分の半分どころか3分の1も歳が行っていないであろう少女に、命を預けたのだ。



「雇われた」



 アリシアは、確かにそう返事をした。

 そうして、小さなため息1つ残し、消えた。


 数秒後、遠くから男の叫び声が聞こえてくる。叫びというよりは、悲鳴だ。

 助けてとか、そういう類の言葉。最早ほとんど聞き取れない叫び声を上げる誰かは、一人、また一人と数を増やす。

 暗闇の先で起きていることは、見えなくとも、検討はつく。


 彼女は強い。間違いなくだ。

 最初に行った町で、誰よりも強いと言われた彼女は、あの町ではなく、もっと広い世界で見ても、相当強い部類に入る。他の兵士を見たわけではないが、そう確信できる。


 しかし、駄目だ。

 彼女はミスをしている。

 この行商人達を守る役目を依頼されたのにも関わらず、攻めに入ってしまったこと。

 この場合の最善は、敵集団に斬りかかることではない。彼女は戦闘ができても、戦争を知らない。



「おじさん、弾と火薬、後払いで今すぐ出して」


「は?あの姉ちゃんがなんとかしてくれるんじゃ……」


「ならない。早く」



 行商人が荷台を漁っているうちに、銃のチェック。先程のミニエー銃を迷わず選び、他の銃から槊杖<さくじょう>を抜き取る。

 槊杖とは、先込め式の銃には必須の棒だ。火薬と弾を奥まで押しこむ為に使う。

 銃身下部に収納できるものもあれば、別で持ち歩く必要があることもある。このミニエー銃には槊杖がついていなかった為、これより銃身の長い他の銃の槊杖を用いる必要があった。



「これでいいか!?」



 行商人が持ってきたのは一般的な黒色火薬と、ミニエー弾。ドングリ型の弾丸に、三筋の溝が彫られている。

 口径と弾丸サイズが必ずしも一定ではない円球弾丸と違い、ミニエー弾以降の弾丸は全て銃の口径に適切な直径の弾丸が存在する。

 それにより隙間からのガス漏れがなくなり、命中精度が遥かに上がるのだ。


 火薬と一緒に渡された小さなカップに、瓶に入った火薬を注ぐ。カップが一杯になるとそれを銃口に流し込み、弾を入れ、槊杖でまとめて押し込む。

 カップには、火薬の量を適切に測る役割がある。それが、このミニエー銃に適切かは分からないが、それは撃ってから考えればいいことだ。


 銃口を上に向けたまま、胸ポケットから取り出した雷管を撃鉄のキャップに取り付ける。

 移動する。向かうは馬車を背にして突っ込んだ、アリシアの向かった方向とは真逆、馬車の裏側だ。


 悲鳴に紛れて、他の音も聞こえる。

 足音だ。

 数は多いが、構わない。そのうちアリシアもあちらの処理が終わってこちらに来るのだから、自分は時間を稼ぐだけで充分だ。

 目は、慣れてきた。焚き火からは遠ざかり光源はほとんどないが、目は自然と闇に慣れる。



 銃を水平に構える。マスケットの撃ち方は射撃場でしっかり教えてもらったので、水平より下に向ける場合は、銃口ではなく身体を下に落とし、膝立ちになる。右膝を地に付け、左膝は上げて前に出す。いつでも動けるように、足の甲は地に付けず、つま先を押し付ける。

 ゲームで何度も見た姿勢、何百、何千、何万回と、後ろ姿を見てきた姿勢。

 少しはゲームの中の自分に近づけたかと、そんなことを考える。


 視界に人。数は軽く見積もっても10以上。

 剣を構えてこちらに向けて走ってくる。距離は一番近い者で30m。いつしか視力は、闇の中でもそこまでの距離を見通せるほどになっていた。


 姿勢は変えず身体の向きを少し変え、一番近い男に銃を向ける。

 照門で向きを、照星で高さの微調整。狙うは頭部のただ一点。


 引き金を、引いた。

 爆音。視界が一瞬赤に染まる。しかし、火薬の燃焼は一瞬だ。


 闇に慣れた目で正面を見据える。頭部の4分の1ほどを消失した男は、走る勢いそのままに倒れこむ。



「次」



 後ろに控えさせておいた行商人には、火薬の計量をしてもらっている。特に指示をしたわけではないが、彼も銃商の端くれ、何をすべきかは言わなくとも分かったのだろう。


 彼からすりきりで火薬の入ったカップを受け取ると銃口に流し込み、弾を入れ棒で押し込み雷管を装着。時間にして5秒。撃てて、これが最後の1発だ。


 ならば、最も効果のある者に撃つ。狙撃ではないが、射撃ならば当然のことだ。



 少し後方、ガタイの良い大男に狙いを定める。

 次は頭ではなく腹。その理由は、ただ1つ。


 引き金を引き、再び視界は明るく染まる。もう最前の男との距離は10mもない。次に弾丸を装填する間に、こちらの命もないだろう。

 だが、その心配はしなくてもいい。



 こちらに向けて走っていた盗賊たちは、皆足を止めていた。

 そして振り返る。先程先頭の男が頭を消失したのを見たときは、怯んでも足は止めなかった。そんな彼らが、足を止めて振り返る。


 『今の弾は、誰に当たったのか』


 それを確認した彼らは、足を止めてしまった。

 腹部を押さえてうずくまる大男を見て、だ。


 読み通り、彼がこの盗賊たちのボスなのだろう。

 そう思った理由は体格もあるが、彼は明らかに最前を行こうとはしなかった。

 1発目の射撃を見た瞬間、これまで後方を1人で走っていた彼の前に、数人の男が壁になるようになったから。

 それだけで、ボスと決めつけるだけの判断材料になる。幸い走ってる人間の作る壁なんてものは隙間だらけで、狙うのに何も支障もなかったわけだが。



 彼らが足を止めた時間は、数秒のことだ。

 しかし、目の前で仲間の頭が消失し、ボスを撃たれて尚、同じように走れる人間が、居るだろうか。


 彼らが行動に迷いを覚えた、その時。

 金色が、現れた。


 片膝を着く自分の隣に、アリシアが現れる。

 後ろに控えていた行商人の驚いた声が聞こえる。血まみれの女が血まみれの剣を持って現れたら誰でも驚くだろうが。



「もう、いいよ」



 集団に切り掛かろうとしたアリシアを、その言葉で止める。

 挟み撃ちにするつもりだった片方の部隊を恐らく全滅させられ、目の前で仲間1人とボスが撃たれた。

 歩みを止めてしまった彼らに、戦う意思は残されていなかった。



「殺したのは、1人だけか」



 アリシアがそう呟いた。頭部の4分の1を失い、うつ伏せに倒れる男。

 死んだのは彼だけだ。

 ボスの大男も、死んではいない。時として、殺さないことは殺すより意味のある行動となるからだ。

 放っておいたら死ぬだろうが、適切な処置をすれば助かるかもしれない。そう思わせることが重要で、実際、彼らはそのように行動した。

 数人がかりでボスを抱え、暗闇へ去っていく。



「そっちは?」


「16人居たが、誰も殺してない」


「……器用なことで」



 悲鳴が増え続けたのは、つまりそういうことだ。

 殺せば悲鳴を上げれない。なのに、悲鳴は一向に増えるばかり。つまり、死なない程度の傷をつけて、次の相手にも同じことを繰り返したということだ。

 そちらも、適当に逃げていることだろう。



「急いで馬車を出せ」



 アリシアは振り返り、行商人に向けてそう言った。

 彼らが本隊であったのは間違いないが、このままのんびりしていると、近くの盗賊グループと連携して大勢で襲ってくる可能性もある。

 今は合計30人程度だったからなんとかなったが、これが倍、数倍にもなると話は別だ。

 馬車を守って戦うことなど不可能になる。



「休まず行けば明け方にはフェムに着く」


「……だな。助かったよ、恩に着る。アンタはとりあえずその血をなんとかしてくれ。明るいところで見たくない」



 馬車に隠れていた女を呼び、返り血にまみれたアリシアを渡す。

 女の方が血への耐性があると言うが、流石に髪まで赤く染まってる人間を見るのは初めてだろう。小さな悲鳴が聞こえたが、聞かなかったことにする。



「あの娘、一体何者なんだ……?」



 行商人の男は、そう口にする。

 しかし、それに対する答えは持っていない。ただ確たる事実として、相当に強い。それだけは明確だ。



「さぁ……」


「アンタもアンタだよ。試射もしたことない銃を撃ったとは思えない手際だったぞ」



 マスケットは、射撃場で扱っただけ。

 VSSも、この世界に来てから1発しか撃っていない。射撃の玄人と言うには、あまりに少なすぎる経験だ。



「それに、その背中のは使わないんだな」



 行商人は、背負ったままのVSSのことを言っているのだろう。

 確かに、これは使わなかった。先程VSSを使っても、同じ結果は生み出せなかったから。

 銃は、音が必要なのだ。無音で誰かが倒されても、それが銃の仕業と分からなければ、先程のように盗賊の歩みを止めることはできなかった。


 爆音を鳴らし、撃ったことを相手に教える。それにより、1発目の威力を見せつけ、2発目の行方を辿らせる。

 それは、消音銃であるVSSでは不可能だ。

 そもそもの用途が違う。あの場で使うに適切な銃は、間違いなくミニエー銃だった。



「これを使ったら、今と同じ結果にはなりませんでしたよ」



 仮に同じ状況でミニエー銃がなかった場合、間違いなくVSSを使っていた。

 その場合の対処方法としては、とにかく沢山の盗賊を撃ちぬくだけ。弾は無駄に消費するし、発射音が聞き取れない盗賊達は、銃撃されたことも分からないだろう。

 同じようにボスを撃ちぬいたところで、それに気付く者は数人だ。何せ最後列を走っているのだから、直近のもの以外が気付かなくて当然。

 過半数を撃ち殺したところで、相手は気付かないかもしれない。盗賊の数以下の弾数しか持っていなかったのだから、全滅させるのは物理的に不可能。


 第一、このスコープの倍率では、50mより手前の物体を射撃することができない。

 スコープを外せば照門と照星を用いて狙うことができる距離でも、スコープは、そんなワンタッチで外せるほど単純な構造はしていない。

 そもそも、

 弾が無制限にあるという状況でも、ミニエー銃を選んでいた。仮にアリシアという加勢の存在がなかったとしても、その選択に変化はない。


 銃には、適材適所というものがある。そして、人にもだ。

 今のような遭遇戦は、不得手も不得手、任せるほうが間違っていると言わざるを得ない。

 全く、アリシアがあそこで切り込みに行かなければ、もう少しマシな作戦を立てれたものを。

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