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その銃弾1発で  作者: 衣太
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14/21

2

「気付いて、居たのか?」


「うん?」


「とぼけるな。さっきの、挟撃についてだよ」



 そう、アリシアが口を開く。

 彼女自身、少なからずショックを受けているようだ。どうするのが最善だったのかは分からなかったにせよ、自分の判断が間違っていたことを、理解している。


 馬車での移動中だ。戦闘をした2人は休んでいろと言う行商人の言葉に甘え、乗ってきた馬ではなく、馬車の荷台に乗せてもらっている。この荷台にも他にも数人居るが、自分達以外の皆眠っている。

 彼らは戦闘員ではない。巻き込まれてしまっただけの、民間人だ。

 先程の光景を、直接見たわけではない。それでも、聞こえたであろう。沢山の男達の悲鳴と怒号、そして、銃声を。

 精神的に疲れるのも、無理はないことだ。



「最初に言ったよ、囲まれてるって。その言葉を信じただけ」



 その答えは、半分嘘で半分本当。

 アリシアの言葉があったから迷わず馬車の裏に回れたのだし、彼女の言葉がなくとも、彼女の裏へ回っていた。

 命など金にならないものではなく、盗賊は積み荷を狙いに来ている。ならば、そちらを狙う方が合理的。

 大方正面部隊が時間を稼いでるうちに、裏から回った人員で積み荷を強奪する予定だったのだろう。ならば、そちらを守るのが優先される。

 当然の理屈だ。



「それは……まあ、そうか。私も不用心だった、すまない」


「……アリシアも反省することあるんだね」


「お前は人を何だと思っている?なら教えてくれ。あの時の私は、どうするべきだった?」



 上目遣い。

 純粋な疑問というわけだ。しかし、それに答えるにはこちらからも確認をする必要がある。



「最初に大きな金属音がなったけど、あれって、矢?」


「ああ、矢を弾いた。それがどうした?」



 それがどうしたときた。

 金属音の正体は、やはり弓矢。

 あの暗闇で、正確に叩き落としたというわけだ。銃より複雑な軌道を描く、矢を。

 今なら、『銃弾くらい叩き切れる』と言われても、信じてしまいそうだ。



「じゃあやっぱり、逆だった」


「逆?」


「さっきはアリシアが攻めに行って、俺が馬車を守った。その立場が、逆ってこと」



 逆。

 弓矢を平気で弾く人間が居るなら、射手の心配はしなくても良い。通常真っ先に落とすべき射手を放置し受けて、近づいてくる人間だけを止める。

 彼女は、待つべきだったのだ。



「私はあの場から動くべきではなかったと言うことか?なら、裏から回ってきたあいつらはどうする?」



 『最終的に勝てば良い』。一瞬、その言葉が浮かんだ。

 いつも、チームリーダーが言っていたこと。たった3年の付き合いでも、その言葉は何度も聞いたし、何度も何度も実践した。



「正面が落ち着くまでは、放置かな。どうせあの暗闇じゃ、あちらもどこに高価な荷があるかなんて分からない。それを探してる間に、後ろから撃つなり切るなりすれば良い」


「……それが、最善だと?馬車には女も乗っていた。女に危害を加える可能性は、考慮しなくて良いのか?」


「数人は怪我したかもしれないけど、殺されるほどじゃない。非戦闘員を殺すくらいなら、持って帰って売ったほうが何倍も得だ」


「結果を見れば、私は無傷で馬車も積み荷も女も無傷。私の選択以上に、それが正しいとは思えない」



 ……やはり、甘い。

 アリシアは分かっていない、この結果が、ただの偶然の産物でしかなかったことに。

 偶然とは、ミニエー銃があったことではない。

 盗賊の配置の、人数の、規模の、頭脳の、立場の問題だ。



「それは、結論から導き出した、妄想だ」



 彼女に圧され、つい口調が荒くなる。それでも、理解させるしかない。

 同じ状況に陥った場合、二度と同じ行動をされない為に。自分の、命を守るために。



「あの時、たった2発で十数人が止まったのは、偶然なんだよ。仮にボスがアリシア側に居たら、少なくとも俺は死んでた。たった2発の銃弾で、状況は変わらない」



 あの時歩みを止めることが出来たのは、こちら側にボスが居たから。

 馬車の裏から回った部隊に、ボスが居た理由だ。

 値踏み能力、目的のものを見つける能力は、立場が上に行くほど高くなる。当然のことだ。

 しかし、相手が何も考えていないただの馬鹿で、烏合の衆で、ボスなど存在しないグループだったら。アリシア側にボスが行った場合も、このパターンになる。

 その場合、数人死んだ程度で全員の歩みが止まるはずはない。


 彼らが一個のグループとして、統率が全く取れていなかった場合、1発だけでボスを判断することはできなかっただろう。あの大男を守るように数人が位置取りを変えたから気付いただけのことで、流石に、周りの男より大柄という見た目だけで、ボスと判断するのは不可能だ。


 前後で30人で挟む規模のグループではなく、100人単位のグループだったら。そこまで人数が居ると範囲が広くなり、円形に馬車を囲まれてしまう。それでは、2人で止めることなどできない。仮にボスを仕留めても、その情報が伝わるのには人数的な3倍ではなく、5倍、10倍の時間がかかるだろう。

 伝言ゲームでは、情報は伝わらない。


 もしも、あのボスが仲間から信頼されていなかったら。それを撃たれたのだから、我先に手柄を立てに来る可能性がある。元ボスを殺した相手の首を取ったものが、次期ボスになるのも自然なことだ。


 そう、全てが偶然。全てがこちらに有利に運んだから、アリシアの選んだ最悪の判断でも全員無事生還できただけのこと。


 自分の言葉では、彼女を納得させることができない。知識として知っていること、理解していること全てを他人に伝える能力は、指揮する者にしか与えられない能力だ。

 自分は、その器ではない。ただの兵で、駒で、狙撃手だ。



「上手く、言葉にはできないけど」


「……いや、良い。分かった」



 確実に、言葉は足りていない。

 しかし、アリシアもただ聞いているだけではない。彼女なりの解釈で、どうにか、納得に至ったのだろう。



「次からは、先に指示を出してくれ」


「りょーかい。まあ、次がないことを祈るけどね」


「それはそうだな。……少し眠る。何かあったら起こしてくれ」



 そう言うと彼女は横になり、寝息を立てて睡眠に入った。

 まるで一人は起きていろと言われているようだが、正直、この状態で寝れる気がしない。

 荒れ地を進む馬車は石を噛んで揺れに揺れるし、引いているのは電気やガソリンではなく、馬だ。常に一定の速度で進んでいるわけでもない。

 音も大きく揺れに揺れる車内で寝れるほど、身体は丈夫にはできていなかった。寝ずに居るのは、当然というか必然だ。

 馬車に乗った時の話では、朝にはフェムという町に着くようだ。どうやらそこが自分達と行商人の目的地のようだし、あと数時間、寝ずに居るくらいどうということもない。到着してから寝れば良いだけのことだ。



 幌を少し開けて荷台から顔をだすと、後方に馬が追走しているのが見える。

 自分とアリシアの乗ってきた馬に、今は行商人の中で手の空いてる者が乗ってくれている。この馬車で寝ることはできないが、身体を休めることはできる。馬に跨ったままの移動だと疲れるばかりで身体を休めることなどできないので、ありがたいことだ。


 野盗なり誰かが攻めてきたら、後続の彼らが教えてくれることだろう。

 幌を締め、先程使ったミニエー銃を掃除する。解体はできないので、千切った布を槊杖の先端に取り付け、銃身内部を拭く程度しかできないが。

 ほとんど光のない荷台ではあまり分からないが、相当に汚れていることが分かる。放つ前はここまで煤が出ることはなかったので、やはり、この銃で連発することは想定されていないのだろう。


 射撃後の銃身の加熱も相当だ。2発撃った後の銃身は、手が焼けるほどに熱くなっていた。

 水の入った桶にでも突っ込めば銃身は冷えるだろうが、急加熱と急冷却を繰り返すと、すぐに銃身が曲がってしまう。最終手段と思った方がいい。

 火薬の燃えカスで銃身内部が詰まってしまうことも考えられる。これは、火薬の純度が低いことが原因だろう。


 何にしろ、この世界の銃を扱うには、相当な工夫が必要だ。銃を複数持ってローテーションするなり、純度の高い火薬を使うなど方法はいくつか浮かぶが、どちらにしろそう簡単に行えることではない。

 VSSの弾丸が複製できないのならば、何かしら対策が必要となるわけだが。

 それは、下條理科に会ってから考えれば良いとも思える。ここから先、全く戦闘がないまま王都に着ければの話だが。

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