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潮を編む――滅んだ小領主の娘、唐土に売られ、海賊の妻となる  作者: ハタ星人


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第十三話 熊野の山伏

応永三十五年(一四二八)四月 紀伊水道・熊野灘


白磁が焼き上がったことで、贈答に使える品が、また一つ増えた。その報せを、行然に伝えたときのことだった。行然は、しばらく、考え込んでから、こう切り出した。


「殿、千代様。折り入って、御相談がござる」


「何でしょう」


「熊野の山中に、我らと同じ、南朝の縁を持つ者たちが、いまも、幾人か、身を潜めておると聞き及んでおり申す。表立って、こちらから使いを出せば、かえって、詮索の目を招きかねませぬ。ですが、贈答の船団であれば、疑いの目も、いくらか和らぎましょう」


その言葉に、わたしは、頭の中で、静かに算段を組んだ。焼き上がった白磁を、大山祇神社や熊野三山への贈答に使う。その名目のもとであれば、遠い熊野の地まで船を出しても、不自然には見えぬはずだった。


「承知いたしました。この機に、熊野三山への贈答も、あわせて、進めましょう」


弥九郎は、この機を逃さず、これまで手を伸ばしていなかった紀伊水道の先、熊野灘へと、船団を進めることに決めた。その道すがら、まず立ち寄ったのが、大三島の大山祇神社だった。


船が大三島の湊に着くと、島全体を包む、他とは違う気配に、わたしは、すぐに気づいた。鳥居をくぐる前から、参道の両脇に、古い楠の大木が、幾本も、天を突くように立ち並んでいた。その太さは、幹に手を回しても、とても届かぬほどだった。


「これほどの大木が、これほど並んでおるとは」


わたしが、そう漏らすと、案内に立った宮司家の家臣が、微かに笑った。


「この島の楠は、神代の昔から、伐られたことがないと伝わっており申す。それゆえ、瀬戸内の武家は、皆、この島を、格別なものとして敬うのでござる」


その言葉を聞きながら、わたしは、頭の隅で、数を組む自分の癖が、静かに動き出すのを感じた。楠は、船材として、これ以上ない木だった。虫に強く、腐りにくく、大船の竜骨にも耐える太さ。これほどの大木が、手つかずのまま、これほど並んでいる場所は、瀬戸内のどこを探しても、もう、他にはあるまい。もっとも、いまは、それを口に出す場ではなかった。神域の木に、値をつけて眺めるような真似は、この島の信心を、逆撫でするだけだった。この考えは、しばらく、帳の隅にだけ、そっと、しまっておくことにした。


拝殿へ通されると、案内の者が、宝物殿の一部を、特別に見せてくれた。並べられているのは、幾振りもの太刀、幾領もの鎧。いずれも、名のある武将が、戦に勝ったのちに、神への感謝として奉納したものだという。


「あの太刀は」


わたしが、そう訊ねると、家臣は、答えた。


「河野家歴代の御当主が、奉納されたものにござる。この瀬戸内で名を上げた武家は、いずれも、いつか、ここに、己の得物を納めることを、誇りとして参りました」


その光景に、わたしは、しばらく、言葉を失っていた。数えることに慣れた頭で見ても、この場所に積み重なった、幾百年もの信心の重みは、勘定では、到底、測れないものだった。正俊の鍛える刀も、いつか、この場所に並ぶ日が来るのだろうか——そんな考えが、ふと、頭をよぎった。


白磁の器を、宮司家へ贈ると、当主は、しばらく、その白さに見入っていた。


「唐物にも劣らぬ品と、お見受けいたす。この瀬戸内で、これほどの品が焼けるとは」


「新居郡は、いまや、こちらが治める身にござります。あの地の衆には、贈るというより、これから、共に、育てていく相手として、まずは、御目にかけとうござりました」


わたしが、そう答えると、当主は、深く頷いた。


「大山祇の神威は、この瀬戸内一円、いずこの武家も、一目置くところ。その神威に、みずから、頭を垂れに来られる律儀さ、忘れませぬぞ」


その言葉に、わたしは、深く、頭を下げた。数だけでなく、こうした信心の重みをも、味方につけておくこと。それが、この先、この一党が、伊予国内で確かな重みを持つための、また一つの足場になるはずだった。


「大山祇神社への贈答は、これで、確かな実を結びましょう。同じ遣り方が、熊野三山にも通じるはずにござります」


大三島を発つ船の上で、わたしが、そう説くと、弥九郎は、頷いた。


「熊野は、信心の厚い土地だと聞く。得の話が、そのまま通じるかどうか」


「まずは、様子を見に参りましょう。焦らずとも、よろしゅうござります」


船が大三島の岸を離れるとき、わたしは、ふと、先ほどの楠の話を、弥九郎に打ち明けた。


「殿。先ほどの、あの楠の森にござりますが」


「船材に、よさそうな木だとは、俺も、思うた」


「はい。ですが、いまは、まだ、手を出すべき時ではござりませぬ。あの島との縁が、ただの贈答だけの間柄では、神域の木に、指一本触れることも許されますまい」


「では、いつなら、よい」


「あの家と、血の縁が結ばれてこそ、にござります。婿にせよ、嫁にせよ、身内となった相手になら、少しずつ、御神木の外れの、間引きにあたる分だけを、譲っていただく、という話も、通しやすうなりましょう。神域そのものを削るのではのうて、あくまで、あちらの木の手入れを、こちらが手伝う、という形にて」


弥九郎は、それを聞いて、微かに笑った。


「まだ縁組の話すら、はきとはしておらぬのに、もう、その先の木の勘定まで、組んでおるのか」


「殿。木は、逃げませぬ。急いては、なりませぬ」


その言葉に、弥九郎は、声を立てて笑った。この着想は、まだ、誰にも語らず、ただ、わたし自身の帳の隅にだけ、そっと、書き留めておくことにした。


---


熊野灘に入って三日目、こちらの船団は、見慣れぬ一党の船に、行く手を阻まれた。


「何者だ」


物々しい構えで、先方の頭らしき男が、そう誰何した。歳の頃、四十がらみ。潮に焼けた顔に、鋭い眼光を宿していた。


「伊予国、河野方が家臣、二神定海と申す。熊野三山への贈答を携え、参上いたした」


弥九郎が、そう名乗ると、男は、しばらく、こちらの船団を、値踏みするように眺めていた。


「忽那諸島の一党か。噂は、遠く紀伊の地にも届いておる。村上一党と手を結び、因島・能島・来島を固め、瀬戸内を厚く固めておるとか」


「よう、ご存じで」


「熊野水軍の、鈴木重家と申す。この海を守る身にて、よそから来る船の噂は、常に、頭に入れておかねばならぬ」


その男は、そう名乗り、道を空けた。荒瀬弥九郎の名は、既に、この遠い海にまで、届きはじめていた。


「これほど遠くまで、名が届いておるとは、正直、驚きにござります」


わたしが、そう言うと、弥九郎は、少し複雑な顔をした。


「名が届くのは、悪いことではない。だが、届いた分だけ、狙われる目も増えよう」


「はい。大きくなるほど、狙われる。忘れてはおりませぬ」


「その台詞も、もう、何度目だ」


「幾度でも、申しまする」


その遣り取りに、周りにいた水夫たちが、微かに笑った。船団の中でも、こうした軽口は、いつのまにか、皆の耳に馴染んだ、日常の一部になっていた。


熊野水軍の頭に案内され、湊に船を寄せる道すがら、わたしは、この海域の潮の流れを、丁寧に書き留めた。瀬戸内とは、また違う荒々しさを持つ潮だった。いずれ、この海を、幾度も行き来することになるなら、その癖を、確かに知っておく必要があった。


---


熊野水軍の男の口利きで、わたしたちは、熊野三山の関わりある山伏の一人に、まず引き合わされた。


「熊野三山への、供物と心得よ」


わたしは、そう言って、白磁の器と、島で焼いた塩、そして幾反かの絹を、山伏の前に並べた。


山伏は、白磁の器を、しばらく、無言で見つめていた。


「これほどの品を、初めて見申した」


「唐物には、まだ、いくらか及びませぬが」


「いや、この白さ、この滑らかさ。並の品ではござらぬ」


山伏は、そう言って、深く頭を下げた。


「参詣路の普請、造営の費え、いずれも、我らだけでは、なかなか賄いきれぬところがござる。此度の御厚志、まことに、ありがたく存ずる」


---


その帰り道、わたしたちは、熊野水軍の頭の館に、招かれた。


「せっかくの縁じゃ。ゆるりと、休んでいかれよ」


酒宴の席で、頭は、そう言って、こちらをもてなした。話が進むうち、頭は、ふと、思い出したように、こう切り出した。


「そういえば、この近くに、少々、変わった鍛冶場がござる」


「変わった、とは」


「伊勢から流れてきた刀鍛冶でな。楠木公の御一族の血を引くという伝承を、密かに持っておる男だ。腕は、確かなものだと聞くが、いまだ、世に出ることなく、山中の隠れ里で、細々と鍛えておるらしい」


その一言に、わたしは、頭の奥で、何かが、微かに震えるのを感じた。


---


「楠木公の御一族、にござりますか」


わたしは、そう訊ねた。


「表向きには、名乗れぬ血筋だ。だが、その筋の者たちを、幾人か、この熊野の山中でも、匿うておる。仏門の縁もあってな」


その話に、わたしは、既に島で匿っている久蔵たちの一族——北条残党の血を引く、あの隠れ里の者たちのことを、思い出さずにはいられなかった。


頭は、しばらく、声を落としてから、さらに続けた。


「これは、迂闊に、外へは漏らせぬ話だが……近ごろ、都を出奔されたとかいう、小倉宮様の御一行が、この紀伊の山中に、身を潜めておられるとの噂もある。表沙汰にはなっておらぬが、この界隈の山伏・修験者のあいだでは、既に、知れ渡っておる話でな」


その一言に、わたしは、頭の奥で、行然の、あの遠い日の言葉を、思い出した。「その務めは、楠木公お一人の代で、終わったわけではござらぬ。それがしどもは、いまも、同じ務めを、密かに負い続けており申す」。あのとき、行然が、それ以上は語らなかった務めの先とは、あるいは、この小倉宮の御一行に連なるものだったのかもしれなかった。


「知って、どうにかなる話でもあるまい。ただの、山の噂話にて。他言は、無用に願いたい」


頭は、そう釘を刺した。


「かたじけのう存じます。深くは、詮索いたしませぬ」


わたしは、そう答えながら、頭の中で、静かに数を組みはじめた。この熊野の縁、そして、島の隠れ里。どちらも、表向きは、ただの弱き者への慈悲として扱ってきた。だが、その根の深いところには、いずれ、この一党の勘定だけでは測りきれぬ、大きな政の火種が、静かに眠っているのかもしれなかった。


「その刀鍛冶、名は」


「正俊、と名乗っておる。だが、近ごろは、鍛えた刀の銘に、また別の字を切りはじめたと聞く」


「別の字、とは」


「村正、という銘だそうだ」


その名を聞いた瞬間、わたしの頭の奥で、先ほどよりも、はっきりとした震えが走った。村正。前の生で、どこかで、確かに聞いたことのある響きだった。だが、どこで、どういう形で聞いたのかは、まるで思い出せなかった。ただ、この名が、いずれ、何か大きな意味を持つものとして、遠い記憶のどこかに、刻まれている気がしてならなかった。


---


思い出せないものを、頼りにはできない。それでも、この名だけは、頭の隅に、静かに留め置いた。


「その刀鍛冶に、会うてみとうござります」


わたしが、そう申し出ると、頭は、少し驚いた顔をした。


「刀に、御興味が」


「島の一党にも、いずれ、良き武具が要りましょう。腕のある鍛冶師とあらば、一度、お目にかかりたく存じます」


翌日、案内を得て、山中の隠れ里へと、足を運んだ。


木々の合間、谷を下った先に、小さな鍛冶場があった。炭を熾す音と、鎚を打つ音とが、絶え間なく響いていた。


---


「千子正俊にござる」


その男は、四十がらみ、痩せた体つきに、鋭い目をしていた。両手には、幾つもの火傷の痕が、刻まれていた。


「熊野水軍の頭より、御高名を伺いました」


「高名というほどのものではござらぬ。世に出ることのできぬ身にて」


正俊は、そう言って、微かに笑った。その笑い方には、どこか、久蔵の一族の者たちと、よく似た翳りがあった。日の当たらぬ場所で、幾代も、静かに生き延びてきた者だけが持つ、独特の翳りだった。


「隠れ里の暮らしは、長いのですか」


わたしが、そう訊ねると、正俊は、頷いた。


「物心つく前から、ここで育ち申した。父も、祖父も、同じ里で、同じ鎚を振るって生きて参った」


「表に出たいと、思われたことは」


「幾度も。だが、表に出れば、命を狙われる。伝承ゆえの、重い足枷にござる」


「楠木公の血を引くという伝承を、お持ちだとか」


「伝承、にすぎませぬ。真か偽かは、それがし自身、確かめる術を持ちませぬ。ただ、幼き頃より、そう聞かされて育ち申した」


その言葉に、わたしは、頷いた。真偽よりも、その伝承を背負って生きてきたという、その事実のほうが、重い意味を持っていた。


---


正俊の鍛冶場には、幾振りかの刀が、静かに並べられていた。


「これらの銘は、いずれも」


「村正、にござる」


「なにゆえ、その銘を」


正俊は、少し間を置いてから、答えた。


「『村』は、それがしが育った、この隠れ里の意にござる。『正』は、楠木公の御一族に、代々伝わる通字。この二つを合わせ、いずれ、それがしの技が、世に恥じぬものになったとき、堂々と名乗れる号として、選び申した」


その語りには、隠れ里で、名も名乗れぬまま生きてきた者の、静かな誇りが滲んでいた。


「いずれ、この名が、どこかで、大きく響く日が来るやもしれませぬな」


わたしは、そう言った。自分でも、なぜ、そんな言葉が口をついて出たのか、分からなかった。ただ、頭の奥の、あの微かな震えが、そう言わせた気がした。


正俊は、その言葉に、少し戸惑った顔をしたが、やがて、深く頭を下げた。


「そう仰っていただけるなら、この上ない、励みにござる」


---


「弥九郎殿の一党にて、お抱えいただくことは、叶いましょうか」


正俊は、そう申し出た。


「隠れ里では、腕を存分に振るう場が、限られており申す。日の当たる場所で、鍛冶場を持ちとうござる」


正俊の鍛冶場を、あらためて見て回ると、隅に、まだ鍛えかけの刀身が、幾つも置かれていた。


「これらは、まだ、銘を切っておられぬのですか」


「銘を切るには、それがし自身が、まだ、恥じぬ出来だと思えねば、切れませぬ。この隠れ里で鍛えたものの多くは、まだ、その域には届いており申さぬ」


その言葉に、わたしは、正俊という男の、職人としての厳しさを、あらためて感じた。数を鍛えることよりも、一振りへの恥じぬ出来を、何より重んじる質だった。


「弥九郎殿の一党で鍛える刀には、いずれ、その銘を、堂々と切っていただきとうござります」


「そう仰っていただけるなら、これほど、励みになることはござらぬ」


正俊は、そう言って、深く頭を下げた。


「異存はござらぬ。ただ、一つ、お伝えしておきたきことが」


わたしは、そう続けた。島を発つ前、弥九郎と、こんな話をしていた。十兵衛の稽古が進むにつれ、腕のよい鍛冶師の要る場面が、これまで以上に増えていた。心当たりとして名が挙がったのが、刀の一大産地として知られる、備前長船だった。既に、六郎太を通じて、幾度か、文を送らせている最中だった。その経緯を、わたしは、正俊に、正直に明かすことにした。


「実は、島には、既に、備前長船の技を持つ者を、いずれ迎えたいと思うておりまする。長船の技と、貴殿の技とは、流儀が、大きく異なるやもしれませぬ」


正俊の顔に、微かな険しさが浮かんだ。


「長船、にござるか。あちらは、幕府方の御用も務める、量を鍛える技。それがしの技とは、確かに、水と油やもしれませぬ」


「それでも、構いませぬか」


正俊は、しばらく考えてから、静かに頷いた。


「水と油であろうと、同じ島の中で、同じ鎚を振るう仲間にござる。やってみねば、分かり申さぬ」


「有難きお言葉にござります」


「ただ、一つだけ、お約束いただきたい」


「何なりと」


「それがしの技を、無理に、長船の型へ、寄せようとはなさらぬこと。流儀の違いは、いずれ、力になると仰った。その言葉を、忘れずにいていただきたい」


その言葉に、わたしは、深く頷いた。


「お約束いたしまする」


正俊は、それを聞いて、初めて、心からの笑みを浮かべた。長く、日の当たらぬ場所で生きてきた男の、その笑みには、ようやく見えはじめた光への、確かな期待が滲んでいた。


---


山を下りる道すがら、案内の山伏が、ふと、こう漏らした。


「正俊殿は、あれで、なかなか、頑固なところがおありでな。里の者とも、時折、揉めておられる」


「頑固さがなければ、あれほどの一振りは、鍛えられますまい」


「それは、まさに、そのとおりにござる」


山伏は、そう言って、微かに笑った。


帰りの船の中で、弥九郎に、この日のことを、詳しく伝えた。


「楠木公の血を引く刀鍛冶、か」


「はい。腕は、確かなものと存じます。だが、いずれ、長船から迎える鍛冶師と、幾度か、衝突するやもしれませぬ」


「衝突するなら、させておけばよい。その先に、何か、良きものが生まれるかもしれぬ」


弥九郎は、そう言って、少し笑った。


「殿は、いつも、そう仰いますね」


「これまで、幾度も、そうやって、良きものが生まれてきたであろう」


その言葉に、わたしは、深く頷いた。


---


夜、船倉で、紙を広げた。


熊野三山、大山祇神社と同じ遣り方にて、贈答はじめる。熊野水軍、道を開く。刀鍛冶・千子正俊、召し抱えることに決す。銘に「村正」と切ると聞く。この名、頭の奥に、微かな震えあり。理由は、いまだ、思い出せず。


書き終えて、しばらく、その一行を見つめた。前の生の記憶というものは、いつも、こうして、はっきりとした形を持たぬまま、頭の隅に、ちらつくだけだった。この名が、いつか、何を意味するようになるのか。いまのわたしには、まだ、知る由もなかった。


船の外では、四月の潮風が、まだ、いくらか冷たく吹いていた。弥太郎の泣き声が、船室の奥から、微かに聞こえてきた。乳母の腕に抱かれ、あやされている様子だった。この子が育つ世に、この名は、いったい、どんな形で、刻まれていくのだろうか。


答えの出ぬ問いを、わたしは、そっと、帳の隅に置いた。


翌朝、船が、怒和島の湊に戻ると、太郎丸と次郎丸が、真っ先に、駆け寄ってきた。


「刀鍛冶を、二人も、お迎えになるとか」


太郎丸が、興味津々の様子で、そう訊ねた。


「まだ、一人だけだ。もう一人は、これから、来ることになろう」


弥九郎が、そう答えると、次郎丸が、少し不安げな顔をした。


「窯場の隣に、鍛冶場を作ることになりましょうが、火事だけは、くれぐれも、気をつけねばなりませぬな」


「それは、確かに、案じねばならぬ」


わたしは、そう頷きながら、頭の中で、島の地図を、あらためて思い描いた。窯場、鍛冶場、そして、これから増える職人たちの住まい。島の限られた土地に、どう配置していくか、また一つ、新たな算段が要りそうだった。


正俊の移住は、それから、ひと月ほどのちに整えられた。隠れ里から運び出す道具は、思いのほか多く、伊佐次が、幾度も、船を往復させた。


「これほどの道具を、よくぞ、あの山中で、持ち堪えてこられたものにござる」


伊佐次が、そう感心すると、正俊は、微かに笑った。


「道具だけは、何より、大事に守って参り申した。腕は、いつか鈍っても、道具さえあれば、また、鍛え直せまするゆえ」


その言葉に、伊佐次は、深く頷いた。

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