第七話 鍬を持つ兵
応永三十四年(一四二七)八月 伊予国 怒和島 下怒和
伊佐次が、久方ぶりに、あの話を持ち出したのは、暑さの盛りを、いくらか過ぎたころだった。蝉の声が、まだ、庭先から絶え間なく響いていた。
「常備兵の残りのこと、いかがいたしましょうか」
わたしは、帳面から顔を上げた。
「五十から百、という枠に収まらなんだ者たちのことか」
「さようにござります。あれから、志願する者は、なお増え続けており申す。いまでは、百五十を超えており申す」
その数字に、わたしは、しばらく手を止め、頭の中で、算段を組み直した。以前、次男・三男を陸の兵力とする方針を定めたとき、養える数の限りとして、五十から百という枠を切った。だが、島々の暮らしが豊かになるにつれ、子が無事に育つ家が増え、継ぐ田を持たぬ次男・三男の数も、思っていたより早く殖えていった。しかも、この一党に仕えれば、食い扶持と身の立てようが得られると聞こえる。志願する男たちの数は、その枠を超えていった。豊かになったことが、かえって、新たな悩みの種を生む。数を扱う仕事には、いつも、そういう皮肉がついて回った。
「残りの者たちは、いつまでも、宙ぶらりんにしておくわけにもいくまい」
「はい。既に、幾人かは、待ちくたびれて、他所へ渡りを求めた者もおるとか」
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「他所へ渡った者は、戻れるか」
「まだ、間に合いましょう。渡ったばかりで、根を張るところまでは至っておりますまい」
「呼び戻すか」
「呼び戻せる者は、呼び戻したく存じます。ですが、無理強いはいたしませぬ。既に、他所で身の置き場を得た者には、それもまた、一つの生き方にござります。無理に連れ戻せば、かえって恨みを買いましょう」
伊佐次は、それを聞いて、深く頷いた。
「承知いたしました。心当たりのある者から、あたってみましょう」
その日の夕刻、弥九郎と、あらためて、この一件を話し合った。
「新居郡を得たいま、あの土地こそが、答えになりましょう」
わたしは、そう切り出した。
「屯田兵、という話か」
「はい。以前、いずれと申し上げた、あの先送りにござります。新居郡周辺の土地が、いま、こちらの手にある。残りの志願者を、まとめて、この土地へ送り出しとうござります」
弥九郎は、腕を組んで、しばらく考えていた。
「兵でありながら、田も耕すということか」
「さようにござります。普段は畑を耕し、いざとなれば武具を取る。数を養う費えを、田の実りで、いくらか賄えましょう。銭だけで養う常備兵とは、また違う型にござります」
「金子の家が絶えた、あの土地にか」
その問いに、わたしは、少し息を止めた。
「はい。あの土地に」
「悼むべき土地だと、俺は言うたな。そこへ、こちらの都合で、兵を送り込むのか」
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弥九郎の問いには、これまでにない、重い響きがあった。わたしは、しばらく、言葉を選んだ。
「殿の、その悼みと、この身の勘定とは、矛盾いたしませぬ。荒れたままにしておくほうが、正しく数えるという、こちらの筋にも、そぐいませぬゆえ」
「立て直す、か」
「田畑を耕す手が増えれば、荒れた土地も、また実りを取り戻しましょう。人が住み、田が青々と茂る。それが、殿の仰る悼みにも、こちらの勘定にも、両方、かなう道にござります」
弥九郎は、それを聞いて、しばらく黙っていたが、やがて、深く頷いた。
「お前の言うことは、いつも、筋が通っておる。だが、時折、その筋の通し方が、恐ろしくもある」
「恐ろしゅうござりますか」
「ああ。悼みながら、同時に、しかと使う。並の者には、できぬ芸当だ」
その言葉に、わたしは、何と返してよいか、しばらく分からなかった。
「殿は、この筋の通し方を、恐ろしいと思われますか」
わたしは、思い切って、そう訊ねてみた。
弥九郎は、しばらく、こちらの顔を見つめていた。
「恐ろしいと申したが、恐れているわけではない。ただ、お前のような考え方は、俺には、生涯、できぬだろうと思うただけのこと」
「できぬほうが、良いのかもしれませぬ」
「なぜだ」
「殿のような、まっすぐな情のほうが、人はついてまいります。わたくしの筋の通し方だけでは、いずれ、人の心が離れましょう」
弥九郎は、それを聞いて、少し驚いた顔をした。それから、声を立てて笑った。
「珍しく、弱気なことを申すな」
「弱気ではござりませぬ。ただの勘定にござります」
その遣り取りに、二人とも、しばらく、笑い合った。
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それから数日のうちに、屯田兵として送り出す者たちの人選を進めた。伊佐次が、志願者の名簿を、あらためて検めていく。
「腕に覚えのある者、田仕事に慣れた者、両方が要りましょう」
「はい。片方だけでは、いずれ、立ち行かなくなります」
名簿には、様々な男たちの名が並んでいた。若い次男・三男だけでなく、彦次の旧手下たちの中にも、幾人か、志願する者がいた。中には、既に妻子を持つ者、島の暮らしに見切りをつけて、新天地を求める老いた漁師も混じっていた。
「歳を召された方も、おられるのだな」
弥九郎が、名簿を覗き込みながら、そう漏らした。
「はい。田を耕す力は、若さだけでは測れませぬ。長年、土と向き合うてきた者の勘は、若い者にはない値打ちがござります」
「なるほどな」
わたしは、そう答えながら、名簿の一つ一つの名に、目を通していった。数だけでなく、その一人ひとりの顔と、これまでの来し方とを、できる限り思い浮かべながら、人選を進めていく。それが、これまで、この一党を支えてきたやり方だった。
「彦次殿の手の者も、行かせるのか」
弥九郎が、そう訊ねた。
「本人が望むならば。彦次殿自身は、この島に残って、常備兵の古参として、若い者を束ねてほしいと思うており申す。ですが、その配下の中には、いま一度、自分の田を持ちたいと望む者もおりましょう」
彦次を呼び、そのことを直に訊ねると、彦次は、深く頭を下げた。
「それがしは、ここに残り、殿のため、姐さんのために、働き申す。ですが、手下の幾人かが、新居郡へ渡りたいと申すなら、止めはいたしませぬ。あれらも、いつまでも、渡り者のままではおられますまい」
その言葉に、わたしは、深く頷いた。かつての敵が、いまでは、こうして、自分の手下の行く末までも、この一党の都合に合わせて、静かに差配している。その変わりようを、あらためて、じっくりと噛みしめた。
「彦次殿御自身は、新居郡へ渡りたいとは、思われませぬか」
わたしは、ふと、そう訊ねてみた。彦次は、少し考えてから、首を振った。
「渡りとうはござりませぬ。それがしは、もう、田を耕す歳でも、根を張り直す歳でもござりませぬ。ここで、若い者を束ねることこそが、いまのそれがしの役目にござろう」
「七年、流れ続けた末に、ようやく、落ち着ける場所を得られたのですね」
その言葉に、彦次は、しばらく、黙っていた。それから、深く頭を下げた。
「姐さんと、殿のおかげにござる。この恩は、忘れませぬ」
その姿を見ながら、わたしは、かつて鵜の子の入江で退けた、あの若かった頭のことを、遠い記憶として思い出していた。あの日、この男を完全に潰していれば、いまのこの光景は、決してなかった。潰さず、退けるに留めたことの意味を、あらためて、静かに噛みしめた。
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いよいよ送り出す日、湊には、幾十人もの男たちが集まっていた。皆、それぞれに、鍬と、わずかな武具とを、荷にまとめていた。
送り出す前、伊佐次を呼び、あの土地に何を植えさせるかを、あらためて詰めた。
「米と麦だけでは、いずれ、豊作の年も不作の年も、同じだけ、危うさを抱えることになる。銭に換わる作物を、もう一つ、加えとうござります」
「銭に換わる作物、とは」
「新居郡の、あの砂気の多い浜辺の土地。米にはやや向かぬが、綿花には、むしろ、都合がよいはず。花が開いたあと、白い綿毛を摘み、種を除いて、糸に紡げる」
伊佐次は、少し、怪訝な顔をした。
「綿、にござりますか。唐物として、いくらか見たことはござりますが」
「唐土からの舶来品にて、いまは、この国では、まだ、ろくに作られておらぬ。だが、育てば、木綿の布は、麻よりも肌に馴染み、帆にも、綿入れの防寒着にも、使い道は広い。米が不作の年でも、これがあれば、銭に換えられる」
「されば、試しに、一区画だけ、あの土地に蒔かせましょう」
「はい。まずは、小さく試し、育つと分かれば、少しずつ広げていく。急いては、しくじりまする」
「もう一つ、藍も、育てさせとうござります」
わたしは、そう続けた。
「藍は、既に、あちこちで作られておると聞き及びますが」
「はい。藍そのものは、目新しゅうはない。だが、木綿の布を、藍で染めれば、丈夫な帆にも、野良着にも、化けまする。育てるのは、綿花より、よほど、この国の土に馴染んでおる」
伊佐次は、それを聞いて、深く頷いた。
「されば、綿花と、藍と、両方、あの土地に、試させましょう」
「もう一つ、加えとうござります」
わたしは、そう続けた。
「まだ、何か」
「蜀黍という、唐土渡りの、丈の高い雑穀にて。米にも麦にも向かぬ、痩せた土地、乾いた土地でも、よう育つ、生命力の強い穀物と聞き及びます。この島にも、瀬戸内の、いずれかの島にも、田には向かぬ、そういう土地が、まだ、幾つも余っておりましょう」
伊佐次は、少し、考えるような顔をした。
「雑穀にござりますか。味は、いかがなもので」
「渋みが、いくらか、あるとのこと。米には劣りましょう。ですが、日照りの年、不作の年でも、この穀物だけは、確かに実る。備えの糧として、蓄えておく値打ちがござります。それに」
「それに」
「実を、馬にも、食わせられる。この一党には、いずれ、馬が要り申す。その日のための、下拵えの一つとして、いまから、育てておいて、損はござりませぬ」
伊佐次は、深く頷いた。
「されば、これも、試しに、蒔かせましょう」
「もう一つ、頭に、留めておいてほしいことがある」
わたしは、そう続けた。
「まだ、何か」
「あの土地の水だ。新居郡には、山からの伏流の湧く場所が、幾つもあると聞く。試しに、酒に詳しい者を、一人、招いてみたい。その者の下に、拾い集めた孤児の幾人かを、弟子として付けたい」
伊佐次は、少し、意外そうな顔をした。
「弟子には、孤児を、にござりますか」
「良き水があれば、良き酒が生まれる。だが、それだけでは、足りぬ。作り方そのものに、いずれ、手を加えねばならぬ日も、来よう。名のある蔵元で育った職人では、代々の型に凝り固まり、そういう手直しには、素直に従うまい。だが、拾われた子らなら、たとえ、腹の内に、いくらか疑念を抱いたとしても、拾われた恩義ゆえに、こちらの言うことを、素直に聞き入れよう」
その先の狙いまでは、まだ、伊佐次には明かさなかった。頭の中では、既に、いつか、この島の誰も知らぬ知恵を、あの子らに授ける日のことを、静かに、思い描いていた。木綿も、藍も、そしてこの酒も、いずれ、この一党の誰かに、常識はずれの手を託さねばならぬ日が来る。そのとき、素直に従える手を、いまのうちから、育てておかねばならなかった。
「されば、心当たりを、あたってみましょう」
伊佐次は、そう請け合った。この提案の真意までは、まだ、正しくは測りかねているようだったが、それでも、深く頷いた。
「新居郡に着いたら、まずは、田畑を立て直すことに、力を注げ。武具は、いざというときのためのもの。日頃は、鍬を振るうことが、そなたたちの仕事だ」
わたしは、集まった男たちに、そう告げた。
「兵と申されても、いくさばかりが仕事ではないのですか」
若い男の一人が、不思議そうな顔で、そう訊ねた。周りの男たちも、同じ疑問を抱いているのか、こちらの答えを、じっと待っていた。
「いくさばかりが仕事の兵は、いくさのない日には、ただの食い扶持を食う者に成り下がる。田を耕せる兵であってこそ、いくさのない日々も、この島の力になれる」
その答えに、男たちは、それぞれ、神妙な顔で頷いた。
「具足は、田の隅に、いつでも手の届く場所に、置いておくがよい」
わたしは、そう続けた。
「狼煙が上がれば、鍬を投げ出し、その場で具足を纏い、槍を取る。田を守ることと、殿の御用に応じることとを、別のものと思うな。あの田も、この一党が守っておればこそ、耕し続けられる田じゃ」
その言葉に、一人の年嵩の男が、深く頷いた。
「己の田を守るためと思えば、なるほど、腰の入り方も、違うてまいりましょう」
「さよう。銭で雇われただけの兵より、よほど、粘り強う戦えるはずじゃ」
わたしが、そう答えると、伊佐次も、深く頷いた。
その輪の外れに、幸松と亀吉が、並んで立っていた。二人とも、まだ、この兵たちを率いる歳ではなかったが、十兵衛の指南を受けはじめてから、こういう場に立ち会うことを、当たり前のように求めるようになっていた。
「お二人も、いずれ、こういう男たちを率いる日が来る」
わたしが、そう声をかけると、幸松は、真剣な面持ちで頷いた。
「まだ、遠い先の話にござりましょうが」
「遠くはない。数えてみれば、案外、すぐそこにある」
亀吉は、何も言わず、ただ、湊に集まった男たちを、じっと見つめていた。その目には、既に、何かを数えようとしている色が、微かに浮かんでいた。
「亀吉は、何を、そう見ておる」
わたしが、そう訊ねると、亀吉は、しばらく黙っていたが、やがて、静かに口を開いた。
「あの男たちの中で、誰が、鍬を振るうのが得意で、誰が、武具を扱うのが得意か。それを、見分けようとしており申した」
「見分けて、どうする」
「いずれ、それがしが指図する立場になったとき、その見分けが、役に立ちましょう」
その答えに、わたしは、少し驚いた。まだ幼さの残る顔立ちの奥に、既に、指揮官としての目が、静かに育ちはじめていた。
「幸松は、何を見ておった」
「それがしは、男たちの顔を見ており申した。皆、不安と、期待とが、入り混じった顔をしておりました。その心持ちを、汲み取れる者でありとうござります」
二人の、それぞれ違う視点が、わたしには、どちらも、確かな値打ちのあるものに思えた。数を読む目と、人の心を読む目と。この二つが、いずれ、一つの指揮官の中に、共に育っていけば、それは、この一党にとって、かけがえのない財産になるだろう。
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郷田十兵衛も、この日、わざわざ湊まで見送りに来ていた。
「十兵衛殿にも、これから折に触れ、あの土地へ渡っていただき、稽古をつけていただきとうござります」
わたしが、そう頼むと、十兵衛は、集まった男たちの顔ぶれを、一人ずつ、値踏みするように見渡してから、深く頷いた。
「なるほど。腕に覚えのある者も、田仕事に長けた者も、それぞれに、混じっておるようじゃな。どちらも、鍛えようによっては、確かな兵になり申そう」
「承知いたした。田を耕す者にも、いざというときの構えは、要り申す。忘れぬよう、幾月かに一度は、渡ることにいたそう」
「かたじけのう存じます」
「なに、儂も、久方ぶりに、体を動かす稽古相手が増えるのは、悪い話ではござらぬ」
十兵衛は、そう言って、微かに笑った。この浪人が、この一党に加わってから、まだ一年に満たない。だが、既に、この島の兵の骨格を、確かに支える柱の一つになっていた。
「十兵衛殿には、いくら感謝してもし足りませぬ」
わたしが、そう言うと、十兵衛は、少し照れたように、目を逸らした。
「なに、儂とて、腰を据える場所を得られたのは、ありがたいことにて。恩を返しておるだけのこと」
「屯田兵の稽古は、常備兵の稽古とは、また、勝手が違いましょう」
「さよう。田を耕す傍らでの稽古ゆえ、時も限られる。だが、限られておるからこそ、無駄のない教え方を、こちらも工夫せねばなりませぬ。かえって、良い鍛錬になり申そう」
十兵衛の、そういう前向きな物言いに、わたしは、いつも、助けられていた。
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船が、湊を離れていく。見送る人々の中には、家族と別れを惜しむ者、涙を堪えて手を振る老いた母、これから始まる新しい暮らしに、不安げな顔をする者、様々な表情があった。
その光景を、しばらく、黙って見つめていた。眺めながら、わたしは、頭の中で、これまでの道のりを、あらためて数え直していた。次男・三男を陸の兵力にするという話が持ち上がってから、幾月もの時が流れた。倭寇として迎え入れようとする案を諫め、常備兵として五十から百人の枠を切り、養えぬ残りを、いずれはと先送りにしてきた。その先送りが、ようやく、こうして一つの答えを得た。
館へ戻ってから、灯を消す前に、帳に、その日のことを書き記した。
屯田兵、新居郡へ送り出す。彦次殿の配下、幾人か同行。十兵衛殿、折に触れ稽古をつけると約す。陸の兵力の骨格、ひとまず定まる。
書き終えて、しばらく、その一行を見つめた。長く先送りにしてきた課題の一つが、ようやく形になった。だが、この兵たちが、あの因縁の土地で、確かに根を張っていけるかどうかは、まだ、誰にも分からなかった。
弥九郎が、隣の部屋から、静かに渡ってきた。
「今日、送り出した男たちのことを、まだ考えておるのか」
「はい。あの者たちが、あの土地で、確かに根を張れるかどうか。それを、まだ、案じており申す」
「案じてばかりでは、身が持たぬぞ」
「分かってはおり申す。ですが、送り出したからには、その先まで、見届ける責めがござります」
弥九郎は、それを聞いて、少し笑った。
「お前は、いつも、そうやって、自分の背負う荷を、勝手に増やしていくのだな」
「増やさねば、この一党は、成り立ちませぬ」
「それも、分かっておる。だが、たまには、荷を下ろす日があってもよかろう」
その言葉に、わたしは、少し、心が緩むのを感じた。数えることをやめる日は、まだ、遠い先のことだった。それでも、こうして、隣で、その荷の重さを分かってくれる者がいることが、いまのわたしにとって、何よりの支えだった。
外では、夏の終わりの風が、湊の匂いを、静かに運んでいた。窓の外に広がる夜空を、しばらく、二人で、黙って見つめていた。星の瞬きが、いつもより、ゆっくりと感じられた。
明日には、また、新しい算段が幾つも待っている。別子の出水、境目の後始末、そして、まだ見ぬ、次の課題。それでも、今宵だけは、この静けさに、しばらく身を委ねていたかった。




